偉大な米国の国際政治学者、ニコラス・J・スパイクマン(Nicholas John Spykman:1893~1943)が1942年に出版した著書America‘s Strategy in World Politics: The United States and the balance of power『米国を巡る地政学と戦略―スパイクマンの勢力均衡論』(小野圭司訳)、以下America‘s Strategy in World Politicsという)について、これからゆっくり学んでいきたいと思います。

 

【スパイクマンについて】

 最近「地政学」がブームです。このブログを訪問していただいた皆様には先刻承知であると思いますが、英米系地政学の祖としてマッキンダーと並んで、スパイクマンが挙げられています。

 スパイクマンは、1893年10月13日、オランダのアムステルダムで生まれ、1928年に米国の市民権獲得、イエール大学の国際研究所所長等を歴任しましたが、第二次大戦中の1943年6月26日に49歳で死去しました。

 

【なぜAmerica‘s Strategy in World Politicsを学ぶべきなのか】

 スパイクマンは「リムランド論」の提唱者として一般には知られています。しかし彼の生前最後の著書のAmerica‘s Strategy in World Politicsには、リムランド論は全く触れられていません。 

 彼は同書を1942年に出版後、1年足らずで死去しています。同書中、単語としてrimland(s)(リムランド)が3か所ありますが、リムランド論に結び付くような文脈ではなく、リムランド論に関する目次もありません。また、同書のIndex(索引)にもrimlandはありません。第2回目以降で触れますが、一方で本書のキーワードであるBalance of power(勢力均衡)、Hemisphere Encirclement(半球包囲)はIndexに項目があります。なお同書の翻訳の『米国を巡る地政学と戦略―スパイクマンの勢力均衡論』には索引がありません。

 実は、リムランド論は、The Geography of the Peace(『平和の地政学』(奥山真司訳))で初めて主張されている理論で、スパイクマンの死後に彼の助手が編纂し、スパイクマンの名で出版された著書で初めて主張された論なのです。

 『平和の地政学』の53頁には、「マッキンダーが最近発表した新しいハートランド理論では、リムランドの重要性や、この地域でドイツの拡大を防ぐためにイギリス・ロシア・アメリカが協力しあうことの必要性が認められる」との記述があり、H.J.Mackinder,”The Round World.”Foreign Affairs,July,1943から引用した旨明記していて、1943年7月の論文であることがわかります。

 ところが、スパイクマンは、1943年6月に死去しているのです。すると、スパイクマンは自分の死後発表された論文で重要な自説を展開していることになります。

 また、85頁には「1943年には連合国軍側のパワーが拡大し、・・・その同盟国であるイタリアは征服された。」とありますが、連合国軍のシチリア島上陸は1943年7月10日であり、スパイクマンの存命中の6月にはイタリア本土はおろか、シチリア島上陸もスパイクマンの死後なのです。

 以上のことから、スパイクマンを学ぶためには、一義的にはAmerica‘s Strategy in World Politicsを中心とすることが望ましいと考えます。同書は、スパイクマンの理論の真髄が非常に緻密に書かれており、何度読んでも気づきを与えられる素晴らしい作品です。これから、同書を皆さんと一緒にゆっくり理解を深めていきたいと思います。