ヤマハのハイエンドモデル(アメリカ先行発売) "PHX" シリーズを試奏してきた。
日本には今のところ試奏用の1セットしか在庫がなく、国内流通は秋以降になるとのこと。
詳細はこちら→YAMAHA USA

マテリアル、シェル厚、ベアリングエッジの角度・形状、ラグ、フープ、ショックマウントシステムを導入したYESS Ⅱ…細部に至るまで全面的にゼロから開発された全く新しいドラムセットで、従来のヤマハ・ドラムスの印象とは全く別物だった。

まず、"Hybid" Shell Construction と呼ばれる独創的なシェル構造を分析してみる。

以下、シェル外周部から
Ash x 1ply
Maple x 1ply
Kapur x 3ply
Jatoba x 1ply
Kapur x 4Ply
Maple x 1ply

4種のマテリアルは Ash → Maple → Kapur → Jatoba という順に硬度が高い。つまり、11プライ・シェルの中心に最も硬い Jatoba を配したシェル構造になっている。この構造によってより豊かなシェル・バイブレーションを獲得出来る、と説明されている。(逆に言えば、シェルのアウター、インナーに硬度の高いマテリアルを配すと鳴りが妨げられる、とも言える)

その理論の真偽の程は物理学者ではない私にはジャッジしかねるが、とにかく一発叩いただけでその爆発的なパワーに圧倒された。隣に置いてあった従来の同社別モデルが物足りなく感じてしまうほど音がデカい。アルミダイキャストフープの剛性の高さもパワフルな鳴りに寄与しているが、シェルそのもののパワー感が凄まじく、非力なスネアではバランスが取れないほどの音圧である。

ベアリングエッジ内角は30°(ヘッド面からは60°)。従来のエッジ角の主流である60°、45°から比べると「絶壁」と言いたくなるほどの鋭角的な仕上りとなっている。エッジ外角は TT、FT、BD でそれぞれ異なっており、ドラムのタイプ別のサウンド・キャラクターの差別化に一役買っている。内角30°のエッジ角を試した事がなかった私の「アタッキーになりすぎるのでは?」という予想は、その図太い重低音にあっさりと裏切られた。何度も言うが、とにかくパワフルなのである。自分の手持ちのドラムにも「絶壁エッジ」を試してみることを決意。

加えて YESS Ⅱ と呼ばれるタムのマウンティング・システムの見直しが非常に大きな効果を生んでいる点も見逃せない。タムホルダーベースをマウントした木製のベースプレートが中間に頑丈なラバースペーサーをかませたボルトでシェルに取り付けられており、タムホルダーにタムを固定してもサウンドの変化は聴感上分からなかった。

従来の YESS はタムホルダーに固定することでパワー、サスティーン共に落ち込むことが避けられなかった。改善策としてタムスタンドからロングタイプのタムホルダーでリーチの長いセッティングをすることで対処していたが、YESS Ⅱ に関しては、キックの上からショートロッドのタムホルダーでセッティングしても手で持って叩いた時と変わらないサスティーンがキープされた。非常に優秀なシステムなので、今後、全シリーズに採用されることを望みたい。

DWの成功以来、「薄くて良く鳴るシェル」が主流を占めた感の強いドラム業界だが、「厚胴ならではの良さ」を再確認する試奏結果だった。私見だが、薄いメイプルシェルは鳴らしやすい反面、アタックの輪郭が甘くパワーが不足しがち。そんなウィークポイントをレインフォースメントや剛性の高いダイキャストフープで補った製品(決して否定する訳ではない)が多い昨今のシーンに、一石を投じるドラムの登場と言ってよさそうである。かなりの高額商品であることのみがネックと言えばネックであるが…。