
腹が減ってある立ち食いそば屋に入った。
ここは立ち食いそば屋ながら珍しく、
僕の好きな牛スジが具としてあるのである。
休日の夕方だからか,
店内は男の客がちらほらといった感じだ。
僕はもちろんお目当ての牛スジを頼んだのだが、
いつもは迷わず牛スジそばにするところ、
今日はどんぶりと小さい麺(そば or うどん)の組み合わせである、
牛スジ丼セットにしてみた。
「牛スジ丼セット、そばでください」
すると古い友人のイシダくんに似たそば屋の店員、
返事もせずにレジをうち、オーダーを厨房へ伝えた。
僕は少々ムッとして、
何だこの店員,返事もしないで。
普通なら「かしこまりました」や、
「580円になります」という言葉があってしかるべきではないか。
と、思うと同時に記憶がよみがえった。
前回来たときも全く同じ思いをしたのだ。
普通ならそれ以後来ないところだが、
牛スジ食べたさか、その事をすっかり忘れていたのである。
気分は害されたものの、
まあそれほど腹が立った訳でもなかったので、
品物を受け取ると空いている席へと向かった。
立ち食いとはいっても椅子はあるのである。
そこで牛スジを食べつつ何の気になしに店内観察、
いや、店員観察していると意外にぱらぱらと客が入ってくる。
サラリーマン風の男性、パート帰りに小腹が減ったのか中年の女性、
小さい子を連れたお父さんなど。
そして先ほどの店員、やはり返事はしない。
恐るべき徹底ぶりである。
そうこうするうち今度は高校生の男の子二人組が入って来た。
注文を決めかねているのかメニューの並んだカウンターを右へ左へ、
移動しては立ち止まり,立ち止まっては移動している。
二人ともがなかなか決められずにいると、
新たに若い男性客が入ってきて、
カウンターに向かって近づきつつイシダくん似の店員にいきなり注文を伝えた。
さらに男性の歩は進みカウンターにだいぶ近くなり、
右往左往していた高校生がイシダくんと男性客の間に入ったところで、
ようやく男性は自分の前に先客がいたことに気づいた様である。
あ、フライングして注文してしまったようだ、
どうしよう、キャンセルして順番を譲るべきだろうか。
でも未だ注文は決まっていないようだし。。。
という様なそぶりを男性がみせていると、
イシダくんがマネートレーを掌でさしつつ一言、
「380円になります」
僕はハッとした。
彼が返事をしたのだ。
あのイシダくんが、である。
彼にしてみれば少々カウンターから少々離れた客に対し、
お会計はこちらへ、という意味合いでとっただけの行動なのかもしれないが、
僕は彼が返事をしたという事実に驚き、何より感心してしまったのである。
やれば出来るじゃないか、と。
いやはやヒトというものはギャップに弱いというか、
店員が客に返事をするという当たり前の事が、
なんだかとてつもなく偉大な事に思えてしまい、
さっきまで悪印象しかなかった店員に対し、
妙にいい印象を覚えてしまったのである。
この心理状態、一瞬すごい発見をした様な気にもなったが、
ならば早速今後は第一印象を悪くしてみるかというと、
すぐに実現できない辺りが筆者の気の弱さである。
それもまた一興。