新入生諸君へ | gab-log

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経済学に無知なることは罪ではない.しかし無知なるままに経済問題を声高に論じることはまったく無責任であるといえる.(ロスバード)

TwitterID 男前先生 @_dt4u / 所属機関組織に無関係の個人としての不定期落書き / すべては良識に基づきます

 日本では景気対策,コロナ対策などの名目で超低利長期融資が継続されている。

 実は前者は安倍首相・黒田日銀総裁が足並みを揃えて実施した(アベノミクス)リフレーション政策であり,経済学的には「麻薬」にあたる。もちろん発行されたのは日本円だ。

 

 ここにきてUSは過剰な流動と国内インフレの対策として米ドル措置として利上げを実施した。現状からはUSの利上げは短期的なものになるとは考えにくい。

 その一方で日本は莫大なカネを市場に投下したものの,需要は戻らなかった。(流動性の罠)

多くは企業が存続するための内部留保に回ってしまったためだ。日本円はダブついているが,結局は市場に還流していないということになる。

 

 日銀の国債引き受けはもう限界に達している。そのため資源通貨である米ドル高は日本経済にとってマイナスとなる。そして世界的な半導体不足により輸出も滞っており,貿易赤字が現出した。が,資源需要は変わらないのでコストプッシュインフレが現実のものとなっている。

 

 最善の手は日銀による利上げだが,これはもう望めない。肝心の日銀そのものが債務超過に陥る可能性が高いためだ。これが「麻薬」の反作用である。

 当然ながら日銀の債務超過不安は日本円売りに直結するため,先物売りとしてここ2ヶ月の円のオーバーシュートが起こっている。”通貨はいくらでも発行できる理論”は破綻する。

 

 デフレ化における利上げは深刻な景気後退を覚悟しなければならず,一方で日銀の余力も一杯になっているから通貨としての信用不安が生じるのは必然だ。デフレ下に”リフレーション政策が効く”という理論もとっくに破綻している。

 

 自国通貨の発行権をもつ国は「世界の中の一国」という自覚をしなければならない。岸田首相にも評論家のM橋某にはこの視点が欠如している。仮にも政治の有力者がMMT理論とやらを開陳しようものなら,それだけで日本円は国債的な信用を失うことになる。

 確かに日銀の利益は詰まるところ政府に戻されることは事実だが,日銀の赤字を政府が追うことはないのだから既に溺れかけている日銀にできることはリフレ政策で買い集めた市中株式を一勢に放出するか,国債の引き受けを止めるしかない。いずれにしても日本経済はどん底に落とされることになる。

 

 日銀が債務超過に陥った場合は,デフォルトだ。もうここ数ヶ月は買い手のつかない国債も含め,発行済みの国債は紙屑となる。日本円は信用失墜によりもはや資源の輸入すらままなくなるだろう。これがデフレ下における金融政策の愚かさだ。麻薬もいつかは手に入らなくなる。

 そのとき初めて日本国民は”大きな政府”がいかに無駄だらけの構造だったかを知る。行政サービスのあれこれが全て消えてなくなる。いかにハードカレンシーである日本円をもってしてもデフレ下ではリフレ政策など10数年しか保たなかったことがわかるだろう。

 

 のほほんと生活していても,それほどに日本経済は逼迫している。新入生諸子にはこのことを踏まえ,学問に集中していただきたい。大学での学びは極めて貴重な時間である。