女神ディアナはミラ本人へ、治療についてのインフォームドコンセントが始まる直前、会計を済ませてフォロ・ロマーノへ戻る、暇を告げた。

 

タイミングが合えば、ミネルヴァが予約しているタクシー・バタフライに相乗りするそうだ。

 

「山野先生、アタシの消化器症状まで相談に乗って下さりありがとう、セルフケアできるわ。なによりトリプル受診、山路先生や他の医師へ、長い経過を聞いてもらう時間も省けた」

 

「オッ、オダイジに…して下さい。ね念のため、僕は明日外来日です。初診も受けています」

 

 

別れ際、ディアナから暗に口外を禁じられた件は、他でもない。ミラを生まれ代わりへ進める役目を担う「彼ら」の中に本人も存在した、受け入れにくい事実だ。

長期記憶に眠っていた願望だった。


仕事以外はなにかと疎い僕も、咄嗟に口止めは悟った。若干どもったが、会話は流れに合わせたつもり。

 

「ミラさん。インスリノーマの治療について、お話しますねえ。今のところ膵臓と肝臓、再発予防の3つに分けて、考えていますう」

 

立花先生が治療説明を始めた途端、僕はいてもたってもいられない。

 

そりゃそうだ。

 

本人イコール生まれ変わりへ進める役目を担う、「彼ら」を目の前にしているわけだもの。

今度こそ治療方針…僕らの作戦は、ぜーんぶ彼らに筒抜けだ。

 

腹腔鏡手術と術後の傷も、肝動脈化学塞栓術…兵糧攻めのルート、薬物療法に至るまで全てだ。かつミラの願望は、ガイウスと共に神格化もお断りする、まるで返事のようだ。

 

僕は女神ディアナのアドバイスに従い、「彼ら」を意識しなかった。その効果で今回は「現象」に巻き込まれずに済んだが、後悔してる。

 

数分前に起きた「現象」を、詳しく知りたい。

例えば「彼ら」のどんなメッセージに、ミラの長期記憶はトリガーしたのだろう。

 

詳細を知るのはディアナただ一人。肝心なミラ本人は、今は現象を覚えてないだろう。

 

ディアナのお土産、カフェグレコのパイを頬張りながら、立花先生の説明を聞いている。

 

S(Subject)

ふーん…治療のあと、もういちど魔法をかけるんだ。やるしかないけど、痛くないようにして。ゴホッ、ゴホッ…。

 

O(Object)

ご本人はインスリノーマの治療と、年齢を重ねない魔法のリトライについて、事前にキーパーソンへ伝えた、ほぼ同じ内容を返事された。

 

A(Assesumento)

血糖コントロール、せん妄も徐々に改善しつあるため、理解と意思疎通がスムーズになっている。病気の治療を承諾、自身の言葉で表現できたと考える。

 

P(Plan)

各治療のクリ二カルパス(標準診療計画)へ移行。看護計画を継続する。

 

僕の左隣で、ナース山崎さんが記録を入力する音がカタカタ響いた。

 

確かにミラは入院直後に比べると、意思疎通もスムーズになった。水面下で、その「クオリティー」も変化していた。

 

やはり僕らは「彼ら」の目的、本人の願望達成へ、力を貸しているのではないか?

こんな矛盾、どう解決すれば良いんだ。

 

「承諾書のサインは、ガイウスさんに託しました。ミラさんには治療についてのパンフレットを渡しますね」

ミラは手渡された幾つかの冊子を、床頭台の引き出しにしまうよう、すぐにウェヌスへ頼んだ。

 

僕一人思い悩んでいたら、説明はあっと言う間、短時間で終了した。

ミラを始めキーパーソンからも、新たな疑問や不安の表出も無かった。

 

そのまま、流れ解散になった。

 

「一太、ありがとう。お陰で一つ進んだよ」

「ガイウスも、お疲れさまでした。ディアナを探す旅から戻って間もないでしょう」

 

別れ際、ガイウスと握手を交わした。秘密を抱えるだけに、なんだか心苦しい。

僕のかしこまった返事に、彼は微笑んだ。

 

目深に被った赤十字と蛇のロゴマーク、F1ファンチームのキャップは、目鼻立ちの整ったガイウスに良く似合う。

 

でも黒いキャップは、史実通りハンサムなローマ皇帝の素顔…憂いまで、醸し出してやしないか?毛髪と体毛、胃石をため込むほど繊細だ。

 

とてもじゃないが、彼が2000年近く共に過ごしてきたパートナーの、記憶の底に眠っていた願望を知ってしまう未来は想像できない。

 

ガイウスと親しいクールビューティーな女神も、今後の対応に悩んでいるに違いない。

だから僕に、口止めした。

 

もしもミラ願望が、ガイウスだけでなく仲間の神々まで知れ渡ったら…。

この付近だけ、落雷と暴風雨に見舞われそうだ。

 

なにはともあれ、怒涛の一日は終わった。

柿沢さんの採石、緊急PTCDも無事に済んだ。

 

帰宅した僕は、自宅でも平静を装う…背筋を伸ばさず、普段通り猫背を保ちながら当番の家事に没頭した。

 

幸い僕の隠し事に目敏い息子達は、スイミングだった。敏感な絵里さんも息子達の送迎担当、落ち着いて会話する時間がなかった。

 

 ホッとしたのも束の間。

…私を置いて行かないで。先祖から受け継いだ血を、私も早く繋いでいきたい…。


 ベッドに横になった途端、禁断の約束はクローズアップして睡眠を妨げた。


フーッ、スーッ…。

かたや隣のベッドでは、絵里さんが寝息を立てている。明日彼女は早番だ、早々に眠りに落ちた。

 

そうか彼女の寝息を聞いていれば、現実世界に留まっていられる。

多少「彼ら」について考えても、登場は回避できそうだ。

 

書斎に置いてある、ミラー・タブレット、フェリクス医師のカルテ、その一部を思い出す。

 

西暦170年8月の末、ミラが参列した魂の行進は行われた。

場所は現在のウィーン、カルヌントムにある円型競技場の上空付近。

 

ここは生前ミラがトレーニングを積んだ剣闘士訓練所がある、ゆかりの地だ。そうそう彼女のトレーナーは、引退したグラディエーター、ミラの夫だったな。

 

ミラと共に行進した「彼ら」は、生まれ変わりへ進んでいる。おそらく現在、どこかで生活している。「彼ら」の意識だけが、何かをきっかけにミラの元へ集まっている。

 

切っ掛けの一つが、「彼ら」の長期記憶に残る「聖杯への厳かな行進」である事は、間違いない。音楽は「彼ら」の役目を、長期記憶から呼び覚ましている。

 

この曲の冒頭は、遠くの方から神聖な気配をまとう足音が、徐々に近づいてくるようだ。

 

かつて肉体を離れた魂たちの行進に相応しい音楽が、時空を超えてもたらされ、生まれ変わりへ導いた。かつ現在も、「彼ら」を誘導している。

 

 

まてよ、曲の冒頭…?

昼間に発生した「現象」を、振り返ってみよう。

 

そもそも「彼ら」の中に、ミラの意識も存在した…遭遇したのは、女神ディアナだけ。

改めて考える、なぜ予備室だけに「現象」は発生したのだろう?

 

僕らはディアナのアドバイスに従い、「彼ら」を意識しないでいた。それがバリアみたいな形となって、「現象」を遮った…面談室や廊下での雑談にも、効果が及んだのかもしれないが。

 

しかし人間以上の能力を持つ、二人の女神とガイウス、冥界の遣いメルクリウスのパートーナ真紀子さんも同席していた。

いくらなんでも、同じフロアで起きている「現象」を、誰かが感知してもよさそうだ。


まさか…ディアナは「彼ら」を、意図的に呼び寄せたのではないか?


だからこそ「彼らに意識を向けるな」、僕らを含めた仲間達にも、事前にアドバイスした。

クールビューティ―な女神は、タイミングを見計らい、飄々と「カチカチ…カッターイバリア」を予備室内に張りそうだ。

となると僕だけに明かした、これも意味があるかもしれない。

 

そもそもディアナは、ガイウスやミラが敬愛した女神だ。かつミラの魂の行進を見届け、ドナウ河のほとりで魔法をかけた、親密な関係だ。

 

ディアナは生前のミラと繋がりの深い人物をある程度、把握していたかもしれない。

親族ならば古代ローマの習慣的に、同じ神々、女神達を崇拝するだろう。


推測が正しければ、女神ディアナは「彼ら」を意図的に呼び寄せて。

ある程度、正体を掴んだのではあるまいか?

ミラの願望を引き出した結果は、偶然か予測していたのか、それは分からない。

 

「彼ら」の中には、ミラのもと親族、チームメイトだったグラディエーターや関係者、熱狂的なファン、対戦相手…10試合中の1人なども含まれるかもしれない。


過去にミラと縁があった人物ならば、尚更残っている彼女を生まれ変わりへ…。

 

「おっと、この辺でストップ」

頭をブンブン振った。

 

フーッ、スーッ…。

 

絵里さんの規則的な寝息に、呼吸を合わせる、現実世界を意識した。

自宅で「現象」の発生は、息子達もいる安全第一、それは回避したい。

 

しかし参ったな、ここまで推測すると、目が冴える一方だ。

人間の僕は、なんの解決策も見いだせない。このまま沈黙を貫いていいのか、ディアナに協力すべきじゃないか?

 

よっぽど、ローマ帝国マニア倫太郎へ相談しようか迷った。

羽沢クリ二ックは、明日木曜日の午後は休診だ、親友は起きてるだろう。

 

迷った挙句、禁断の約束を守った。

結局ウトウトした程度、あまり眠れなかった。

 

「ハアッ。妙に疲れてる…」

 

翌朝、外来診察室の椅子に腰かけた途端、約束を守る葛藤から一時的に解放された。

 

普段通り、まずはペットボトルのお茶で喉を潤した。9時に外来診察をスタートした。

 

今日は再診がほとんど、診察は順調に進んだ。

 

10時を過ぎた頃、受付カルテから中沢久さんの来院に気が付いた。

 

ガイウスの闘病仲間、中沢さんは退院後初回の外来日。8月に行った「肝動脈化学塞栓術」、一回目の評価だ。

 

既に採血は済んで、結果待ち。

腹部CTへ回っているはずだが混んでいる、こちらも順番待ちだ。

 

中沢さんは昨年、アルコール性肝障害による肝細胞癌で手術を受けた。肝臓の左葉S3に腫瘍が発生した、この部分を腫瘍ごと切除した。

 

ところが今年7月に左葉S2へ一つ、その横S4へ二つ再発した。

 

前者は切除したS3の上部。

後者は左肝動脈を挟んで、S2とS3の右横に位置する。

 

再発した腫瘍に対する治療が、明日ミラも予定している「肝動脈化学塞栓術」だ。

 

中沢さんへ治療の効果が出ていれば、退院時に比べると腫瘍マーカの低下や、腹部CTでは腫瘍の縮小が期待できる。

 

彼の場合も治療効果を追いながら、二回目の肝動脈化学塞栓術を検討していく方向だ。

 

ミラのインスリノーマは多発性に肝臓転移して、増殖スピードも速い性格だ。中沢さんよりも回数多く、肝動脈化学塞栓術を繰り返すかもしれない。

 

プルル…プルル。

 

おやっ?ピッチが鳴った。

見覚えのない番号だ、どなただろう。

 

「はい。消化器外科、山野です」

 

「すみません呼吸器外科の菊池です。昨日、緊急でPTCDを依頼した高崎仁さん、せん妄と不穏でチューブを自己抜去してしまった。大至急、再挿入と、砕石が済むまで約二週間、一時的に転科をお願いしたい。もちろん必要な指示は出します。看護主任の間で、調整は依頼してます」

 

「ええっ?一昨日、紹介先のクリ二ックから肺癌の精査で緊急入院したばかり。優先順位的には、原疾患の精査では…。結石の方は同時進行で治療できると思いますが」

 

矢継ぎばやに、アクシデントを告げられた。

寝不足の影響か、血の気が失せた。

 

高崎仁さんは肝内結石により閉塞性黄疸を起こしていた。昨日僕が、緊急でPTCD(経皮経肝胆道ドレナージ)チューブを挿入した。

 

肺癌の精査を控えているだけに、肝内結石の方は内瘻化して胆道鏡を使った早期の治療が望ましい。

 

PTCDチューブを自己抜去してしまったからには、結石治療は振出に戻ってしまった。

 

PTCDチューブの自己抜去は、出血や胆汁漏のリスクをはらむ、特に出血は要注意。穿刺部位だけでなく、肝内胆管に留置したチューブが肝臓に刺さったり、腹腔内出血も否めない。

 

確かに専門の消化器外科の方が、PTCDの管理は慣れている、でもこれは逆のパターン当てはまる。

 

高崎さんのカルテを開いた。

呼吸器外科で腹部エコーは済ませていた。

 

どうやら現在、腹部CTを撮影中だ。彼の名前を見落としていた、中沢さんが撮影待ちの理由も判明した。

 

「高崎さん独居でしょ。携帯用の裁縫セット、奥さんの形見の一つを持ち歩いていた。小さなハサミでチューブのナートを切った。エコー上、肝臓損傷と出血はなし、ホッとしました」

 

「そうでしたか…スルッと抜いてしまったんですね。造影室担当は山路医師です、転送します」

 

なるほど。

ちょっとホロッとする、自己抜去に至った大まかな背景は分かった。

 

「不穏」は興奮や過活動、落ちるかなくなる「状態」を意味する。原因は「せん妄」「感染症」「薬剤性」「高齢」などがある。

 

高崎仁さんは73歳。

せん妄による意識障害が、体から出ているチューブを、余計な物だと捉えてしまう。

 

そこに「不穏」興奮した勢いで、抜いてしまったのだろう。看護記録では、点滴の針も自己抜針してる。

 

高崎さんは一昨日、感冒症状で掛かりつけのクリニックを受診した。

咳嗽が強くなり、発熱と倦怠感も続いていた。

 

レントゲンで右肺に腫瘍が判明、医師は黄疸にも気が付いた。肝臓に転移しているかもしれない、直ぐに大きな病院へ行くよう、紹介状を貰った。

 

ところが高崎さんは独居だ、タクシーを使った緊急受診を頑なに拒んだ。仮に日帰りでも、そのまま自宅を留守にするには、準備が必要だった。

 

彼は昨年奥さんを見送られ、長男さんは家族と共に生まれ育った九州に在住だ。

 

高崎さんは定年退職後、数年経ってから夫婦の故郷、東京へ戻った。皮膚の黄染、黄疸を指摘してくれるような友人や近所付き合いがあったのか?そこまでは分からないから、ちょっとホロッとする。


さて高崎さんは消化器病棟、何号室へ転室されるだろう?せん妄と不穏が落ち着き、内瘻化と砕石までは、安全が最優先だ。

 

二度目の自己抜去は回避したい、ナースステーションに近い部屋が適切だ。

 

せん妄が改善しつつあるミラと交代で、予備室ベッドを使うか。

林さんが退院したあと、502号室へ入るかもしれない。

 

基本予備室は、緊急入院や急変対応のために空室にしておく。

この先、柿沢さんが退院したあとの510号室へ、高崎さんか、もしくわミラを移動も可能だな。

 

さてベッドコントールは病棟主任へ任せて、僕は診察を続けよう。

 

プルルル…。

 

おっと、さっそく福田主任から連絡だ。

今度は表示番号で分かる。

 

「はい、山野です。高崎さんの情報は聞きました。消化器外科の主治医は、僕か山路先生になる…」

 

「一太先生、戻れる?ミラさん、誤嚥窒息した。中林先生が挿管して、人工呼吸器へ乗せた。私と山崎でフォローしてるから」

 

「何だって?!すぐ行きます」

通話の途中から席を立っていた、そのまま外来ブースを出た。

 

消化器内科中林先生、たまたま病棟にいたんだろう、有難い。

 

「リーダ―さん。申し訳ないけど外来、送らせて。病棟の患者さまが急変、挿管した」

「ええっ?!大変。分かりました、患者さまへ伝えます」

外来リーダーナースへ依頼した。

 

2階外来診察フロアの東側、職員エレベーターの前に立った、5階を押す。

 

階段は駆け上がらない。

急変時は体力と冷静な判断力が必要、エネルギーは取っておく。

 

視線を右斜め前方へ向けた、深呼吸する。

1階のエントランスホールは中央部分、吹き抜けから太陽光が差し込んで眩しい。

 

空を見上げながら、目的の場所へ向う患者さまや職員も多い。

 

「おやっ…?外来にフルフェイス・マスクを被った人がいる、妙だな」

 

そうかここはローマ、コロッセオの地下だ。

 

試合を控えたグラディエーター達が待機する。選手達はタイプ別のコスチュームに身を包み、網や三叉槍など、道具を手にしている。

 

青銅製のマスクを被った騎馬闘士が騎乗した。

右手に槍を、左手には丸い盾を持つ。

 

…私はこの試合を終えれば引退だ、家族には引き分けで帰ると伝えてきた。ドナウ河の向こう岸では成し得ない事が、この国では叶う…

 

低いくぐもった声。


ガタン…ガタン。

 

騎馬闘士は燦燦と降り注ぐ太陽光を浴びながら、エレベーターで上昇した。

視野の狭いマスクの前後は赤い聖杯が描かれ、キラっと光った。


 

『ウワァ…!』

アリーナは満席だ、観客の興奮と歓声が地響きをたてるように轟く。

 

「一太先生エレベーター、来てますよ。病棟は急変と転科で、もうバタバタです」

 

「あっ金子さん、ありがとう。今日も看護師さん一人欠勤していたから、なおさらだよね」

 

病棟クラークさんに、声を掛けられた。そのお陰で現実世界に戻った。

二人揃って、速足で乗り込む。

 

ミラはこのところ、病気の影響で間食が増えていた。昨日もディアナがゆっくり食べるよう、注意していたくらいだ。

 

咀嚼回数も少なく口腔内に詰め込みがちだった、嚥下機能の低下も起こしているだろう。

年齢を重ねない魔法が解除された現在、はやりミラの身体機能は急速に加齢が進んでいる。

 

だから間食についても、ナースやキーパソンの見守りで取るよう、看護計画にも上がり実地されていた。それでも、誤嚥窒息を起こしてしまった。

 

ガタンッ。

 

エレベーターが、5階へ到着した。

 

「一太先生、先にどうぞ。行って下さい」

「金子さん、ありがと」

 

僕は飛び出した、そのまま左方向へ走った。

 

「ア、アタシがいけなかったの。うっかりパンの入った袋をベッドに置いていた、ごっ、ごめんなさい。502号室へ移動するから、消灯台の引き出しを開けた。直ぐゴチャゴチャにする中身を、整理しかけた」

 

予備室の前で泣きじゃくる女神ウェヌスの姿が、視界に入った。

 

「目を離した隙に、ミラはアタシの朝ご飯、ドライリンゴやイチジクが入ったパンを頬張っていた。ハード系の硬いパンよ…ほら、コレ…」

 

ウェヌスは白いビニール袋を開いた。

 

「ミラさんの変化に気が付いて、背中をさすりながらナース・コールを押してくれた、ウェヌスさんの判断は正しかったんですよ…」

 

女神は新人ナース柳さんへ、急変時の様子を必死に伝えていた。

偶然か、禁断の約束ならぬ禁断の木の実って、確かリンゴかイチジクではなかったか?

 

「イチタアー、どうしよう。ガイウスに何て言えばいい?」

「僕も、彼に説明するから。ミラの状態が落ち着くまで、このまま部屋の外で待ってて」

 

たまたまウェヌスは、その場に居合わせただけ。

病院の食事でも、急変を起こしていたかもしれない。


「ピエタ…ピエタ…」僕は呟きながら、予備室のドアを開けた。

 


 

 

お時間を割いてお読み下さり

どうもありがとうございました

 

季節の変わり目

体調などお気を付けてお過ごし下さい

 

参考図書ほか

 

メディックメディア 病気がみえる 

Vol.1消化器

 

ナショナルジオグラフィック日本版 グラディエーター熱狂の裏舞台

 

山川出版社 本村良治著 帝国を魅せる剣闘士

 

インターメディカ 益子邦洋・大塚敏文 

ER救急ハンドブック

 

照林社 林ゑり子編集・上村恵一監修

 緩和ケアはじめの一歩

 

医学書院 種村正編集 

エコーの撮り方完全マスター

 

新潮社 塩野七生著 ローマ人の物語 Ⅶ

 

親共同訳 聖書

 

jstage.jst.go.jp 

肝切除後の早期肝内多発再発に肝動脈化学療法が著効をみた肝細胞癌の一例