「やあ、ごくろうさん」

安倍が手招きした。

 

「どうも、みなさん盛り上がってますね」
「うん、今日はチームゆきかぜの新任務激励会と新メンバーの

歓迎会なんだよ」

 

「新メンバー?」
「そうだよ」

やにわに梅田が立ち上がった。

「えー、みなさん本日はありがとうございます。我がチームゆきかぜも

関係各方面に多くの人材を迎えまして、益々日本防衛に実績を積み

重ねております。今日、また新たな戦力がチームに加わりましたので

ここで紹介させて頂きます。副長!」

 

「はっ!」

今度は小林が立ち上がった。

「ご指名を受けましたので、新メンバーを発表させて頂きます。

神食満光一特命官!」
神食満が一瞬、たじろいだ
「はっ、はい…」
「本日付でチームゆきかぜの正式メンバーとして迎えます、おめでとう!」

クラブMに拍手が沸き起こった。

 

「おめでとうございます、神食満さん」

きみが神食満に水割りを差し出した。
「あっ、ありがとうございます…って、えー!!」
「何突っ立ってるんだよ、座れ」

小林に促されて神食満は席に着いた。
「神食満君は小林2佐とは気心の知れた仲なんだね」

梅田が水を向ける。

 

「あっ、いえ気心なんて。小林2佐からは一から十まで教えてもらって」
「彼は良い生徒ですよ。でも、もう一人立ち出来ますね、今後の任務は

単独で十分やれます」
「おー、それは頼もしいね。それじゃあ今度は単身でワシントンに

行ってもらおうか」

安倍が上機嫌で神食満を見た。

 

「そんな、何言ってるんですか、僕なんかまだまだですよ」
「謙遜するな、先月は単身沖縄に乗り込んで沖縄事件の調査をやったん

だろう。杉本司令から連絡があったぞ、金城3尉が褒めてたって。

うちで要らないならチーム勝連に回してくれという事だった」
「そんな、いやだな褒めすぎですよ。という事は次の任務はもう決まって

るんでしょ?」

「おう、さすがに小林2佐の教え子だ。新任務は」
「ああ、艦長、それは私から」

安倍が手を挙げた。

「神食満君、今回のゆきかぜ中東派遣に同行してくれ。

身分は内閣官房特別調査官だ」
「えっ、僕が中東へ同行するんですか?ゆきかぜで!」
「嫌なのか?」

小林が神食満を覗き込んだ。

 

「あっ、いえ、ありがとうございます。がんばります」
「まあ今回は向こうに上陸する事もないだろう、神食満君は

船酔いの心配だけしておけば良いよ」
「梅田艦長、それなら大丈夫です。僕も船には慣れてますから」
「お前なあ、ゆきかぜは客船じゃあないぞ。艦長の言われた意味を

察しろ。うーん、まだまだかな」

小林が額に手をやった。

「えっ、それってまさか。実戦があるって事ですか!」
「何蒼白になってるんだよ、軍艦で外国に行くんだ、その心構えを

しておけという事だ」

「神食満さん、がんばって下さいね」

きみが神食満と小林にお代りを差し出した。
「神食満さん、ゆきかぜは乗り心地良いわよ。部屋は狭いけどね」

ナッキーが灰皿を交換しながら呟いた。
「ナッキー!」
「ああ、みなさんは一昨年乗艦してたんですね」

高村が羨ましそうに梅田を見た。

 

「はい、あの時はみなさん大事なゲストでしたからね。

米軍のお座敷は、小官がきっぱりと断りました」
「艦長、きみさん達は芸者じゃありませんよ」
「あっ、これは失礼しました」

梅田が慌てて頭を下げた。

 

「そう言えばママ、今日はなっちゃん達は?」

安倍が尋ねた。
「ああ、試験前なので、なっちもナルもお休みです」
「なっちはゼミに籠りっきりですよ」

ひなが安倍を見やった。
「吉本教授ですか?これも不思議な縁ですね」
「安倍さんの人脈は幅広いですね、さすがは先祖代々の陰陽師だ」

利倉が感心しながら呟いた。

 

「陰陽師(おんみょうじ)?」
「あれ、神食満君は初耳かい?安倍さんは安倍晴明(あべのせいめい)

で有名な安倍一族だよ」

梅田がグラスを傾けて神食満に問いかけた。
「そんな、初めて聞きましたよ。へー、陰陽師って本当にいるんですね」
「おい、失礼な言い方をするな。安倍さんの一族が国家に仕えてきた

キャリアは我々とは比較にならんのだぞ」

小林が神食満を睨んだ。
「あっ、どうもすみません」
「何、良いさ。先祖が有名だっただけなんだから、今の我々はただの

役人に過ぎないよ」

3杯目のグラスを空けた利倉がゆっくりと切り出した。
「さてと、これでゆきかぜが無事に戻ってくれば、朝尾内閣どう出るかな」
「もう手持ちのカードは無いでしょう、この上政権にしがみつけば最悪の

状況で総選挙という事態になります。いくら何でも潮時(しおどき)でしょう」

小林が冷静に分析した。

 

「潮時か…よし、勝負は3月だ。梅田艦長、どうか無事に帰還して下さい」
「はっ!微力を尽くします」

梅田は短く言い切った。安倍の問いかけへの明確な意思表示だった。

男達は立ち上がって握手を交わした。各々が目前に迫った変革に

言いようのない高揚感を感じていた。

 

                                       つづく