先日 相方をHIV検査に連れて行きました。


去年の自分の感染発覚から1年近くが立とうとしていていますが

当時から検査に行けとさんざんいっても まるで行く気配は無く

行かなアカンと思ってる の1点張りでした。


しかし、最近休みの日は1日じゅう眠いといって過ごし

起きたと思えば 寝すぎて頭痛がする といい続けているので 

こちらとしても 免疫が下がり始めて体力が減り始めてる兆候ではないか

という不安がひどくなってきました。


このまま放っておくと 僕みたいに肺炎おこして死にかけるかもしれない。

そうなってしまったら… とおもったので

目の前でサイトを見せて、僕が予約をして即日検査に連れて行きました。


検査前日からソワソワしているのが目に見えてわかりました。

検査に行かなければいけない事は十分にわかっているようですが、それ以上に恐怖感が強いらしく

検査当日も怖い怖いといいながら 部屋を出るまでいい年をした男がずっとクマのぬいぐるみ

を抱っこしていました。


行きの電車の中でも電車待ちでも どうでもいいような事を必死に

話しかけてきて、不安を紛らわそうとしているのが 痛いほどに伝わってきました。

本人もたぶん何を会話していたのか思い出せないような そんな内容だったと思います

話す言葉ひとつひとつ、相方の身から湧き出る不安にかき消されていく そんな状況でした。


検査会場にに一緒に入り、受付で手続きをさせ

医療スタッフは親切な対応でした。さすがだと思いました。

受付番号が呼ばれ、看護士らしき女性に部屋に連れて行かれました。

HIVの検査は匿名検査なので、検査を受ける人は番号で呼ばれます。 

何も言いませんでしたが 一人で震えそうな足で連れられていく姿を見るのは辛いものがありました。

病気の子を持つ親の気持ちとはこんなものなのだろうか。


採血が終わり、腕を押さえながら帰ってきた。

「何も聞かれへんかった」と医療スタッフが詳しいことを聞かなかった事に少し驚いていたようだ。

まあ、普通に診療に来ているわけじゃないからね…。

検査結果がでるまで30分…僕は彼を勇気付けることも無くほぼ無言で面白くも無い診療所のテレビを見ていた。

いや、見ていたというよりは、ただ視線を置いていたというのが正しい表現だろう。

他にも検査を受けている人もいたが、検査結果待ちの待合はなんともいえない重い空気が漂っている。

その人たちみんなの視線もテレビに行っていた。

こういうとき、テレビでネガティブなものや、感染に関わるようなものが流れてくるとその空気は一層重くなる。

ついていた番組がお気楽なバラエティ番組でよかったとひしひしと感じ、この世にバラエティ番組があってよかった

と感謝したのは生まれて初めてだ。ここで、医療ドキュメントや暗いドラマなんかやってたら、待合の人間の心は

粉々に折れ砕けてしまっただろう。


先に検査を受けていた人が、結果を聞きに入った部屋から出てきた。

待合の人たちは、テレビから目をそらさないが、出てきた人の動向が少し気になるような感じだった。

出てきた人の足取りは軽く、ほっとした感じ、だけどもそれをここで顔に出してはいけないといったような表情で

診療所を出て行った。

おそらく陰性だったのだろう。

よかったね。


重い空気の中、僕は彼に何一つせず時間が来た。

彼が結果通知のために部屋に呼ばれた。

同時に僕は時計に目をやり、時間をカウントし始めた。


時間が長ければほぼアウト 間違いないだろう。

陽性告知ならおそらくそれ相応の対応や、患者に対する説明などもあるだろうから

きっと時間がかかる。出てくる時間が遅いか早いか、これでおそらく判断がつく。僕はそう思った…。


やっぱり陽性なんだろうか…

自分が感染させたんだろうか…

陽性だったらどんな言葉かけよう…

そんな思いが一気に走った。


彼が陽性だったとして…

僕が今の相方から感染させられていたと仮定して、去年の今頃僕が発症した事実を当てはめると

体の強い弱いがあるにしろ、現在まで彼の体に何の変調が無いということは極めて考えにくい。

彼からもらっていたとすれば、発症とまでは行かなくても今頃彼も何らかの不調が発生していないと辻褄があわない

というのが一つあった。

彼がキャリアではなく、彼に会う前に僕がウイルスを持っていてそれを感染させたと考えるのが一番スジが通る。

彼が陽性だった場合、つまりはそういう事、自分のせいなんだろう、そんなシナリオが自分の中で出来上がっていた。

もしそうだったとして、自分はそれを彼に伝えたほうが良いのだろうか。

彼だって今までセックスした相手は僕一人ではないし、定期的に検査を受けてたわけじゃない。

確実に感染源が僕だとは断言できない。あくまで現時点で僕である可能性が高いという話だ。

しかし、言ってどうなる。

彼だって感染源がわかるにこしたことは無いが、そんな事を行って僕は泣いて謝ればいいのか。

そんな事を思いながらこの先彼に接するのが辛いというだけなら、その謝罪は僕の自己満足でしかない。

年上の癖に頼りの無い彼が生きることをあきらめないように、サポートしていくことこそが自分の役割なんじゃないか

そんな事を考えていた。

そのためにはどんな言葉をかけ、慰めてやるべきなんだろう。

あー、おそらく泣くんだろうな…。


なんて考えているうちに4分が経過した。

部屋からは、まだ何かはわからないが人が話している声が響いてくる。

4分…か、さっき陰性っぽい感じで出て行った人が5分くらいで出てきたから、この辺りがデッドラインか…。

僕も覚悟を決めなきゃいけないな…。こうなると自分の感染だけならまだしも、他人にまで迷惑を掛けていた

可能性があるとなると、他人には「もうどうなってもいい」理論は通用しない。せめて自分がしたことの責任やけじめは

つけなければいけない。


6分経過…。

やはりダメだったか…。そう思うと急に心拍数が上がりだした。こうなると冷静で居ることが少し困難になってくる。

秒針がこんなにも早く動くのかと思うほど、はやく時を刻んでいるように見えた。

さっきまで冷静にこれからどうすべきか考えていたのに、だんだん 僕はもうこんな体だしどうなってもいい、

けど、こいつだけは見逃してやってくれ…。陽性なんて…どんな顔して接すればいいんやねん…頼む…。そんな神頼みのような気持ちになっていた。


ガチャ…

ドアの開く音がした。だが、音のする方向は見なかった。

彼の足音が聞こえた。

足音に違和感はないか。力の抜けた歩き方になっていないか。

状況から判断して黙って察してやろうと思った。


…やけにスタスタと力強い感じで歩いてくる。

顔を合わせようとする前に、覗き込むようにこちらを見てほっとした表情をしている。

そして小声で「大丈夫やった」と微笑んだ。


…ふう。

「よかった」の一言に尽きた。

そして、僕は彼に一生の負い目を負わずにいられた事に、内心安堵した。