地域頭痛医療推進プログラムMigraine Clinical Speakers' Seminar(MCSS)2009が10月10日に東京国際フォーラムで開催された。


慶應大学医学部 鈴木則宏教授が「片頭痛の痛みのサイエンス」と題して基調講演1を行われた。片頭痛患者が痛みを感じるメカニズムには、三叉神経とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が特に重要で、CGRPの分泌にはセロトニンのほか、女性ホルモンや一酸化窒素(NO)の関与も重要であることを示された。また、CGRP受容体のreceptor activity-modifying protein-1(RAMP1)に関する最近の知見と、CGRP拮抗薬(ゲパント系薬剤)について解説された。また、ドパミン系の関与についても述べられた。


基調講演2は、間中病院、間中信也院長が「機能性頭痛一元論を検証する~片頭痛と緊張型頭痛は連続体か、独立した頭痛か~」と題して、片頭痛と緊張型頭痛の関連について歴史的な経緯や概念の変遷について、レクチャーがなされた。結論としては、片頭痛と緊張型頭痛は独立疾患であるが、片頭痛患者の緊張型頭痛は連続したものと考えられる。従って独立説も連続説も正しいと結論された。


ワークショップは片頭痛診療を深めるーOne-up treatmentを目指してという総合テーマのもと、10個のトピックグループにわかれ議論がなされ、各々のディスカッショングループから討論の成果のプレゼンテーションが行われた。


5時間近い長丁場の研究会であったが、有意義な最新知識の整理と情報交換ができた。
ご参加の皆様、お疲れ様でした。

第14回国際頭痛学会(14th International Headache Congress;IHC2009)が2009年9月10日~13日に米国、フィラデルフィアで開催された。
日本からも多くの参加者があった。ただ、インフルエンザの影響か、前回の2007年よりは少なかったような印象をもった。



Dr.Takeshimaの頭痛ブログ-ihc-2
ポスター会場の入り口。

頭痛に関する多くのテーマについて、新しいデータや知見が発表され討論された。
片頭痛のメカニズムは痛みは三叉神経血管系の炎症が重視され、閃輝暗点は皮質拡延抑制が重視されているが、今回の会議では、血管性因子の関与についてあらためて認識しようとするものがいくつかあったのが興味深かった。今後の研究のひとつの方向かもしれない。
もうひとつの重要なテーマは片頭痛の慢性化(chronification)。慢性化のリスク要因とメカニズムに関する話題が多かった。

慢性化のリスク要因には、性別(女性)、社会的経済的階層(低い教育歴と低収入)、婚姻状態(未婚)、頸部または頭部外傷の既往など、医学的に対応できないものと、肥満、いびき、睡眠時無呼吸、生活上のストレス、カフェイン摂取、急性期頭痛薬の過剰使用など治療ないし対応が可能な要因があるとされている。



Dr.Takeshimaの頭痛ブログ-IHC2009-1

メイン会場でのシンポジウム風景

片頭痛の急性期治療薬はトリプタン花盛りだが、研究はポストトリプタンの時代になっている。現在、最も注目されているのはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗剤である。Olcegepan(BIBN4096BS)と Telcagepant(MK-0974)が有望である。


Cephalalgia の4月号にOlcegepan(BIBN4096BS)の実験データが報告されている。



Koulchitsky S, Fischer MJ, Messlinger K (2009) Calcitonin gene-related peptide receptor inhibition reduces neuronal activity induced by prolonged increase in nitric oxide in the rat spinal trigeminal nucleus. Cephalalgia 29:408-417.


一酸化窒素(NO)供与体を投与すると、片頭痛患者や群発頭痛患者では各々、遅発性の片頭痛発作、群発頭痛発作が誘発され、緊張型頭痛患者では頭痛が増強する。また、ラットでは、NO供与体の投与により三叉神経背側核に遅発性の神経活動増強が誘発される。内因性のNO産生が一次性頭痛の発生に関与する可能性をふまえ、NOレベルの持続的な高値が神経活動の増加をもたらすか否かを、髄膜痛覚受容の動物モデルを用いて検討した。麻酔下のラットにおいて、露出硬膜からの求心性入力を担う脊髄三叉神経神経の活動を記録した。NO供与体nitroprusside(25μg/kg/h)又はglycerol trinitrate (250 μg/kg/h)を2時間、持続点滴静脈内投与すると、神経活動が増強されたが、全身血圧は不変であった。
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗剤、BIBN4096BS(900μg/kg)を注入すると、脊髄三叉神経活性は数分以内に抑制され、NO未処置のレベルになった。緩徐な持続的NO注入は頭痛相の動物モデルとなる可能性がある。CGRP受容体の抑制によって、NO誘発性の神経活動増強を正常化させることができる

慢性連日性頭痛は、1日4時間以上の頭痛が1ヶ月に15日以上、3ヶ月以上にわたって続くものである。難治性の辛い頭痛だが、分類や診断、治療について、百家争鳴の状態である。

Cephalalgiaの4月号で、CMMOHの疾患概念に関わる論争についてレビューが掲載されている。結論としては、2006年の付録基準(J. Olesen, et al. New appendix criteria open for a broader concept of chronic migraine. Cephalalgia 26 (6):742-746, 2006.)を普及すべきというものである。

臨床的にはこの付録基準で問題ないと思う。ただし、付録基準でMOHと診断した場合、乱用薬物を中止しても頭痛が軽快しなかった場合には診断を変更する必要があり、研究目的の診断分類としては問題があることも注意を要するだろう。


Sun-Edelstein C, Bigal ME, Rapoport AM (2009) Chronic migraine and medication overuse headache: clarifying the current International Headache Society classification criteria. Cephalalgia 29:445-452.

最近、慢性連日性頭痛の概念の理解や分類が進歩してきたが、慢性片頭痛(CM)と薬物乱用頭痛(MOH)を含め多くの論争がある。2004年に刊行されたCMMOHの基準から、繰り返し改訂され、より広い概念となったが、論争の決着はついておらず、診断基準改訂によって、むしろ混乱を増している。著名な頭痛専門医でも、どの診断基準を使うべきか確信がもてない状況である。CMMOHの疾患概念に関わる論争についてレビューした。慢性連日性頭痛の診断にかかわる問題を明示するために臨床症例も提示した。結論として、2006年の付録基準を正式な診断基準としてすべての頭痛研究者、臨床家、国際頭痛学会、米国頭痛学会、欧州頭痛学会が一丸となって、知識の普及をはかるべきである。

群発頭痛は男性に多い一次性頭痛であるが最近は女性の患者もふえてきた。一側の目の周囲や側頭部の激しい痛みと、目の充血や流涙、鼻水などの自律神経症状が出る。発作中は落ち着かず、じっとしていられないことも特徴で、片頭痛患者が動けなくなって寝込むのと対照的である。


妊婦、授乳婦の群発頭痛の治療に関するレビューが発表された。


Jurgens TP, Schaefer C, May A (2009) Treatment of cluster headache in pregnancy and lactation. Cephalalgia 29:391-400.


女性の群発頭痛はまれであるが、罹患女性には重大な影響があり、特に家族計画の影響が大きい。妊娠中の群発頭痛女性は、頭痛センターの専門医、経験豊かな婦人科医、胎児奇形情報センターの専門知識などの特別なサポート必要である。患者は、妊娠のすべての段階のケアが必要である。治療オプションのリスクと安全性の情報提供が必要である。一般的に使用する薬剤数、投与量は、少ない程よい。個々の頭痛発作には酸素吸入、スマトリプタンの皮下注、点鼻が好ましく、予防にはベラパミルとプレドニゾロンが好まれる。これ以外の予防薬ではガバペンチンが次の選択肢である。授乳中は、頭痛発作には、酸素吸入、スマトリプタン、リドカインが、予防にはプレドニゾロン、ベラパミル、リチウムが選択肢となる。各個人によって体内薬物動態が異なるので、予測できない症状が新生児に起こりうることも考慮する必要がある。