「利倉さん、日本側の査察団の人選はどうなる

でしょうか?」

 

「まあ常識的には技本と科学技術庁から専門家を

派遣する事になるでしょう、官僚以外の民間からは

出しようがないですね。安倍さん、ゆきかぜには?」

 

「昨日、梅田艦長に連絡しました」
「艦長は何か?」
「いえ、何も。こういう事も予想されていたのでしょう、

九州周りで日本海に入るとの事です」
「そうですか、それなら今夜には日本海ですね」

 

「一応、舞鶴基地寄港という事にしましたが、これで

実質イージス艦3隻が出動態勢になります」
「第3護衛隊は不満でしょうね、本来なら第1護衛隊の

ゆきかぜ日本海に進出するというのはあり得ない

ですからね」

 

「まあ、能力者部隊というのは海自の中でも機密事項

ですから。ゆきかぜには他の護衛隊との接触も禁じて

あります」
「実戦が無い事を祈りたいですね、下手に舞鶴が出動

したら却って危険です」
 

一方のゆきかぜは太平洋を西に航行し、鹿児島沖に

差し掛かっていた。

 

「艦長、佐多岬を通過、東シナ海に入ります」

小林が梅田を見た。

 

「よし、黒島を通過したら北上して長崎方面に向かう、

コースこのまま」

CICのキャプテンシートに腰を下ろした梅田が指示を出した。
「了解、コースこのまま」

小林が復唱した指示はそのままブリッジに伝えられた。

 

既にCICに取り付けられた大型スクリーンの左には

真喜志1尉、正面後方にはきみとなっちがスタンバイ

していた。

 

スクリーンには遠方に黒島が捉えられている。
「なっちゃん、黒島をズームしてくれるか」

梅田がなっちに声をかけた。
「分かりました」

なっちがスクリーンを見つめると途端に画面がズーム

アップされ、黒島の詳細な画像が映し出された。

 

「艦長、ブリッジの連中より我々の方がよりリアルな画(え)

を見られますね」

小林は満足気に梅田を見た。
「ああ、しかしこのシステムを実際に使わない事の方が

喜ばしいがな」

 

「艦長、今日の宣言からすると、やはり敵はロシアですか?」
「小林2佐、我々はまだ何処とも交戦していないぞ。日本に

とっての敵国というものは存在しない」
「はっ、軽率でした。このまま対馬海峡を通って舞鶴に

向かいますか?」

 

「うん、この辺りでうろうろしているとそれだけでノーザン

韓国を刺激しかねないからな、ノンストップで行こう」
「艦長、そう言っている間に韓国海軍が出てきました」

菊川が顔を上げた。

 

「早いな、よし、コースこのまま、速度このまま」
「了解、コースこのまま、速度このまま」
「徒に反応せずやり過ごそう、日本海に入ったら領海内

を進むぞ」
「分かりました」

 

その時、小林のモニターが反応した。
「小林2佐だ、どうした幸平?何!国境紛争?」
「小林2佐、何だ?」

梅田が小林を見やった。

 

「艦長、ロシア国境で衝突です。カスピ海西方のGG共和国

にロシア軍が侵攻中」
「外電か?こっちへ回せ」

梅田は携帯端末のモニターに上がってくる外電に食い入った。

 

GG共和国は元々旧ソ連の一部で1991年に独立していた

カスピ海油田からの原油をトルコやヨーロッパに送るパイプ

ラインが国内を通っており、ロシアにとっても石油戦略上の

重要な地域となっていた。

 

「GG共和国の独立派の迫害を非難しての侵攻か…」
「明らかに口実ですね。艦長、この攻撃の真意は?」
「国際社会の疑惑を地域紛争へ逸らす狙いか、これで

GGを占領出来ればそれはそれでロシアとっても利益に

なる話だ。小林2佐、官邸に連絡しろ」
「分かりました、官邸に連絡します」

まるで、タイミングを計ったように発生したロシア西方の

国境紛争はその後梅田達が予想もしていなかった方向

に拡大していく事になった。

 

しかし、この時はゆきかぜの、そして日本のだれもが

そこまでの想像力を働かせる余裕は無かった

 

                               つづく