「分かりました、お話の通りにします。しかし私らは親の代から

細々と工場(こうば)をやってきた民間人です、お上のされる事に

どうこうとは言えませんけど、私らのような弱い立場の人間を

利用して使い捨てにするようなまねだけは無しにして下さい」

 

「親父!」
「いえ、前田さん。よく分かっています、皆さんのような方々が

日本を支えてきて下さったんです。我々も肝に銘じますので」
二人は立ち上がって安倍に頭を下げ部屋を出て行った。

 

「安倍さん、」
「ああ、利倉さん。聞いてらしたんですか」
「はい、あの親子も大国の犠牲者ですね」
「そうですね。ただ我々は国家の存亡に責任を負っています、

今は日本を救う事を優先せざるを得ません」
利倉は黙ってうなずいた。

 

「あの親子の監視を続けます、ファンド側から敵対的買収が

行われたら実力で阻止します」
「分かりました」
「利倉さん、大統領との会談は進展しましたか?」
「駄目ですね、アメリカ側はあくまで既定方針通りに進める

意向です。我々の開発が間に合わなければ、それこそ

日本の道路はアメリカのエレカーで埋め尽くされます」

 

「問題は発電機ですね、あれを充電用として全国に給電

スポットのネットワークを作るか、日本独自で車載用に

改良出来るか。メーカーは何か言っていますか?」

 

「首をひねるばかりです、何れにしたところであれは受信機

に過ぎません。発信源が特定されなければ絵に描いた餅に

なります。安倍さん、総合通信局の回答は?」
「全く要領を得ません、大気圏外から一定間隔で送信されて

くるという事しか分からないと言ってます」

 

「やはりアメリカ側の新技術かな」
「その場合は我々に打つ手はありませんね」
「その時は日本の政治力が問われるわけですが…

安倍さん、これはここだけの話にしてもらいたいのですが」
安倍は利倉の表情に只ならぬものを感じた。

 

「利倉さん、今夜クラブMに行きませんか。ママが

会いたがってましたよ」
「ほう、ママが。それは小林2佐の行方が気になって

いるんじゃないのですか」
「それは何とも言えませんね」
「分かりました、久しぶりに行ってみましょうか」

 

その夜、二人はクラブMを訪ねた。
「やあ、ママ久しぶりですね」
「まあ、利倉さん。お久しぶりです、お変わりありませんか?」
「いやもう、胃の痛む仕事ばかりが山積みでね。今夜は

ママの顔を拝みに来ましたよ」

「あら嬉しい!私もお会いしたかったですわ」
「ママ。ママの関心は小林2佐だったんじゃないかと

噂してたんですけどね」
「あら安倍さん、小林さんは演習に出ていらっしゃるんじゃ

なかったですか?」
「よくご存じですね、確かにゆきかぜはハワイで米軍と

合同演習中ですが。やはり気になりますか?」

 

「安倍さん、ママをからかってると後が怖いですよ」

水割りを運んできたひなが二人を見た。
「ああ、ひなさん久しぶりですね」
「はい、相変わらずでやってます」
「ひなさん、今日は3人組はいないんですか?」

安倍が店内を見回した。
「はい、あの娘達はなっちの大学がお休みに入ったので

お友達と一緒にアメリカに行ってます」

 

「へー、4人でですか?アメリカのどちらへ?」
「はい、何でもお友達がシカゴにホームステイするという

事で、なっちとナルがくっついて。ナッキーはお目付け役を

やるって言って飛んで行きました。

後はニューヨークを回って、ロスにその娘のお父様の別荘

あるという事でディズニーランドに寄って帰ってくる予定です」
「ロスの別荘ですか、それは豪勢なお宅ですね」

 

「ああ、そのお友達は城之内さんっていうんですよ」
「えっ!それはもしかして城之内グループの?」
「はい、もう1年生の時からお友達になって。何か気が合う

みたいですね」

 

「それは凄いですね、城之内グループは今度の電気自動車

転換プロジェクトの主要メンバーですよ。そうですか、その

お嬢さんとなっちゃんが同級生」

利倉が感心してうなずいた。
「あらそうなんですか、それはご縁があるのですね」

きみがカウンターから声をかけた。

「なっちゃんの学校といえば確か…」
「安倍さん、O学院ですが何か?」
「ああそうだった、O学院ですよ。利倉さん、実は」
その時、店のドアが開いた。

「いらっしゃいませ」
入ってきた中年の紳士は店内を見渡すと、安倍に目を留めて

近づいて来た。

 

                                     つづく