現在進行中のツアーで、ケニー・アロノフのシグネイチャー・スネア "Trackmaster" KA145の評判がよい。ニッケル・ブラック・フィニッシュを施した14" x 5”のブラスシェルに手彫りの彫刻をあしらった高級感溢れるルックスで、ブラスならではの明るい響きで扱いやすい。Ludwigの名器 "Black Beauty" を長年愛用してきたケニーのシグネイチャー・モデルであるだけに、Black BeautyのTAMAヴァージョンと言ってしまえばそれまでだが、決して単なるレプリカで終わっていない。

イメージ 1

これは1920年代に製造されたLudwig & Ludwig Black Beauty。ヘヴィ・ブラスと呼ばれるシェル構造が独特で、全てのパーツがブラス製である。私の乏しい知識(ヴィンテージ・コレクターではないので…)では、シェルだけでなくネジ一本に至るまでオール・ブラス製などというスネアは他に例を見ない。特にサウンドに決定的な影響を及ぼすフープがブラスという点は見逃せない。美しい響きでドラムのみならず管楽器の素材としても名高いブラスだが、過去~現在に至るまで、ブラスフープは意外なほど少ないのが実情。このスネアについては後日改めて考察したい。

KA145には2.3mm厚のブラス・マイティー・フープが採用されている。このフープが大変優秀。メタル、ウッドいずれのシェルにもよく合う。ダイキャストや同じプレス加工で作られるスティールのフープに比べて剛性が低いだけに、音量は控えめになってしまう。しかし、ハイピッチで使う場合にはその剛性の低さが幸いしてアタックの先行する「カンカン」した音になりにくい。スナッピーの出方が非常に秀逸で、中域~ローエンドが意外なほどしっかりした太い鳴りを得られる。

この「ハイピッチにしてもカンカンしない」というキャラクターが非常にありがたい。何故なら叩き手側としては、数時間に及ぶ長丁場ではハイピッチのスネアの方が楽に叩けるし、叩きムラも出にくい。聴く側としても「キーン」というピーキーで耳障りな倍音を長時間聞かされたらたまったものではない。更に言うと日本人は「コーン」というクラック音より「バシッ」というスナッピー成分の強い音を好む傾向が顕著なので、私の仕事という意味でもクライアントの要求に応え易いのである。

その優位性に以前から目をつけていた自分は、スタジオでの録音には頻繁にブラスフープを投入してきた。しかし、前述のように剛性の低いブラスフープには、繊細な1プライのヘッドの方が相性が良いだろう…との先入観を持っていたもの事実。レモ・エンペラーやエバンス・G2シリーズといった厚めの2プライ・ヘッドとのマッチングに疑問があり、耐久性重視で2プライを使わざるを得ないライブでのブラスフープ使用は敬遠してきた。

しかし、今回から先入観を抑えてエバンスG2コーテッドを張って大ホールで使ってみた。実のところ、生音はダイキャストフープ装着のパワフルなスネアの音に慣れていた自分には物足りず、「コレで大丈夫なのか?」と思ってしまった。しかし、外音(客席に向けたスピーカーの音)が抜群に良いらしく、「今までのスネアは何だったの?って感じ!いいよ、これ!」とエンジニア氏から絶賛をいただけた。去年の春からずいぶん色々なスネアを試してきたが、ここまで露骨に評判がいいスネアは初めてである。不特定多数のリスナーからの評判も上々。

今回勉強になったのは「絶対的な音量のデカさ」=「音抜けのよさ」
という方程式は成り立たない、ということ。
何事も試してみないと分からないことばかりである。