日本経済10年展望 | gab-log

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経済学に無知なることは罪ではない.しかし無知なるままに経済問題を声高に論じることはまったく無責任であるといえる.(ロスバード)

TwitterID 男前先生 @_dt4u / 所属機関組織に無関係の個人としての不定期落書き / すべては良識に基づきます

 残念な話だが,今後10年として日本の景気が上向くことはない。

 

 昨日の予算委員会で岸田首相が「株主還元で成長の果実が流出」と衝撃的な発言をしたが,氏の発言とは無関係なところで話をする。

 

 今,10年ローンでなにかを買うことは絶対に勧めない。残念だがこれからの10年も今のような停滞もしくは衰退が続く。資産を持っていても(円資産である限り)為替差損に見舞われ,借金があれば為替平価による金利上昇のリスクを抱えなければならない。

 

 

 

 一方で株式のレバレッジはリーマンショックのおよそ2倍にまで膨らんでいる。これは過去に私が警鐘を鳴らした資産インフレそのものが現出したことを意味する。

 

 いわゆる日銀の異次元金融緩和とゼロ金利によって,投資家が借りたカネで株式を買っている。いやもちろん,日銀そのものが価値の低い株式を買い支えていることも大きい。US市場ならばとっくにジャンク扱いされるあの企業や,あの電気大手も,日銀が買い支えているから無能経営を続けていられる。日本の株式市場だけがおかしな値をつけているといっていい。

 

 この揺り戻し(スタビライズ)はかならず起きる。

 

 今や銀行はゼロ金利により瀕死だ。日銀は日銀で刷ったカネをどうにか処理しきらねばならない。ダブついたカネはほぼかならず,資産に向けられるのだ。市中のカネが株式に向かってしまったら,金利次第で市場は乱高下するだろう。

 

 さらに日本はリーマンショック前後から解雇規制を強化していて,これにより企業の内部には大量に「働かないおじさん」を生まれてしまった。今どき,企業に就職する若者というのは "働かないおじさん" を養うためのゴハンちゃんだ。

 

 政府が現状の解雇規制を見直さない限り,新入社員の皆さんはおじさんたちの養分だ。それが数年なのか,10年あるいはそれ以上なのかはその企業就労者の年令分布による。一部の方々が愛してやまない富の再分配というヤツである。

 

 冒頭の「成長の果実」発言はいわゆる "海外勢" といわれる海外投資家を意識してのものと想像しているが,そもそも海外勢に狙われるのは「日本が安くなったから」だ。この1年で円相場は対米ドルで10円以上下げている。実に11%近い下げ幅だ。

【参考】円の実力50年ぶり低さ 実質実効値、円安進み購買力低下 日経新聞

 

 円安ということで「輸出が堅調になる」「製造分野が好調になる」と考えるのは間違ってはいないが,マクロの視点で見たときに日本人全国民の保有資産,企業価値が10%以上安くなった,という事でもある。

 今は日銀が日本企業の株価を下支えしているが,実質実効為替レートを鑑みるに降りるに降りられないチキンレース状態になってしまっている。

 バブルというものは限界があるからバブルと名付けられているのであって,日銀が作り出した株式バブルは未来永劫に続くものではない。身銭を切ってゆっくりと安楽死を待つか,国内企業と投資家を殲滅する覚悟でバッサリ切り捨てるか,二つに一つだ。一度でも麻薬に手を出してしまったのだから。

 

 日本政策金融公庫ではアホみたいな低金利でカネを借りることができるが,利子率を上回る利益さえ生み出せば理論上は儲かる。ーーーという考えでどこから現れたか大量のカネが株式市場に傾れ込んでいるのが日本経済の実態だ。

 

 一方で汗を流して相変わらずの低賃金労働を強いられている人々は,知らない間にOECDの貧民になっている。この1年で自分の仕事の価値が10%も安くなったと気づいている人がどれだけいるだろうか。

 

 政府が見なければならなかったのは既得権益による中抜き構造の常態化であって,90%以上の労働者が中小企業や零細企業で働いているという事実である。わずか数%の既得権益企業では解雇規制や労働法改正に適応は容易だろうが,中小零細企業では死活問題で,これこそが賃下げ圧力を生んでいる。90%以上の企業が成長しないのだから,日本経済が成長するわけがない。

 

 この日本の麻薬中毒を放置するも地獄,対処するも地獄。市場経済に政府が手を突っ込むとどこかに歪みが生じるものだ。規模が大きければ大きいほど,深刻な問題を生み出す。

 明言するが「今」直ちにパチンコ業界方式の財政ファイナンスをやめたとして,その衝撃から経済が立ち直るには10年はかかる。その10年の間に東南アジア経済は急速な発展を遂げ,優秀な人材や企業は国外に移転してしまう。大変深刻な問題だ。

 

 そしておそらく,年内に金融緩和や日銀による株の買い支えを止めることはないだろう。やればやるほど破壊力の増した風船は膨らんでゆく。

 

 

◆COVID-19対策と為替

 

 今般のオミクロン株蔓延ではとくにUK,フランスが日本と比して一桁違いの猛威を振るったが,両国ともに早々の段階で経済規制を解除している。つまりオミクロン株の感染拡大よりも経済運営を優先した。翻って日本はといえば,

「不要不急の外出は避けるように」

として経済の停滞を甘受する方針を打ち出した。政府も自治体も,公共放送もだ。

 

 結果からいえば日本円は対ユーロ,対ポンドでも安値となった。

 

 オミクロン株は幸か不幸か,感染力こそ絶大だがワクチン2度接種後の致死率はインフルエンザと同等かそれ以下との評価がなされ,UKもフランスも感染予防を割り切った方針に転換したのだ。医療崩壊も起きてはいない。デルタ株のときとは方針を変えたわけだ。

 

 どうしてこんなにも差があるかといえば "お国柄" としかいえない。

 

 日本人はアホなのか,命令があればそれによく従うが,自分の頭で考えて自立した自主行動となると「命令がないから失敗した」「指示してくれないからこうなった」と何某かのせいにしたがる国民性を持っている。ように映る。基本的に指示待ちニンゲンを生む土壌だ。

 

 誤解されないよう断っておくが,COVID-19は人類史に残る脅威だと私は理解している。ただしその株(デルタやオミクロンなど)によって対応を分ける知恵は必要だと言っているに過ぎない。いまの日本はCOVID-19→医療崩壊→シヌ,という思考に縛られていて,判断を見誤っているとしか思えない。そもそもコロナウイルスと新型コロナウイルスの違いすら説明できない人々が国会の中に大量にいる。そうした人たちが言っているのだ。

「不要不急の外出は避けてください」

 

 先進国の,ハードカレンシー発行通貨国の外為が,たった1年で10%以上も値を下げるなんてよほどのことがなければ起こり得るものではない。対米ドル,対ユーロ,対ポンドなどなど一方的に全面安になるなど,とても珍しいことだ。珍事である。

 もちろんその円安効果で主に自動車産業の輸出は伸びた。逆説的にいうと自動車が円安だから売れたというだけの話。今後は日本人が聞き慣れないベトナムやインドネシアの自動車メーカーが世界中を席巻する。そう,彼らは今が高度成長期だからだ。

 

 70歳前後の老人たちが国家運営をしている日本だが,70の爺さん婆さんが本当に30年後を見据えた経済運営をするだろうか。私の周囲で30年後の日本を語る老人を見たことがない。

 今の若い世代とくに20代の人たちは,自分達の未来のために,指示や命令を待つのではなく,自分のためとなる最適行動を選択してもらいたい。法制で60歳定年と(年金制度上)なっているのだから,国会議員さんも60歳で有無を言わせず職を辞していただきたいものだ。

 

 この国から30代の首相が恒常的に登場するようになれば,少しは展望が拓ける。