「なあ諸星、総領事館の連中をどう思う?」
「みんなただの外務官僚でしょう、あんな会食を繰り返してるのなら

税金泥棒ですね」

 

「それだけか?」
「他に何か?」
「俺達は自分に関わる人間を3種類に分類しないといけない」
「3種類?」
「そうだ。まず自分の敵、これは危険度が一番大きい」
「はあ」
「次に自分の陣営の中の敵、こいつの危険度は中レベルだ」
「自分の陣営ですか?」
「ああ、例えば今回の総領事館だ、あの連中は全員が敵という

訳ではない。もちろん全員が味方でもない」
「はあ…」
「最後は自分の味方だ、この危険度は小さい。もちろん他と

比較してだがな」

 

「味方も危険なんですか?」
「うん?それじゃあ、あの連中を分類してみろ」
「えっ、うーん総領事と領事は味方でそれ以外はその他ですか?」
「ああ、まずあの二人以外がその他になるのは正解だ。俺達とは

直接関わらないからな。熊本と柴田は俺達の素性と目的を知って

いるから自分の陣営だが、二人とも敵だな」

 

「えっ、どうしてですか?」
「あのな、在外公館というのは多かれ少なかれスパイ機関なんだよ、

当然、NS社の工場の情報も持ってるはずだが一切提供しない。

俺達の行動は東京の指示だから容認すると言っている、わざわざ

中国側と衝突するなと言ってな。

要するに俺達を積極的には味方しない、面倒を起こしたら見捨てる

という事だ。こんな味方があるか?」

 

「ああ、それじゃあ僕達を盗聴してたのは」
「あの二人だけじゃない、中国当局、それにCIA、一昔前なら

KGBも入ってたんだがな」
「本当ですか?」
「こんなものは基本だ、日本は情報の管理が甘すぎる。

あの総領事館に入ってくる情報はその日の内に米、中が

知っていると言って良いだろう。

俺達は当分あそこには戻らずに調査を行う」

 

「えっ!マジですか?」
「ああ、総領事自身が言ったじゃないか、俺達の行動は制約しないと。

あそこに戻って 本当の敵に情報を渡すわけにはいかない」
「…」

「そんな顔するなよ、お前上海に知り合いはいないのか?」
「いる事はいますけど…」
「じゃあ今夜はそこに行こう」
「えっ、でも」
「今夜だけだよ、1回位は籠抜け(かごぬけ)しないとな」
「籠抜け?」
「ああ、乗り物や建て物を利用して尾行をまくんだよ」
「尾行?」
「あそこに入った不審者は尾行されていると考えて良い」
「僕らは不審者ですか?」
「ああ、敵からすれば十分不審だよ。もっとも、これから

本物になるんだけどな」

 

神食満はフリーライター仲間の上杉に連絡をとった。
「これから行っても良いそうです」
「よし。ああ、俺はあくまで黒部だからな忘れるなよ」

 

そこから10分程歩いて二人は市内中心部の静安区(せいあんく)に

ある上杉のアパートに着いた。
「よう神食満、いつ上海に着いたんだよ?あれ、その人は?」
「外務省の黒部さんだ」
「外務省?例のNS社か?」
「ああ、今回は非公式ルートでの調査だ」
「ふーん、お前について来るとは政府も本腰を入れ出した

という事か。あっ失礼しました、去年こいつがNS社の事を

調べてた時は誰も相手にしてくれないと散々愚痴をこぼされましてね」

 

「突然お邪魔しまして申し訳ありません、今回は内密の調査

ですので、神食満さんに案内役を押し付けてしまって」
「何、こいつも嬉しいと思いますよ。やっと政府に取り上げて

もらったんだから」

 

「上杉、上海では発電機は出回ってるか?」
「いや、まだだな。中国政府がブレーキをかけてるようだ、

1台3000元(42000円)以上してるから庶民には手が出ない」
「ほー、大卒の初任給以上か、凄いな。日本じゃ代理店の

MSGが東証に上場したぞ」
「ああ知ってるよ、でも自国の産業を保護するのに日本と

中国ではえらい違いがあるな」
「お恥ずかしい話です、我々はやっとこれから対策をとろうと

しているところですから」

「まあしばらくこっちにいる予定だから、また助けてくれって

言うかも知れないがな」
「分かった。今日は予定も無いんだろ?晩飯食いに行こうや」
「よし、黒部さん行きましょうか」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」

三人三様の思惑を抱いて、神食満達は夜の上海に繰り出した。

 

                                        つづく