翌日、日本各地の大都市では人々の喧騒が響き渡っていた。
山手線の各駅頭では号外が配られ、テレビではニュース速報
が流れた。
 
いわく、五島前官房長官を中心とする 新党の結成である。
 
「新党、日本討論会議(JFD)本日発足。総裁に五島前官房長官」
「JFD発足、現職衆議院議員53名、来月中にも殆どの野党と政策
提携の模様」

「与野党の勢力比一気に接近、次期総選挙で政権交代の予測」
「産業界は一斉にJFD支持表明、批判に晒される与党連立政権」
「朝尾首相、五島総裁に緊急会談要請」
「五島恵一氏(40才)五島総裁長男、前警視庁参事官、JFD入党、
総裁付秘書から次期総選挙出馬の公算高まる」
 
JFDの戦略は巧みだった、都市部ではマスメディアを利用した
あらゆるPR活動に重点を置き、不況にあえぐ労働者層の
雇用創出を訴えた。
テレビスポットでは1時間毎に人気タレントを起用したJFDの
キャンペーンが流れた。
 
朝から昼間には主婦層に人気のあるアジア系スターや歌手
を起用し、夕方からゴールデンタイムにかけては若者に人気の
イケメンタレントを次々と登場させた。
また21:00以降の報道系の時間枠では党の若手議員と
庶民受けする若手評論家やイケメン弁護士等を既存の
ニュース番組にほぼレギュラーのように入れ込み、主に
 
雇用K、教育K、福祉F、医療I、年金N、エネルギーE、問題
等を議論させた。
 
これには各問題のイニシャルを取ってK2FINE(ケーツーファイン)
名付けられた。その場でいつも標的にされたのは民政党の
中堅議員であり、一向に進まない生活面の諸問題を突き付け
られて回答に窮するのであった。
 
構造的問題を短期的に解決する特効薬などがない事を
百も承知の追及だったが、評論家からは官僚の腐敗を
指摘され、現行の与党議員がいかに無力であるかを
国民の前ににさらけ出す結果を招いた。
マスコミもそれで視聴率が稼げる為に見え透いたバッシング
番組を流し続け、国民は益々新政党であるJFDへの期待を
高めていった。
 
更に地方都市や農村部では発電機の大量投入により
敢えて脱ガソリン宣言の名のもとに、電動トラクターや
ブルドーザー、それに国産エレカーの試作機種を異常
ともいえる低価格での長期リースに踏み切った。
これには現政権を見限った自動車業界とJFDの密約が
大きく作用していたのだが恩恵を受ける庶民にとっては
何の問題にもならなかった。
 
こうして年末を迎える頃には政党支持率は民政党20%に
対して、共産党以外の野党と政策提携を果たしたJFDが
40%を記録し、野党連合全体では55%を占めるに至った。

そしてその中でJFDの象徴的存在として浮上してきたのが
五島総裁の秘書として出発し、今やJFDのスポークスマン
としての地位を確立した五島恵一であった。

国民は彗星のように登場したこの若い、覇気に満ちた
次期リーダー候補に大きな期待を寄せ、五島総裁の発案
によるJFDの政策を発表する彼に対して、あたかも持論を
高らかに宣言する党首に接するような一種の信仰にも似た
熱狂的な声援を送っていた。
 
JFDの掲げるスローガンは簡潔で分かりやすかった。
即ち、各省庁の大胆な改革・腐敗官僚の一掃、特別会計の
廃止・現行の繰越金は一般会計に組み入れ主にK2ファイン
対策に充てる等で、これは現行の与党には実行不可能な
政策であり、民政党の無能さを国民に印象付けるには
うってつけの方法だった。
 
 
国民大衆は世界から取り残され閉塞感の漂う状況から日本を
再び表舞台に雄飛させてくれる新しいヒーローを待望していた。

2008年12月31日JFDは夜を徹して第1回の党大会を開催した。
これは取りも直さずカウントダウンイベントとなり、多くの国民が
テレビ中継に注目していた。新年を目前に五島総裁が演壇に現れた。
 
「みなさん、間もなく新しい年がやってきます。今年は本当に
様々な事がありました、欧米に主導されたエルギー革命によって
世界の勢力地図は大きく書き換えられ、今、我が国は深い混迷
の中にあります。
しかし、光は直ぐそこにまで届いています、困難な時期を
みなさんと共にここまで歩んできた成果は着実に実を結びつつ
あります。
 
産業界は一時の窮地を脱し下半期の決算は前年度実績を
回復しました。我がJFDの主張するK2ファイン対策もみなさんの
努力によりまして失業率を3.5ポイント回復するという喜ぶべき
結果を招来しました。
我々は尚、この成果を更に発展させるべく新年にはアメリカ
大統領に対してエレカーの生産と輸入に関する新しい政策協議
を提案いたします。
 
この成否はひとえに、みなさんの熱いご支援をいただく事が
出来るかどうかにかかっています、我々日本国民の真摯な
訴えを欧米諸国に届かせる為に新しい年もJFDはたゆまず
前進していきます。
 
どうか、みなさんの声を、熱い思いを共に世界に発信していきましょう。
私達は常に挑戦者です、みなさんと一緒に着実に歩んでいきます。
さあ、前を向いて、未来に向かって進んでいきましょう」
 
ここでちょうどカウントダウンの大時計の数字が残りゼロ
となり、新年の2009年が始まった。
 
会場は割れんばかりの拍手と熱気に包まれ、五島総裁の
左腕を共に掲げる恵一の姿が大スクリーンに現れると
聴衆の興奮は最高潮に達した。
ステージにはレーザー光線が飛び交い若者の圧倒的支持
を誇るロックグループが登場してニューイヤーコンサートへと
突入していった。
 
「よくもまあ、あんな見え透いた演説で盛り上がれるものだな」
クラブMのテーブルでは日本に戻っていた小林2佐と神食満が
グラスを傾けていた。
「えー、そうですか?みんな自然に喜んでるみたいですけど」
 
「うん?そりゃあ五島総裁の言ってる事はウソではないさ、
しかしな、業界が持ち直したのも失業率が低下したのも
政府の経済政策がある程度の効果を上げたからだ。別に
JFDの実績じゃない、それをあたかも自分の手柄のように
全国中継で演説するとは、あの爺さんはやっぱりタヌキだな」
 
「あら小林さん、あれは五島さんのお人柄ですわ。みんなJFDに
期待してるんですよ」
「きみさん、五島総裁の本当の狙いは新しいアメリカ大統領と
交渉する事です、ここである程度の約束を取り付けられれば
日本の産業界は本当に危機を脱出出来ます」
 
「それじゃあその交渉は次の総選挙の後になりますか?」 
「今の総理は五島総裁の挑発に乗せられるでしょうね、成算も
ないのに新大統領と早々に会談して成果ゼロという事になる
でしょう。その上で少しでも業界の業績が悪化すれば、解散
総選挙に打って出るしかなくなりますね、まああと数ヶ月後の
話になると思います」
 
 
「じゃあ春には五島新総理の誕生ですね」
ひなが明るい表情で小林を見た。
「そうですね、私も期待してます。…よし、じゃあそろそろ行こうか」
小林が神食満を促した。
 
「ありがとうございました。小林さん、今年もよろしくお願いします」
「いや、こちらこそお願いします」
「小林さん、3日に新年会なんですがご一緒にいかがですか?」
「ああ、ありがとうございます。ただ明日からまた任務に戻りますので」
「まあそうですか、それじゃあまたの機会に」
きみとひなは店の表に出て二人を見送っていた。

「神食満、今年は忙しくなるぞ。いろんな意味で勝負の年だ」
「それは僕達もですか?」
「もちろんさ、春までには仕事を整理しておけよ。次のミッションの
お呼びが掛かるぞ」

「また外国ですか?」
「さて、それはどうかな。お前もゆきかぜのメンバーになるかも
知れんな」
「えー、僕がですか?」

小林は微笑んだまま答えなかった。
様々な人々にとっての試練の年が今、明けたところだった。
 
                                        つづく