フォロ・ロマーノ
コンコルディア神殿

「ウオッホン!」

軽く咳払いして、カッコつけよう。

「皆さん、ご機嫌よう。
お変わりありませんか?

久しぶりの登場、古代ギリシア・ローマの最高神ゼウスです。寄り道もせず、日々世界を見守っております」

「貴方!呑気な事を、言ってる場合ではありませんわっ!危機感を持って下さい!」

「ヘラ、挨拶だよ…あいさつ」

彼女が若干ピリピリするのは、仕方ない。
実はこらから、重大な会議だ。

ヘラが洗濯してくれたオレンジのトーガも、フレッシュな月桂樹の香りで引き締めた。

この香りはスーッとして、頭も冴える。
寝癖もターバンで、なおしてきた。

ギックリ腰予防のコルセットも巻いてきたし、痛み止めの薬も飲んできた。

もちろん忘れずに、薬も持参した。長時間になるだろう、重要な会議も過ごせる。

ヘラも新しい、真紅のチュニックを着ている。
おかげさまで過換気発作も起こらず、最近は顔色も良い。体調が良いせいか、これでも優しくなった。

「貴方、エロスとプシュケは欠席ですが。他の者は、会議に出席しますわね?」

「オヤジとガレノスを含め、謹慎中の二人以外は出席するはずだ」

これからオリュンポス12神を始め、主要メンバーがほぼ揃う会議だ。

それは例の椅子事件に端を発した、「神々の安全対策委員会」だ。

さらに椅子を消滅させたヴォータンが、ハンナを伴い出席する。

なんせ近隣の最高神ヴォータンの力まで借りて、ようやく事件は収まったからな。

ケンイチやエロスは回復したが、重体だった。

挙句の果ては神々の主治医、倫太郎を始め、直人や裕樹まで巻き込んでしまった。

事態が収拾するまで、ワシとヘラも椅子を狙うワルキューレや、妖精に魂を狙われていた。

公彦の自宅や、神殿内の奥深くへ隠れていたくらいだ。

「不死である私達の魂を脅かすような魔力は、尋常ではありません。ヘパイストスもそこまで魔力を持ちません」

女神ウエスタの指摘は正しい。

アフロディーテやアレスの出来心から始まり。ここまで魔力を、椅子欲しさの邪念を拡大するだろうか?

事態を重く受け止めたローマの最高神、女神ウエスタが招集をかけた。

倫太郎には、それは神々の最高神ゼウスの役目だと冗談半分、痛いところを突かれたがね。

彼も気管支炎から回復して冗談が言える分、内心ワシはホッとした。

これから部屋数の多いウエスタの巫女の家で、安全対策委員会が開かれる。

最後に開いたのは、いつだったか覚えてない。そのくらいヘビーな事件だ。


「あらあ、紘一。良かった、貴方も出席して下さるのね」

「やあ、ヘラとゼウス。女神ウエスタ直々に出席を促されたからには、都合をつけるさ」

おっ、カエサル神殿に詣でたのだろう。
紘一が神殿から、ひょっこり現れた。

彼と公彦は、昔からカエサル神殿への献花は忘れない。古代ローマを、帝国の基盤を構築した男を敬愛しているからだ。

紘一と公彦との出会いも、ワシらにとっては宝なのだ。彼らとの友情を、古代の神々と女神に感謝している。

色々問題は起こったが、それは隅に置いて。
個性的な仲間に、感謝すると言う事だな。

「ゼウス、随分心配な顔をしているが、君らしくないね。
倫太郎君らは、主治医を続けてくれるよ」

「うん、それを聞いて安心した。さすがに、本人たちへ尋ねるのは、憚られた」

彼は、長い付き合いだ。
ワシの本音も、お見通しだな。

倫太郎たちとの出会いも、神々にとってありがたい。長い時間生きているだけに、心身に負荷をかけてきたからな。

何より彼らも、紘一や公彦と同じく、大事な仲間だからな。
信頼は、失いたくない。

「貴方!だからこそ、安全対策委員会を開くのでしょう?
もう次の主治医は、いませんよ」

「ヘラ、分かってるよ」

さて、ワシは司会だ。

個性的な神々の意見を、しっかり纏めなければいかん。コルセットも巻いたから、ギックリ腰も大丈夫だ。
これもあの椅子が、引き金だったな。


お読み下さり
どうもありがとうございました

写真 文 Akito

こんな会議があったら、面白いだろう。
ふと浮かびました。
後日へ、続きます。