8日9日 真夜中
フィレンツェ・バリー二家の丘
 
 
「かつて我々は、神々を超える力を欲した」
「降臨する救世主へ、最後の審判を求める」

感涙にむせぶヴィアンキ一族の彷徨える魂らは、ヴィーナス洞窟と教会の外へ、一目散に駆け出した。

もちろん俺達神々は、勢いを止めないさ。
 
「洞窟の左ルートにカムフラージュとは言え、清いマリアと幼な子イエス、可憐なヴィーナスを彫ったのは我々です」

「教会の天井画、マニフィカトのマドンナは嘘偽りなく、私たちの傑作です」
 
生前に彫刻家や画家であった彼らは、作品をアピールしながら、数メートル上空を浮遊する、ガイウス・カエサルの真下で跪いた。

後光…いや手術室のライトが眩しい、暗闇から出てきたばかりの彼らは、イエスとの見分けが付かないだろう。
 
まして現在のガイウスは抜毛症のため全身「ツルツル」、そして色白だ。

かつ胃石の蓄積で、食欲も落ち痩せた体は、どちらかというと「十字架から復活したイエス」を彷彿とする。
 
ぱっと見た違いは左腕のタトゥーと、肩に留まる金色の鷲、変身した最高神ゼウスだろうか。眉毛の金色タトゥーは、見えないでしょう。

幸い彼らの膨らんだ集団心理も影響し、「イエスの降臨」だと信じて疑わない。
 
興奮する彼らの「癒しと浄化」を目前に、戦いの神である俺も、武者震いがする。

教会と洞窟内部で、交渉を務めた神々と女神、二人のムネメそして涼と早苗も配置に付いた。
 
ケンイチと元御殿医ガレノスを含む、8人の神々と女神は「八角形」を作り、そっと彼らを取り囲んだ。

仲間から「ライバルの一族に、助けを求めた裏切り者」、締め出しを食らった4人は、それぞれ神クロノスと3人の女神の背後に立つ。
 
神々に身を守られ、仲間と共に昇天できるようスタンバイした。
 
指揮官の俺は本陣のテントに控え、指示を出す。
直人とプルート、先程到着した執事のヨナスが脇を固めている。
 
皆揃って執事が持参した、メダイのネックレスを首にぶら下げた。

本来メダイは聖品だ、マリアやイエスが刻まれている。こちらは「ベツレヘムの星」、八芒星が彫られた。 
 
カムフラージュとはいえ、多神教の俺達がマリアやイエスを身につけるのは失礼だろう。
シンボルだけ、「お借り」した。
 
メダイにはナルキッソスの得意な「交信の魔術」が掛かっている、これを元に情報交換を進めている。

鷲に変身した最高神ゼウスも、同じ物を首にぶら下げた。

親父ゼウスはガイウスの伝令役だ、耳もとで俺の指示を伝えてくれる。
 
ところで敬虔なカトリックである彷徨える魂たちにとって「八」や「八角形」は、特別な意味を持つ、イエスのシンボルだからな。
 
イエスの誕生を告げるために現れた「ベツレヘムの星」は八芒星。十字架に架けられ命を落としたが、復活は八日目。
教会の形や内部の聖具は、八角形のデザインも使われる。
 
だから信仰深い彼らの心に沿った形で天昇させるために、「八角形」の陣形を組んだ。
 
さていよいよ三種類の「新再生ネクタル」を用いる、準備は整った。

作戦開始の前に、胃石除去手術中であるガイウスの全身状態を、今一度共有しておこう。
 
無事に「復活」…肉体へ戻さねばならない。
緊張するだろう神々も、彼らの訴えに惑わされ、「イエスの傷」だと、勘違いする可能性もある。
 
…最後の確認を聞いてくれ、くれぐれも混乱して間違えないように。
 
右上腕の小さな傷は、十字架を背負うため紐で縛った傷ではない、PICC(中心静脈)カテーテルの挿入部位。

額や胸部、足首など、小さなマルや四角い跡がうっすら残る部分は、モニター類のセンサーを貼っている、ムチの痕ではない。
 
丸く開いた左上腹部は、少し血液が滲んでいる術野だ、槍で刺された傷ではない。
 
全身麻酔下なので、人工呼吸器から呼吸をしている。だから、挿管チューブが入っている。
大声は出せない、肺や腹部に負荷がかかる。

万が一、手術に関係する部位が刺激を受けた場合、現地では麻酔や人工呼吸器のトラブルが発生する可能性もある、これは回避しよう…
 
あらかじめ直人から要点を聞いたので、スタンバイする神々へ伝えた。
 
「よし、作戦開始だ。ガイウス、彼らの手がギリギリ届かない高さまで、下降してくれ」
 
俺の指示に対して、金色の鷲はガイウスの左頬を嘴で軽く突いた。すると彼は、地上から2メートル付近で停止した。
 
「イエスよ、我らに許しを与えたまえ」
同時に彷徨える魂らも立ち上がり、「救世主」へ触れようと手を伸ばし、ジャンプする者もいる。
 
「よくも悪くも群衆の興奮に、私たちも巻き込まれないよう、注意していきましょう」

ヨナスはトランクから荷物と手袋を取り出しながら、自らへ言い聞かせるよう呟いた。
 
もちろんそれは予測した上で、敢えてガイウスには、興奮状態の彼らに近づくリスクを取ってもらう。
 
「私はイエスではない。第一人者(ローマ市民の中の第一人者は、皇帝を指す)、3代ローマ皇帝ガイウス・カエサルだ。」
 
さあ、ローマ皇帝の再来だ。
ガイウスは彷徨える魂ら…いいや市民に向けて右前腕を挙げた。
そして過去何度も聞いた、第一声を放った。
 
その途端、彼らはポカンと口を開けて、呆然としてしまった。
感極まっていただけに、突然の告知に思考は止まってしまっただろう。
 
「あなた方は、かつてローマ市民だった。2000年近い時を経て、再会できるとは光栄だ。
意識の深い部分では、私を覚えているだろう。
集中すると良い、記憶が蘇るはずだ」
 
ガイウスのか細い声は、手術中だから仕方ない。
しかし威風堂々と、かつエレガンスにインパクトを与えるメッセージを放ってくれた。
 
いきなり前世は古代ローマ帝国に住んでいたなんて指摘されたら、にわかに信じがたいし、ドキッとするでしょう?

でもこの繋がりこそ、神々のなせる業だ。
 
彼らの中には二人のムネメを始め、前世はギリシア人だった者がいる。

こうして関わる者は過去、何かしらのエピソードで繋がりを持っている。
神々の介在は、再会を結びつける力を持つ。
 
さらにガイウスは生前、数えきれないほど市民や元老院議員、軍隊の前に立ち演説をこなしてきただけある。
パフォーマンスに人々の心を、惹き付けるパワーを持つ。

彷徨える魂らは未だに、思考の切り替えスイッチが、オンになってないのだな。
彼を見上げたまま立ちすくんでいる。
 
…よし、今だ。ヤロー・キャンドルに火を灯してくれ。
 
俺は八角形の立ち位置を取る8人の神々へ、指示を出した。
一斉に、8本のキャンドルに火が灯る。
 
焔は昨日の昼間、洞窟内部で灯した際と比べると変色している、パッと華やかで明るいオレンジ色の焔だ。
新再生ネクタルの変化は、神々も予測していた。
 
魔力は時に命を宿したかの如く、俺達も想像できない変化を起こすのだ。

これを踏まえて変更した癒しと浄化、作戦の第一段階は、順調な滑り出しだ。
 
彼らは敬虔なカトリックだ、それを尊重した上で、癒し浄化する作戦へ方向転換した。

イエスのシンボルでもある「八の数字」、「八芒星」に囲まれて昇天する。
 
三種類の「新再生ネクタル」の効果で、最後の審判へのこだわりも、彼らは気が付かない内に消滅してしまう、口にしなくなるはずだ。
 
ちなみに新再生ネクタルは、神々がたすき掛けにする、「シルクのターバン・バッグ」の中に準備されている。
 
最高神ゼウスの愛用品と同じ物を、バッグにリメイクしたからには、魔術を掛けて「新再生ネクタル」を安全に持ち運べるよう整えた。
 

「暴君カリグラめ、聖なるイエスを装い俺達を騙したな!」

「救世主の左腕に月桂樹やオベリスク、馬を装飾した、タトゥーなぞあるはずがない」

「体の傷は生前、娯楽ばかりに身を投じ、何一つ政治手腕を発揮しなかった報いだろう。
古代の神々の怒りに、触れたのだ」
 
おっと、ここで数人の男たちがいきり立った。ヴィーナス洞窟の左ルートに彫刻を施した職人達だな。

仲間の怒りを煽るように、ガイウスを渾名呼び、俺たちも引き合いに出した。
救世主だと信じていただけに、尚更腹が立つのだろう。
 
「思い出した!かつて我々は、アレキサンドリアに住んでいた、ギリシア人の商人だった!」
 
「ユダヤ教徒と対立したとは、愚かだった。焚きつけたのは、自分を神と位置づけた、無能な皇帝カリグラだ!」
 
記憶が蘇ったのだろう、彼らは大声出して、感情を露わにする。

一方ガイウスは、顔色一つ変えず、それぞれの訴えに対して頷いてみせる。 
「市民の声」は第一人者へ届いている、こんなサインだろう。

ヨナスが忠告した通り、群衆の爆発は危険だ。いざ目の当たりにすると、怯んでしまいそうだが。
 ここは事態を、冷静に見守るしかない。

第一段階は仲間の勢いから、個人の怒りや苦しさ、「過去の激しい感情や記憶」を引き出すのが目的なんだ。
 
ガイウスのメッセージから前世を思い出したと同時に、記憶の底に眠っていた怒りや妬みなど「過去の激しい感情と記憶」が蘇った。
 
それを現すのが、ヤロー・キャンドルの焔だ。

オレンジ色の焔は言動に同調する様に、神々の顔を隠すほど大きくなり、ユラユラ揺れている。

これは「過去の激しい感情と記憶」、癒しと浄化が進んでいる、新再生ネクタルが効果を発揮しているのだ。
 
古代で薬草ヤローは「兵士の傷薬」、こんな異名を持っていた。

俺も加わった「チーム・ヤロー」のメンバー、裕樹や元御典医ガレノス曰く。

抗炎症作用を持つ薬草は、古代から傷を治すために使われた。過去、俺も使った覚えがある。
 
今回は薬草ヤローと神酒ネクタルと混ぜ、「鎮めの魔術」を足した。

キャンドルの明るいオレンジ色の焔は、彼らが崇拝するイエスのシンボル「八角形」の中で、「過去の激しい感情と記憶」、心の傷を癒して浄化する。
 
ガイウスが、彼らの記憶から引き出した事象は、前世ではギリシア人だった彼らと、ユダヤ人の対立を指している。

ガイウスの統治下に、ローマ帝国の属州アレキサンドリアで、事は起きた。
 
俺達を崇拝したギリシア人は多神教で、ユダヤ人は旧約聖書の神を信じる一神教だ。

両者は祖国を離れ、移住して生計を立てた。

仕事も手工業や通商業と似通っていた。
しかし開拓で先を行くギリシア人は、後からやってくるユダヤ人に、優位に立たれるのを、心よく思えなかった。
 
さらにユダヤ人の独特な習慣も、対立を深める原因になっていた。

その一つがユダヤ人たちの安息日、金曜日だ。
神に祈る事だけが、「仕事」になる。

「モーゼの十戒」に従わなければ、神の罰が下る。これはユダヤ教徒にとって、生き方の基本が綴られている。
 
ところがギリシア人だけでなく、ユダヤ教徒以外は、十戒に従って生きてはいない。
安息日でも、普通に仕事をする。
彼らを怠惰だと感じてしまうのも、仕方ない。

ましてユダヤ教徒はローマ帝国内で、十戒に沿った生活習慣を特別に認められていた。

でないと彼らは「神の罰が下る」、帝国内で事を起こしてしまうからだ。
 
しかしローマ帝国内に住むユダヤ人も、経済と繁栄を支える重要な民族だ。

初代皇帝アゥグストスの治世から、「寛大」な処置を整え、継続を徹底していた。
なかなか難しい、共存だったろう。
 
しかしライバルのギリシア人にしてみれば、寛大な対処も、面白くない。
だからガイウスの皇帝即位を利用して、事を起こしてしまった。
 
「我々が崇拝する最高神ゼウスは、ローマ皇帝ガイウスだ。彼が頂点に立ち、帝国を支配する」

では「神」を敬う我らは、何をしても許される…と都合よく解釈してしまった。
 
ユダヤ教徒の礼拝堂へ、ガイウスの像を持ち込んで、事を起こした。
神を模した像に祈るなど「十戒」では御法度、…偶像崇拝は神の怒りに触れるわけだ。

さらに大事な船や、家々を焼き払ったうえ、盗みを働いた。
 
当然、辛酸をなめたユダヤ人も黙っちゃいない。
代表者の「フィロ」を先頭に、ローマを訪れ皇帝ガイウスに抗議した。
 
結果ガイウスは、アレキサンドリアに新たな長官を任命し、ギリシア人の勝手な振る舞いは禁じられた。ただこの後も、攻防は繰り返された。

まあねえ…古今東西、事を荒げる種は哀しいかな、存在してしまうのだな。
 
「カリグラめ、お前の政治的な無能さで、私たちは同じ帝国に住む民族と争ってしまった!」

「お前こそ、最後の審判を受けろっ!」
 
この一件が記憶の底から蘇った彼らは、怒りの感情、その矛先をガイウスへ向けている。

しかしヤロー・キャンドルの焔が、癒しと浄化を進めている。
鎮静の魔術のお陰で、彼らは神々の存在と行動まで気が付かない。
 
「ゴホッ、ゴホッ…過去私があなた方に、迷惑をかけた、大変申し訳ない」
 
ガイウスは感情を爆発する彼らに対して、丁寧に頭を下げた。

作戦を順調に進めてくれるが、やはり全身に力が入らないようだ。蚊の鳴くような声だし、咳き込んでしまった。
 
「アレス、急ごう。こちらでは意識が戻っているだけに、手術現場では麻酔の効果…鎮痛・鎮静・筋弛緩が、不足しているかもしれない」

「了解、そんなリスクもあるのだな。手術を行う一太が驚いて、焦っているかもしれない」
 
紺色のスクラブ姿の直人は、首にステートをかけて臨戦態勢だ。

ガイウスの抱えるリスクについて、素早くアドバイスをくれた。
 
…皆、聞いてくれ。ヤローキャンドルは、間も無く彼らの怒りを鎮めるはずだ。
オレンジ色の焔が消えたら、合図だ…


俺はメダイを通して伝えた、それと同時だ。

ビュン、ヒュン…ヒュン。
 
彼らはガイウスに向けて、石を投げ始めた。
しかも手術部位を狙い、投げつけている。

ガイウスは取り乱す事なく、静かに数メートル上昇した。

「戦車競技や、派手な催しものばかりを好んだ、穢れた皇帝め!」

「お前の影響で、古代ローマ帝国はパンとサーカス、快楽と支配ばかりを追い求めた、クレイジーな国家だと誤解を植え付けた、懺悔しろ!」
 
ビュン、ヒュン…ヒュン。
 
「あなた方の記憶には、生前の私の好みだけでなく。死後、歴史家が綴った内容まで残っていた。それが、蘇ったようだ」
 
「無能な皇帝が、偉そうな口を叩くな!
聖なるイエスが被った苦しみ以上の、苦痛を味わうがいい」
 
イエスの「磔刑の傷」になぞらえるどころか、猛り狂うように、手術部位へ投石している。

直人は走り出すような仕草をみせたが、プルートが制した。そのまま踏みとどまり、事態を正視している。
 
なかなか手強い感情と記憶のようだ、ヤロー・キャンドルの焔も更に大きくなり揺れている。

それでも感情を爆発できる彼らの様子からして、ガイウスが主催した催し物を、見物した当時の記憶も蘇ったのではないか?

となると悔しさや後悔も、混在しているのかもしれない。
 
直人を始め、俺達が助けに向かわないのは、ヤロー・キャンドルの効果だけでなく、親父ゼウスの活躍だ。
 
バシッ、ビリビリビリ…。
 
ガイウスの肩から飛び立った金色の鷲は、大きな翼を振り風を起こし、ことごとく石を跳ね返している。

さすが親父だ、閉所恐怖症の発作は治まった、皆に迷惑をかけない形で協力している。

「神に誓った」からには、その力を存分に発揮している。自分と同化した、神を名乗った男を守っているのだ。

ゼウスは自らの翼に「跳ね返りの魔術」と、「消失の魔術」を掛けていた。

ガイウスに石は当たらないし、翼の風を受けた石は消えてしまう。
誰にも新たな傷は、生じない。
 
親父の化身の一つ、「雷電」を落とさないのは、万が一を考慮したのだろう。
医療機器が取り付くガイウスの体に、もしも雷が飛んだらマズイだろう。
 
「そこまでにしろ…」
「無駄な争いは、終わりにしよう…」
 
おやっ?
最初に怒り立った男たちが、投石を止めさせた。

これまでの怒りは、潮が引くように静かにおさまっていく。
 
すると彼らは再び地面に跪き、夜空を飛ぶ鷲の動きを目で追っている。

金色の鷲も、彷徨える魂らの変化に気が付いたのだろう、ガイウスの左肩に戻った。
 
 
 
 
「あなた方がヴィーナス教会と洞窟に装飾した、マリアと幼子イエスや天使たち、そして女神アフロディーテ、ニンフたちは、とても美しい」
 
ガイウスは項垂れる彼らに、穏やかに話かけた。
 
「たとえ信仰する神々は異なれど、芸術の美しさは調和している。あなた方は自らの才能を活かし、見事に表現したのだから。全ては調和した、それで良いのではないか?」
 
彷徨える魂らは、返事をしない、押し黙ったままだ。しかし不要な感情と記憶は、消えたはずだから、頭の中はスペースが出来る。

ガイウスの声に、耳を傾けているだろう。
 
まして先ほど彼らは、イエスの降臨だと信じていた際、自分たちの作品がいかに素晴らしいか、アピールしていた。ガイウスは好機と捉え、それを持ち出したのだ。
 
…アレス、ヤロー・キャンドルのオレンジ色の焔は自然に消えた。彼らの激しい感情と記憶は癒され、浄化されたようだ。
 
本陣を背後に立つ、豊穣の神クロノスからメダイを通して報告が届いた。
祖父は補佐官の役目を、果たしてくれる。
 
…了解。 第1段階はクリアだ。第2段階、「月桂樹とネクタルの香油」を使おう。八角形の香炉から、焚いてくれ。
 
俺は神々と女神に、今度こそ指示を出した。
 
「私は2000年近く、彷徨ってしまったが。
数えきれないほど、美しい芸術と出会った。
その一つが音楽だ。
中でも楽器と人間の声、演技まで全てが調和するオペラは、激しく心を揺さぶられた」

この間もガイウスは彼らに話かけ、次の癒しと浄化を進めている。
 
「私は教会に描かれた、マリア像のモデルと同じくらい美しい歌姫、妖しく嫉妬深い、素直に生きるトスカが好きだ。あなた方にとって、美しいと感じる物はなんだ?」
 
第2段階では、美しい物を短期記憶から呼び覚まして、しこりのように残る「頑なな感情や記憶」を癒して浄化する。
 
「ガイウスの頭の中では、贔屓にしたオペラ歌手ルカ・バリーニの歌う、妙なる調和が響いているかもしれませんねえ」
 
目を細めるヨナスは手袋を嵌めて、「八芒星」がついた黄金のベルトを、スタンドに立て掛けた。

「八芒星」はエメラルドで、出来ている。
ベルトは眩いグリーンと、ゴールドの輝きを放つ、ずいぶんと煌びやかだし貴重な物だ。
 
でもここにいる神々には、伝わっている。
ベルトは「神聖」なエネルギーを、醸し出しているとね。
 
「ほほう…遺品のベルトは、久しぶりの登場だ。俺だって、滅多にお目に掛からない」

両腕を組むプルートが、感慨深けに「黄金のベルト」見つめる。

バリー二家にとってベルトは門外不出だ、にも関わらず、この場へ提供してくれた。
 
「かつてガイウスは、古代マケドニアの王アレキサンダーに扮して、黄金の甲冑を身に付けた。
彼の柔軟でユニーク、そして美しいアイデアに答えなきゃ、古代ローマ時代から存続する、バリーニの名が廃るってもんです」
 
ヨナス・バリー二は一族に誇りを感じつつ、楽しんでいるのだな、微笑んでいる。

 父親か、お爺さんから聞いた、昔話しを思い出しているのかもしれない。


そうそう、かつてガイウスも「ハマった」オペラ・トスカは、画家のカヴァラドッシ役は、テノール歌手のルカ・バリーニで。

歌姫トスカは、ソプラノ歌手アデーレ・ヴィアンキだ。

二人にとって、当たり役だったなあ。
声も演技も色っぽくて、トスカの切ないラストを盛り上げたんだ。

プライベートではそれぞれ結婚していたが、抜群のコンビネーションは人気を博した。
 

俺も誰とは言わないが、アフロディーテ以外の恋人と観に行ってしまった、もう時効だな。
 
しかし「黄金のベルト」は、ヴィーナス洞窟と教会をデザインした、オペラ歌手の遺品だ。

ルカ・バリー二の叔父にあたる、当時一世を風靡したカストラート、シルバヌス・バリーニが引退公演で使った遺品は、神聖なエネルギーを放っている。

 
「さあ今度も、私に教えてくれないか?
芸術家のあなた方が、美しいと感じる物をね」
 
ガイウスは、彷徨える魂らの注意を惹いた。

そして神々は、二人のムネメそして涼と早苗を「八角形」の中へ、仲間達の元へ移動させた。
 
 
お時間を割いてお読み下さり
どうもありがとうございました


写真 文 Akito
 
参考図書他
新潮社
塩野 七生 著
ローマ人の物語 Ⅶ
 
河出書房新社
杉全 美帆子著
イラストで読む ギリシャ神話
 
西東社
中村 明子 著
ビジュアル図鑑 聖書と名画
 
https://www.timeless-edition.com
自分と調和するライフスタイルを提案
各精油のアロマ効果
 

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