新田氏の著書を古本屋で見つけたもので、購入してみました。今回は、純粋な山岳美談に、少々人間社会の
愛だ、恋だ的な要素をを混ぜ込んだ小説なのだという。主人公が心惹かれる女性とは、相思相愛でありながら
真実をしろう、語ろうとしないために、心がすれ違ってゆく心象風景が、印象に残った。恋に破れた、あるいは翻弄
された人間が富士山という絶対なものへすがりつくかのように、命をささげてしまう(偶然にも)様は、私としてはなんとも無意味な死であろうか、と嘆かわしく思った。
しかし、富士山山頂の気象台での台風直撃の描写は、とてもリアルで迫力があり、文章における表現の可能性
を感じるものであった。映像や画像抜きで、読者の頭の中にリアルなイメージを構築し得る文章構成力は、さすが
新田氏だ、と感動を覚えた。
神々の岩壁も、初登攀にかけるクライマーの思いを、リアルに描いており、とても面白かった。こんな風な競争意識があり、難所はこんな思いでクリアされてきたのだなぁ、と想像しながら読み進めるのであった。
しかも、この主人南さんは未だ健在ということで、驚いた。渋谷でスポーツ用品店を営まれ、その後拡大して名前も
改めてあるそうな。
すごいなぁー。ほんと。
すごい人はたくさんいるものですね
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