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「でも艦長、本当に大変でしたね」 きみの問いかけに梅田は即答出来なかった。
小林2佐が各自の気持ちを代弁した。 不意を突かれた格好です」 恐らく射程の短いミサイルだったと思います」
「いったいだれが撃ったんですか?」 なっちがいきなり核心に触れた。 今度はきみが睨んだ。 分からないでしょう」
「国連の査察があるんですよね?」 ひなが小林を見た。 この査察は一種のセレモニーです」 中東諸国が納得しませんし、かと言ってあまり捜索の範囲を 広げ過ぎると今度は中東側にとってやぶへびになるかも知れない ので、半径500kmというのは妥当な落とし所だったと言えますね」
「半径500kmって何ですか?」 なっちが手を挙げた。 いるんだよ。それ以上のものになると本格的な大陸間弾道弾など になっていくので事件などという範囲では収まらなくなってくるんだ」 いなかったんだぜ」 なっちの顔色が変った。 うつむいて動かないなっちにナッキーが声をかけた。
「なっち!」
「あっ、ああごめんなさい…ちょっと考えちゃった。もう、イヤだー! 大田さん~!」 なっちがバシバシと大田の肩を叩いた。 だろうか?ひょっとして、自分達は本当にここにいてはいけない 人間だったのではないだろうか」) 神食満の不安は一気に広がっていった。
「おい神食満、何変な顔してるんだよ。飲め」 小林が神食満のグラスにウィスキーを注いだ。 ナッキーがグラスに氷を入れながら神食満を見た。 あの爆発を見た時は正直驚いた」
「へー、ベテランのライターでも足がすくんだ?」 のが情けなかったんだよ」 まあ、あの状況じゃだれであれ逃げるしか出来なかったけどな」 小林が軽くフォローした。
「小林さん、クウェートの被害はどうなんですか?」 きみが不安気に尋ねた。 事です。放射線の拡散は危険なレベルを脱したらしいですが原油採掘 プラントが相当な被害を受けてますので再開の目処は立っていません」 なったら」 がロシアとの交渉をどう決着させるかがポイントですね、4月にはアメリカ からのエレカー輸入の問題もあるし、JFDも前途多難ですね」
「あの親子なら何とかするでしょう、我々などより余程腹が座っています」 梅田が言い切った。 神食満が驚いてなっちを見た。 ナッキーが普段通りになっちに突っ込んだ。 翌日、梅田達の不安と期待をよそに事実上の衆院選がスタートし JFDは総選挙に向けた一大キャンペーンを開始した。主要議員達の マスコミへの顔出しはもちろん選挙用のCM攻勢が始まり国民は連日 連夜JFDの政策を目にする事となった。
更にJFDが大手ネット配信企業と提携したPR映画「議事堂へ行こう!」 の24時間連続配信が始まり主演には何と五島総裁の長男で今や JFDのスポークスマンとだれもが認める五島恵一が起用され、同日の JFD比例代表候補としての出馬宣言に続いてマスコミの話題をさらった。
内容は政界とは縁の無かった一警部が官僚機構の腐敗に幻滅して 警察官を辞め、何のバックも無しに中堅野党から立候補し大政党の 対立候補を破って当選、3年後には首相に就任して日本の官僚制度を 根本から改革するという殆ど現実とかぶったようなシンデレラボーイ ストーリーで連日数十万アクセスを記録するという盛況ぶりを示した。
名実ともにJFDの顔となった恵一は全国の地方都市を訪問し行く先々 で熱狂的な歓迎を受けた。彼を迎える民衆はあたかも超有名芸能人を 声援するファンコンサートのノリで各小選挙区の候補とともにJFDの 必勝を叫んで夜半までの盛り上がりを見せていた。
一方の民政党は支援団体の大企業票の獲得に全力をあげたが、 国内外の政策のあまりの無策ぶりに殆どの企業はJFD陣営に鞍替え していた。事実上空中分解した民政党から旧派閥を中心にした新党が次々に離脱し各々の政治地盤だけを頼った生き残り戦術に転換して いった。 朝尾総理はロシアとの原油輸入交渉を外相に任せた後、東京竜の門 病院に緊急入院した。病名は当初過労と発表されたが入院が5日を 超えると持病の循環器障害が噂されるようになっていた。 最後の街頭演説を行っていた。
JFDは国立競技場で選挙戦の締めくくりとして5万人集会を開催し 五島総裁の決意表明を最後に大盛況の内に初の選挙運動の幕を 下ろした。テレビ中継を観ていたきみ達はあまりに対照的な与野党の 様子にため息をついていた。
「へー、まるでロックコンサートね。選挙の事なんて最後の五島さんの 挨拶だけだったじゃない」 未成年ばっかりだし、もう勝敗はとっくについてるっていう考えなのかもね」ナッキーが腕組みして呟いた。 しなくちゃね」 言いながらひながきみを見た。 利倉さん達とささやかにっていう事になりそうだわ」
「なーんだ、つまんないわね。私達も打ち上げに行けば良かったわ」 ダメよ」 明日には確実に新しい日本が自分達の前に現われる、長年の苦境に 耐えてきた名も無い、数限りない人々がその期待に胸を膨らませていた。
つづく |