「百瀬1尉、今日防衛省で能力者の攻撃に対する

対策会議が行われた。我々は有事の当事者として

事件の状況説明をし、各々の所見も述べてきた。

 

そこでだ、防衛省並びに政府の見解は、正式な日本版

能力者部隊の早急な整備と実戦への投入だった。
現状でその要件を満たしているのはここにいる真喜志1尉

だけだという事が確認された。

中央の希望は今後3ヶ月の内に一個小隊の能力者部隊を

実戦配備する事だ」

 

「3ヶ月ですか…現状の育成状況はどうなんでしょうか」
「自衛隊3軍から選抜された候補生が10名、イージスシステム

との同調訓練中だ」
「イージスシステムとの?…それで目処は?」
「残念ながら先行きは明るくない、システムとのシンクロ率は

30%以下だ」

 

「あと3ヶ月で実戦配備は?」
「はっきり言って不可能だ、なまじ高速演算回路に介入しようと

すればシステムと被験者、両方がダウンしてしまう」
「艦長、そのお話しぶりでは既に深刻なトラブルが発生している

のでは?」
1尉の問いかけに梅田は無言でうなずいた。

 

「それで、真喜志1尉に次の実権台になれと仰るんでしょうか?」
「それは違う、我々が期待しているのは新たなメンバーによる

部隊の再編だ。不適格者までを育てあげる時間的余裕は最早

無い、真喜志1尉には実戦の中で候補生を一人前に していって

貰うという事だ」

 

「そんな!実戦の場でそんな事が可能だと思われますか?

実験室で結果が出せないものを持ってきて現場で見切り発車

するとは。艦隊全体が危うくなりますよ」
「リスクは十分承知しているが、我々はもう走り出すしかないんだ。

その中で部隊を使える状態にしていく、適応性のあるものだけを

残していくんだ」

 

「自分は反対です、養成もしていない新兵を実戦投入するなど

旧軍でもやっていなかった事です。特攻隊ですら最低限の養成は

していました。

いったいそんなプランを本気で始動させるおつもりなんですか?

そんなド素人部隊、前線に出た途端に壊滅させられますよ」

「養成は公海上で行う、部隊はゆきかぜ直属とする。指揮官は

真喜志1尉だ、これは決定事項である」
「そうですか…ゆきかぜはいつから、有為の士官を犬死させる

無能軍艦になり下がったんでしょうか!」

 

梅田に掴みかからんばかりの百瀬を真喜志1尉が必死に押し止めた。
「百瀬1尉!止めて下さい。命令を受けたのは自分です、

自分は命令に従います」

 

「艦長、候補生は今何処にいるのでしょうか?」

真喜志1尉は梅田に向き直った。
「うん、それがな…」
「艦長どうされました?」
梅田は不意にきみに語りかけた。

 

「きみさん、先日受けて頂いた適正検査の結果が出たんですが」
「はい?」
「あなた方のシステムシンクロ率は75%でした」
「えっ、艦長…」

百瀬1尉はびっくりして梅田ときみの顔を見比べている。
「75%!艦長、それは」

小林も信じ難いという表情で梅田を見た。

 

「艦長、ちょっと待って下さい。この人達のシンクロ率とはいったい

何ですか?」
「百瀬1尉、端的に言うが、ここにいるきみさん達もいわゆる能力者だ。

きみさん達には正式なチームゆきかぜのメンバーとして訓練を受けて

貰う」

 

「何ですって!この人達が…」

 

「艦長、自分をここへお連れ頂いた意味がやっと分かりました。

この人達と部隊を作るという事なのですね」

真喜志1尉は冷静に梅田に言った。
「ちょっと待って!そんなバカな、民間人の、それに…」

百瀬はきみ達を見渡した。

「それに何だ?1尉。能力者というのは持って生まれた資質が

大きな要素になるんだ、真喜志1尉同様、現状で民間人かどうか

というのは取るに足りない要件だ」
百瀬は真喜志に向き直った。
「美弥子、あんたから見てこの人達はどう?使えそうなの?」

 

「何それ!」

百瀬の言葉にカウンターの中でなっちが反応した。
「なっち!黙ってなさい」

きみが再びなっちを制した。
「きみさん?ですか。あなたにはとても強い波動を感じる、

他の人達もただの素人じゃないと思ってたけど。そうですか、

クラブMとはそういう所だったのですね」

 

「じゃあ美弥子、この人達は?」
「素質は十分あると思います、アナポリスの部隊にはこんな人達が

たくさん集まっていました」
「そう。でも艦長、この人達は兵隊としての基礎訓練も…」
「美代子さん、多分3ヶ月後にはこの人達は拳銃一丁も必要無くなる

と思います」

 

「そうか!それほど期待出来るか」

梅田が思わず身を乗り出したが、真喜志は冷静に言い切った。

 

「素質はともかく、この人達の覚悟はどうなんでしょうか?」

 

きみはカウンターのなっちとナッキーを見た、二人はカウンターから

出てテーブル席にやってきた。
「美弥子さんですか。私達は難しいシステムの事は分かりませんが

自分達の力がみなさんや五島さん達のお役に立つのなら、喜んで

協力させて頂こうと思っています」

きみの宣言に後の三人もうなずいた。

 

「そうですか。でも、今のうちに言っておきますけど、これからの道は

協力などというレベルではとても進む事の出来ない命懸けの仕事に

なります。一旦始めたら二度と後戻りは出来ません。
みなさん、命を捨てる覚悟はありますか?」

 

「美弥子…」

百瀬は呆気に取られて真喜志を見た。

 

「望むところだわ」

ナッキーが進み出た。驚いて振り返ったきみも改めて真喜志に対して

うなずいてみせた。

 

「分かりました。艦長、自分は皆さんの加入に異存はありません」
「そう、美弥子がOKなら私も何も言う事は無いわ。艦長、自分も

異存ありません」
梅田はうなずいてきみに相対した。

 

「きみさん、これはあなた方を利用するだけに終わるかも知れない

プロジェクトです。しかし、今の我々にはもう選択肢がありません。

明日防衛省から迎えを寄こしますのでドクターと一緒にお越し下さい」
「分かりました。ひなちゃん」

きみがひなを見たが、ひなは無言でうなずいた。

「さあ、そうと決まれば今日はパッと飲みましょうか!」

きみの一言でクラブMはいつもの活気を取り戻した。

 

 

吹っ切れたチームゆきかぜの勇士達は日付が変わるまで

飲み明かした。百瀬の一気飲み指令を食らった小林と大田は

以降2日間、二日酔いに悩まされる事になった。

 

                                     つづく