翌日の夕刻、五島総理はロシアとの外相会談の最終結果を

発表した。結果は交渉打ち切りとなったのである、但し同じ

会見の中で画期的な代替案が発表された。

 

即ち、ロシアとの原油輸入交渉相当分をインドネシア・ミナス油田

より供給し政府管理のもと主要産業界、自動車、航空、石油化学

等へ配分するというものである。

 

既に現地からは原油を満載したタンカーが日本に向けて出発して

おり海上自衛隊の護衛艦が同日未明から海上ルート警戒の為に

出動していた。もちろんその中にはゆきかぜが含まれており、朝尾

政権下で冷遇されてきたチームは見事に復権を果たした。

 

またミナスには日本有数の自動車メーカーで財閥の城之内グループ

が原油採掘の現地法人を有しておりこれは初めから五島・城之内ライン
で進められた原油供給の極秘プロジェクトであった。

クウェート事件が発生した時点で当時の五島JFD総裁がGOサインを

出したもので、ロシアの調停案提出がちょうど都合の良いカモフラージュ

となって大マスコミの興味を引かなかったのである。

 

当面の課題を決着させた五島総理は次の最大の関門であるアメリカ製

エレカーの輸入割当要請の再交渉を開始した。アメリカへは経済産業

大臣の奥野慶和(おくのけいわ)前経団連会長が派遣され、ワシントン

での本格的な交渉に入った。3月中には五島総理自身が渡米して
OB大統領との直接交渉に入る旨が発表されてこの問題にかける

政府の意気込みが国内外にアピールされた。

 

「利倉さん、五島総理の対応は素早いですね。まあ、いつもの事ですが」
「安倍さん、そこが危機管理の五島さんの真骨頂ですよ。ポイントを確実

に捉えてその時点で最良の選択を断行する、言うのは簡単ですが日本の憲政史上でもこれを実行出来た政治家は数人しかいません。それも

明治期に集中しているのです。これで日本はぎりぎりの崖っ縁で踏み

止まる事が出来るかも知れませんね」

 

「えっ、利倉さんは今後の交渉に何か懸念材料があるのですか?」
「OB大統領という人も一筋縄ではいかない人物ですよ、当然アメリカの

利益を最優先で交渉を進めるでしょうし下手な妥協でもしようものなら

忽ち議会からの集中砲火を浴びる結果になります。

私はこの交渉自体を受ける事はないだろうと予想していたのですが、
案外すんなりと開始したというのは何か裏があるのかと思っているの

ですよ」

 

「裏ですか、」
「まあ、具体的にどんなものかと言われたら全く未知数なのですが、

何か感じますね」
「利倉さん、ゆきかぜは明日にはタンカーの船団と合流する予定です。

日本への受け入れは城之内グループが全て取り仕切る手筈です」
「城之内グループは前の電気自動車転換プロジェクトからの縁でしたね

五島総理の人脈も驚くべきものがあります。アメリカ政界にも太い

パイプがあるし、新大統領でなければ今度の交渉も余計な心配を

せずに済んだのですが」

 

「これで交渉が軌道に乗ったら本格的に国内メーカーの電化転換

プロジェクト再開ですね、半年間空費しましたがその間も技術陣は

車載機の開発を進めています。繋ぎのガソリンで後3か月を持ち堪え

れば、国産エレカーは何とか形に出来ます」
「しかし電源はあくまでアメリカが握っている事には変わりがありません

今回の交渉ではそのルートをアメリカに保証させるのが最大の眼目です。果たして総理には成算があるのか…」
利倉はあくまで不安の表情を崩さなかった。

ゆきかぜは南シナ海に入りインドネシアからのタンカー船団と

合流しようとしていた。


「艦長、我々はいつからタンカーの護衛専門になったんですかね」

大田3佐がぽつりと呟いた。
「じゃあ何か幸平、民間船の護衛よりミサイルの撃ち合いをやりたい

って言うのか?」

小林2佐が前を向いたまま尋ねた。

 

「別にそんな事は言ってない。だがな、こうやって少数の艦隊で出動

した時に限って訳の分からん事件が起こるんだ。いっぺん、ゆきかぜ

ごとお祓いしてもらったらどうだ?」
「お前にしたらまあまあの冗談だが、この電子装備の塊でも神頼みが

必要か?」
「まあな、二度ある事は三度あるとも言うからな。もしこれで何かあったら…」

 

「えらく弱気だな、お前らしくないぞ。なっちゃんに余計な事を言ってから

自分自身で気にする方向に持って行ってるんじゃないのか?」
「なっちゃんか、考えてみればあの娘達も不思議だよな。沖縄に行ってた

のも向こうの巫女に呼ばれてたって言ってたし、超能力っていうのは

本当にあるのかもな」
「ちょっと勘が鋭いだけだろう、若い娘にはよくある事だよ。特にあそこの

姉妹はそういう娘ばかり意識的に集めてる訳だからお互いに影響し合って

益々感受性が強くなるんだろう」

 

「しかしきみさんが会った南の島の巫女は相当な能力らしいぞ、これは

職業柄安倍さんが独自に調べてるみたいだ。ひょっとしてエスパー部隊

みたいなものを意図してるのかも知れんぞ」
「旧ソ連のようにか?人間兵器を考えるようになったらその国は危ないぞ」
「人間兵器か…」

菊川3佐が何かに思い当ったように小林を見た。
「どうした俊之?」

 

「うん、今日着任する真喜志1尉だがな」
「ああ、那覇第5航空隊のトップガンか。野路司令よく手放したな、

この時期に」
大田が二人を振り返った。
「この転属は安倍さんの推薦らしいぞ、野路司令を押し切ったらしい」
「何?艦長、本当ですか?」

小林が梅田を見た。

 

「どうも諸君は軍事機密を軽々しく口にする癖があるな」
「はっ!申し訳ありません」

三人は梅田に敬礼した。
「ところで艦長、真相は…」

大田が上目遣いに梅田を見やった。
「真喜志1尉は一昨年の沖縄事件以来、第5航空隊の中でも抜群の

働きを示している。安倍さんは実戦に備えて我々の戦力を強化して

くれた、それだけだ」

 

「という事は我々は今後も実戦に遭遇すると中央も判断している

訳ですか?」
小林の表情が変った。
「まあ、2回の実績があるからな。佐原1尉だけじゃあカバーしきれない

事態も想定されるという事だ」

 

「艦長、確か真喜志1尉は今年で」
「うん?満23才の女性士官だ。菊川3佐、どうかしたか」
「23才の女性で1尉?いったい那覇基地には」

大田は明らかに不意を突かれた様子だった。
「着任は3年前だ、その前は士官留学でアナポリスにいた」
「えっ、米軍の士官学校にいたんですか?」
「これは政府の方針だ、我々の口出しする問題じゃない」

「艦長、後方より航空機接近、識別信号クリア。友軍機です、本艦に

着艦許可を求めています」
「所属は?」
「那覇第5航空隊より本日付で横須賀基地配属の真喜志1尉です」

 

「来たか…」
ブリッジの三人の士官は一斉に梅田の顔を凝視した。

 

                                      つづく