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翌週、横須賀基地での簡単なセレモニーの後、護衛艦ゆきかぜは 静かに中東のクウェートへの航海に旅立って行った。
名目上は日本をはじめとする原油輸入国への海上輸送路警備、 いわゆるシーレーン防衛だったが、実質はアメリカの意向を受けた 石油資本が中東の鼻先から原油を持ち去っていくのである。
アメリカの影響下にあってもテロの頻発するイラクはもちろん、 はっきりと敵対の意思を示しているイラン等がどのような反応を 示すのか、事態は予断を許さない方向に進んでいた。
「行程は2週間だ、本艦の任務はタンカーを護衛して無事に 日本まで送り届ける事だ」 でしょうか?」 危険に晒されていると判断される場合は実力行使が認められる」 我々が梯子を外されるという事はありませんか?」
「この艦隊の武力行使は旗艦の判断に委ねられる、現総理が OB大統領の不興を買う行動に出るとは思えないな」 陽動をされてその隙にタンカーを沈められたら、政府はここぞと ばかりに責任を追及してくると思われます」 陽動にあっても民間船から目を離すな」 二人の幹部は梅田に敬礼した。 一番懸念していたのは、民間船を利用したテロ攻撃だった。 (「いかに警戒しても民間船を装って接近してくる船を撃沈するのは 場合、最初の一発は食らうだろう。それがタンカーへの攻撃だった 場合は最悪の状況になるかも知れない。 問題はどのように派手に警告を行って最初に米軍に発砲させるか という事だ」)
日本側から出撃したのはゆきかぜ1隻であとはアメリカ側から艦隊 旗艦として空母ジョージワトソン、ミサイル駆逐艦マクギャバン、 佐世保基地から強襲揚陸艦エポックスと何と沖縄事件の時と同じ 陣容となった。 これを偶然とみるか、米軍内部の何らかの意図と考えるか或いは 中東側への挑発と取るか、各々の立場によりどのようにでも考え られる微妙な力学が働いているように思われた。
「艦長、それにしてもこの陣容は引っ掛かりますね。旗艦こそ キティイーグルからジョージワトソンに代わりましたが、これは 沖縄事件の再現ですよ、わざわざ敵にシグナルを送っている かのような米軍の意図は?」
「幸平、理由は正にその点にあるんじゃないか?」 小林が大田を見た。 この艦隊は札付きだという事だよ」 大田は合点がいかないという表情になった。 観測がある。ならばいっそ事件を起こさせて一気に処分してしまう、 それが外部からの攻撃だった場合はそれを口実に軍事介入して 中東問題にもケリをつけてしまう。一挙何得もの妙案だとは思わんか?」 合理主義だな。しかしな、俺達はそれでむざむざ殺されてやるような お人好しじゃあないぞ。もし今度の大統領がそんな下らん事を考えて いるなら黙っちゃいない」
「二人とも!第1配備中だぞ、私語が過ぎるな」 神食満の憂鬱は晴れそうになかった。 この艦隊がクウェートからの原油を無事に持ち帰れば、中東の 政治的立場は欧米に対して決定的な格差を付けられる事になる はずだった。
むしろ世界はそれを望まない勢力がどのような反撃に出るかを 注視していたと言って良かった。ただ、もう一方の勢力の誤算は その反撃が彼らの予想の範囲を大幅に超える事になるという 事態を想定して対処法を準備していなかった事であった。
つづく |