今日ははるばる足をのばして
テレントラスの街まで出かけた。
大陸の中央に位置し
三つの交易路が交差するこの街では
一月に一度、大きな市が立つ。
ぼくは時々そこへ出かけては、
露天をめぐって珍品をあさるのを楽しむのだ。
この街を歩くと世界のさまざまな街を思い出す。
東方のさいはての地に赤く咲く砂漠の街ロトニア。
クレス平原のその先、五方山脈の洞窟都市シュロ。
白色湾に面する美しき音楽の都ラテュ-ス。
街路の店先には
そこここから送られて来るたくさんの交易品が並ぶ。
南方の果実。東方の織物。北方の工芸品。
どれも美しいものばかりだ。
ここへ来ると心が踊る。
ぼくは珍しいものには目がないのだ
しかし、ぼくの目当てはあくまで露天。
これらの交易品はそれなりに値がはるし。
かの街で手に入る品であるからして。
歓楽街の小袋街道の奥を抜けると
お目当ての市に出る。
小さな露天がそこここにゴチャッと集まった
このあやしげな感じがぼくは好きなのだ。
協会外の魔法使いが作ったあやしげな品々や薬品。
出所がわからない廃棄品。
絶版ものの稀少本。廃盤になった音源鏡。
なじみの店主に挨拶をしつつ
かけ引きの交渉をするも
どうも此処一つ手にしたい品が見あたらない。
ぼくはウロウロと露天をめぐって
一つの露天の前で立ち止まった。
露天内にちょこんと座った少女が可愛かったからではなく
(・・・もちろんそれもあるけど)
「ロムストレムルの古道具店」と書かれた看板に
つよく引かれたのだ。
ロムストレムルと云えばあのロムストレムル?!。
知る人ぞ知るその名は
放浪者ムノーの著作「カクバトート見聞録」に出て来る
賢人ロムストレムルだ。
ぼくはまぁ、そんな事はなかろうと
「あのーおたずねしますけど・・・
このロムストレムルとは
あの賢人ロムストレムルと何か関係あるんですか?」
と少女にたずねた。
「あら。ご存知なのですか?」
「もちろん。わたしの祖父があのロムストレムルです」
長年さがしつづけて来たその人の孫娘が
目の前にいるとは、とても信じられなかった。
ロムストレムルはその名声を拒んで
世界から消えてしまったからだ。
しかし、ロムストレムルとの対面はついにかなわなかった。
少女の話によると
祖父であるロムストレムルは昨年他界したとの事であった。
名声とはうらはらに一家は貧しく
これらの品々は
ロムストレムルが生前手放さなった収集物であるが、
少女の姉には結婚を誓いあった婚約者がいて
姉の持参金を手に入れるため
どうしてもまとまったお金を手に入れなくてはならなく
売りに出す事になったそうなのだ。
そんな話しにはどうもぼくは弱いのだ。
もちろん女の子にも。
なけなしの財布と相談して次の品を買った。
琥珀の指輪
(琥珀の中に見た事もない花が咲いている)
挿絵入りの歩行植物図鑑。
(著者不明)
鍵の掛かった小箱
(鍵ナシ。中に何か入っている)
指輪は珍しいモノだし、まぁ贈り物になるだろう。
ふと、あの子の顔がうかんだ。
歩行植物は何回か飼った事があるが
よくなつくし、手間もかからない。
ただし往々にして、脱走して消えてしまう。
挿絵の中にはまだ知らない珍種も書かれていた。
この鍵のない箱に
なぜかぼくは一番つよく引かれた。
ロムストレムルのその人が閉じ込め時間が
この中にあるのではなかろうか。
そんな感傷めいた考えがうかぶ。
何が入っているのだろう。
孫娘はたいへん感謝してくれた。
朝からまったく売れずに途方にくれていたそうなのだ。
まぁ、ロムストレムルの名を知るものは少ないだろうし
けっこうな高値が付いていたのだから、しかたない。
また何かあれば買いたいと申し出て、
連絡先もおしえてもらった。
そして先程かえって来て
さっそく鍵開けをしてみようと思ったが、
それはやめた。
わからない方が楽しめるる事もあるし。
鍵が掛かっているのなら、開けてほしくはないのだろう。
ぼくは指輪を手にして
明かりに照らして中に眠る花を眺めた。
時の中でも変わらないものもあるのか。
これを渡せる日が早く来れば良いのに
そんな事を考えた。
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2006年にmixiで公開していた小説です。
どうでしたでしょうか。
日常からはみだした物語がぼくは好きなので
こんなのも書きます。
大した事件もおこらないけど
ここではない彼方へ思いをはせ、
行った事ない世界を
見て来たように書けたらと
つねづね思っています。
またどこかへ行ったら書きます。
では。