「じゃあなっち、投馬國まで船で行ったのは何故なの?」

ひなが尋ねた。

 

「そうね、先生は(軍人を中心にした)先行別働隊として

船で航路を確かめて女王国に従わない狗奴国、これは

鹿児島にあったと考えてるんだけど、そこの様子を調べに

行ったと言ってるわね」

 

「えっ、じゃあ投馬國は?」
「うん、宮崎県だろうとしてるわね」
「宮崎?あー、鹿児島の北か。じゃあ邪馬台国は?」
「不彌國のすぐ近く、宇佐から国東半島(くにさきはんとう)

を含めて別府周辺の大分県北部に広がってた地域と

考えてるわね」

 

「あー、家が7万軒ならそれ位になるかもね。

宇佐って、宇佐神宮の?」
「うんひな姉さん、宇佐神宮は全国の八幡宮(はちまんぐう)

の総本社なのね、神様は3人祭られてて神功皇后(じんぐう

こうごう)と子供の応神天皇(おうじんてんのう)、それから

比売大神(ひめのおおかみ)」

 

「比売大神?」

http://inoues.net/ruins/usajingu.html


「うん、この神社が建っているのが小椋山(おぐらやま)

とか亀山とか言われてるんだけど航空写真で見ると

明らかに古墳なのね。

元々比売大神が主神として祭られてたらしくて先生は

神社の言い伝えなんかから比売大神は卑弥呼で、この山

が卑弥呼のお墓だって推理してるわ」

 

「卑弥呼の墓?」
「うん、魏志倭人伝に卑弥呼の死んだ時の事が出てて

その時に径100余歩の大きな塚を作って、奴隷100人

位が一緒に葬られたってなってるのよ。これが直径100歩

位の古墳と考えられてるのね」

  

「ふーんそういう場所もあるのか。ねえなっち、帯方郡から

邪馬台国が船で10日、陸上を1ヶ月として韓国内が陸上

20日なのよね」
「うんひな姉さん、それから帯方郡から韓国への船旅で

2日はあると思うの」

 

「2日?」
「うん、基本的に目的地の港まで1日、そこで1泊して

計2日は必要よ、着いたその日に出発する事は考え

られないし海路は風待ちや潮待ち(しおまち)をするのは

常識なので、1つの港で3日取ったとしても不思議じゃないわ」

 

「風待ち?」
「ああ、いくら夏の船旅でも突発的な強風は吹くし、
逆に

全然風の無い日もあるわ。台風のリスクだってあるし

朝鮮通信使も何日も風待ちしてるのね、海流だって

潮の流れが早くなったり遅くなったり、逆になることだって

あるわけよ」

 

「それも日程に入れるの?」
「うん、総日程にはね。実質は各海路は1日ずつになってる

けど総日程には実際にかかった日数を書かないと日にちが

おかしくなるわ、魏の使節の記録はあくまで報告書であって

カーナビじゃないからね」

 

「ふーん、そうすると韓国内で2日、対馬、壱岐、末盧國で

それぞれ2日ずつか、それプラス風待ちで2日ね」
「うん、こんなのとてもスムーズなケースと思うわ。

投馬國はあと宮崎までで10日、距離からしても途中の寄港地

ではその日の内に出航したところもあるかもね」

 

「そしたらあとは陸上の10日か」
「うん、その場合も各国に最低2日使うとして伊都國、奴國、

不彌國でそれぞれ2日ずつ邪馬台国へ1日、あと3日は

途中にプラスアルファかな。

 

特に伊都國には帯方郡の大使館や一大率(いちだいそつ)

っていう役所があって、これは軍隊だっていう説もあるん

だけど、周りの国を監視しているらしいのね。

 

それで、ここから韓国や帯方郡、洛陽にも倭国の使いが

送られて、逆にそこからの使いがやって来て文書や贈物を

ここを経由して女王に送っているらしいのよ。当然魏の使節

はここで何泊かはしたと思うのね」

 

「ふーん、かなり重要な場所なのね」

ひなはうなずいてなっちを見た。
「うん、ここはただの国っていうより女王国連合の実質的な

中心地だったかもね。

先生は、ここに関門海峡(かんもんかいきょう)を支配する

水軍拠点があったのかもって言ってるわね」

 

「関門海峡?」
「うん、山口県の下関(しものせき)と福岡県の門司(もじ)

の間の海峡よ、実際この海峡を押さえたら大陸との交通を

完全に支配出来るわね。

九州を南から大回りして朝鮮半島に行こうっていうのは

かなり難しいと思うのよ」

 

「なるほどそうね、瀬戸内海からはここを通らないと日本海

に出られないわね」

ひなは地図に見入った。

http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/WAJIN/156.html

 

「そうか、先遣隊が船で投馬國に向かったのは実際に

関門海峡の様子を調査する目的もあったんだろうな、

軍事的には大いに考えられるコースだよ」

ドクターはまた感心していた。

 

「うん、だから投馬國と邪馬台国は帯方郡からの日程と

考えれば矛盾は無くなると思うのよ」
「なるほどー、考えてみれば単純な話ね。まるでコロンブス

の卵だわ、何でこんな事が今まで分からなかったのかな?」

 

「それはねひな姉さん、みんな専門家だったからよ」

 

「専門家?何それ?」

ナッキーがなっちを見た。
「うん、この問題に取り組んでる人達はそれこそ大学教授

からアマチュアの研究家から大変な数がいるのよ。

それぞれの研究は古文書を一文字づつ解読していくような

大仕事だったのね、だから最後に出た船で20日や陸上1ヶ月

なんていうのはまじめに考えたら絶対解けない謎になっちゃった

のよ」

 

「そうだね、壱岐から東松浦に上陸するなんていうのは

余りに常識的に見えてつい見過ごしてしまったんだろうね。

専門家がよく陥るエアーポケットだよ、こういう場合は素人

の方が気がつき易いものだ」

 

ドクターは腕組みしてうなずいた。

 

                                    つづく