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「秀吉…」
「えっ、どうして?」
「この事件で結果的に一番得をしたのは秀吉なのよ、 ライバルの光秀は倒せる、怖い信長もいなくなる。 自分は主君の仇を討った英雄として次の天下人に グッと近づく、もう良い事づくめ」
「そうかー、でも当時の秀吉も毛利と戦争中だったん じゃないの?」
「その通り。その通りなんだけど、その頃秀吉は 備中高松(びっちゅうたかまつ)今の岡山市で 高松城を水攻めしてたのよ」
「水攻め?」 かったのね、それで秀吉は城の周りを堤防で 取り囲んで一気に水没させたのよ」
「へー、雨が降ったの?」 水浸しになって毛利側が困り果てている時に 本能寺の事件が起こったのよ」
「ふーん、タイミングが良いわね」 返すのね」
「毛利側は疑わなかったの?」 追いかけようっていう意見も出たんだけど毛利側の 小早川隆景(こばやかわたかかげ)なんかが反対 して抑えられたのよ。
おかげで秀吉は岡山から兵庫県の尼崎まで約150㎞ を実質4日で移動する、いわゆる中国大返しっていう 機動作戦を実行して地元の大名なんかとも合流して その2日後には京都の山崎で光秀軍を破るのね」
「4日で150㎞、1日40㎞弱か…マラソン4回分ね」 歩けば何とかたどり着けるわね」
「でも梅雨時で鎧とかも重かったんじゃないの?」 ようね。でも船の手配をどうしたかは疑問ね、石田三成 が担当したみたいだけど、沢山の船を都合良く準備 出来たというのはどうなのかな」
「大坂では信長の家来の丹羽長秀(にわながひで)が 四国攻めの準備中だったから、そこから持ってきた 可能性はあるかな、でもそれにしても手際が良いね」 ドクターも腰に手を当てた。
「ふーん、何か引っかかるな。秀吉側に都合良く事が 動いてる感じ」 きみはなっちを見た。
「確かに、事件が起こった翌日には秀吉のところに 連絡が入ってるのね」
「秀吉はそれを信じたの?」 事を秀吉はどう確認したのかな」
「基本的に疑ってないのね。まあ光秀の密使が秀吉の ところに間違って入っちゃったなんていうのは信じられ ないけど、逆に秀吉の方が信長の様子を調べさせてた と考える方が分かりやすいわね。
これならストレートに秀吉の所に情報が来るし、当然 秀吉は疑わない訳よ。ただその場合は秀吉黒幕説が グッと出てくるのね」
「その場合秀吉と光秀は共犯?」
「たぶん違うわね、秀吉の命令を光秀が実行する事は ありえないわ。光秀からすれば秀吉なんてどこの馬の骨 か分からない成り上がりだからね、考えられるのは光秀 が信長を襲いたくなるような舞台を秀吉が用意したって いう可能性」
「舞台?」 やって来るのよ。まわりには邪魔する者はだれもいないわ こんな機会はもう2度と無いでしょうね。 その誘惑に光秀が勝てるかどうか、秀吉も懸けてたんじゃ ないかな、事が起こったらすぐ引き返せる準備をしてね」
「えっ、それって秀吉が信長をおびき出したの?」
「そう。実際秀吉は高松城を攻めてるところに毛利の援軍 が来たという事で信長に援軍を要請してるのよ、でも毛利 の兵力は大した事がなくて援軍の必要も無かったと言われ てるのね。
信長は光秀に秀吉の援軍に行くように命じて京都にやって 来るのよ。それに信長は以前から朝廷に圧力をかけてて、 一説には将軍職を要求してたのを朝廷側が回答するという のでおびき出されたとも言われてて、実際事件の前日には 本能寺で有力な公家と会談してるのよ。
ところがその公家は秀吉との繋がりが強い人だったのね。 同じ日にはお茶会が開かれて、そこには更に40人以上の 有力公家が出席してるのよ」
「へー、秀吉と朝廷か。それは怪しいわね、疑われても 仕方ないな」
「そうなのよ、秀吉の中国大返しは旅行のスケジュール でもこなすように、とても手際良く進められてるのね。
まあ、大坂からの丹羽長秀達と合流した頃には兵力が 3万を越えていたので、光秀に勝てる自信は出来たん だろうけど。
そこまでの行動をギャンブルと見るか、予定通りと考える かで、秀吉への疑いは大きく変わるわね」
つづく |