翌日の新聞紙上ではサミットの成果報告よりもそれに反応した
OPEC、OAPECの共同宣言に多くの紙面が割かれていた。
「OPEC、OAPEC共同宣言。中東産油国アメリカに反旗」
「中東産油国、原油輸出一斉停止。日本産業界にダメージ」
「政府石油備蓄分の緊急放出発表、自動車、航空、化学産業界に
「政府石油備蓄分の緊急放出発表、自動車、航空、化学産業界に
重点割り当ての方針」
「世界的エネルギー危機の懸念広がる。米大統領緊急国連安保理
召集要請」
「レギュラーガソリン店頭価格350円/㍑突破、基幹産業に大打撃」
「首相声明への非難集中、内閣支持率10%に低下」
「対米追従外交、EUからも批判噴出」
「中、露の動向に注視傾向強まる、米大統領3カ国会談を示唆」
「利倉さん、石油大手が現物の囲い込みに走りましたね。
おかげでガソリンの店頭価格は天井知らずで上昇してます」
「業界の反応は最悪ですね、自分達は政府に裏切られたと考えて
「業界の反応は最悪ですね、自分達は政府に裏切られたと考えて
こちらの指導にはそっぽを向いてます。
石油と自動車のトップを呼びましょう、これ以上の価格上昇は
社会不安の原因になりかねません。可哀そうですが、泣いて
もらいましょう」
「経産大臣はとんだ貧乏くじになりますね。
利倉さん、恐らく経団連は黙っていませんよ」
「仕方ないですね、後は総理の決断になります。我々も最早
「仕方ないですね、後は総理の決断になります。我々も最早
動きようがありません」
「利倉さん、北京の小林2佐からはアメリカ系ドイツ系工場共
「利倉さん、北京の小林2佐からはアメリカ系ドイツ系工場共
新型エレカー増産中の報告がきています、中国は一気に
アメリカ支持を打ち出すと思われますね」
「世界がどんどんアメリカ色に染まっていきますね、私は
この傾向が一段落した後の事が気にかかります」
「それは?」
「アメリカ主導で世界の基幹エネルギーが電気に切り替わった後、
「それは?」
「アメリカ主導で世界の基幹エネルギーが電気に切り替わった後、
だれがそれを管理していくのかという事です。
今の流れからすればそれは国連ではないですね、アメリカ一国
による世界支配のプログラムが一斉に動き出すのではありませんか?」
「吉本教授は日本の選択肢をアメリカとの協調路線に置いて
おられましたが」
「それは長官の未来構想次第ですね、圧倒的に不利な状況
の下で大国におもねるのか、独自の道を進むか。
かつての指導者達は日本の旗を掲げて、最後には大国の渦に
飲み込まれました。我々はどのような未来を志向するべきなのか…」
自国の進路の決定権を他国の思惑に委ねる小国の為政者達は
自国の進路の決定権を他国の思惑に委ねる小国の為政者達は
成す術もなく状況を見守っていた。
7月も半ばを過ぎると状況は益々悪化してきた。ガソリン価格は
政府の露骨な介入と備蓄分の逐次投入で350~360円台を
行き来していたが、火力発電の操業は10分の1以下になり、
石油化学製品の生産は半分以下に落ち込んだ。
寡占状況で一時的に株価の上昇を見た石油業界も根本的な
供給不安が持ち上がり、小規模スタンドの相次ぐ閉鎖やアメリカ車
の大量流入の噂が度々市場に流れた為、ついに地滑り的な
株価下落を起こした。
政府や日銀の調整も全く無力で市場全体の株価崩壊も
現実的な問題として閣議に取り上げられるようになっていた。
その日は第29回夏季オリンピック北京大会の開会式当日だった。
その日は第29回夏季オリンピック北京大会の開会式当日だった。
首相をはじめとする政府首脳は各国首脳と共にメインスタジアムに
陣取って式典を待っていた。
因みに、同じ会場の一角に観光客を装った小林2佐と神食満も
貴賓席を遠望しながら座っていた。
「総理は海外渡航の制限とマイカーの休日規制で国民の意識に
「総理は海外渡航の制限とマイカーの休日規制で国民の意識に
訴えるつもりですね」
テレビ中継を見つめる安倍の諦めきった表情に利倉は事態が
テレビ中継を見つめる安倍の諦めきった表情に利倉は事態が
限界に達した事を悟った。
「安倍さん、総理は恐らくこの開会式を最後の花道にするつもりです。
「安倍さん、総理は恐らくこの開会式を最後の花道にするつもりです。
今月中に物流に深刻な影響が表れるでしょう。もうそれを受け止める
力はこの内閣にはありません」
「それが分かっていてオリンピック見物ですか、民間では既に
大量リストラが始まっています、オリンピックが終わったら
何も言わなくても海外旅行する人間など半減しますよ。
自分の生活が危ないのにだれが遊んでいられますか?
全く、この感覚のズレは何なんですかね」
やがて式典が始まった、世界各地で物議をかもした
いわく付きの聖火が会場に現れた。
それを見た人々から異様なざわめきが沸き起こってきた。
それを見た人々から異様なざわめきが沸き起こってきた。
「何だ?辺りがざわつき出しましたよ」
神食満がキョロキョロと周囲を見回した。
「諸星、あれだ!」
「諸星、あれだ!」
小林がその方向を指差した。
「あっ…」
「あっ…」
聖火がゆっくりとトラックの上を進んでいくのだが、それを
手にしたランナーは走っていなかった。
何と、大型リムジンがオープンルーフに改造されてその上で
彼は聖火を頭上に掲げていたのだ。
「何だあいつ?変な…」
言いかけた神食満を小林が手で制した。
会場は次第に異様な静寂に包まれていった。
「静かだな、諸星」
小林は謎を掛けるように神食満を見やった。
「はあ、まあ…あっ!」
「はあ、まあ…あっ!」
神食満は言葉を失っていた。聖火リムジンの後に数十台の
ダミー車が行列を作って続いてきた。
その車上でスポーツウェアのスタッフが掲げているのは、
これ見よがしの大きな電球の聖火だった。
「黒部さん、エンジン音が、聞こえません」
聖火の行列は音もなくトラックを進んでいく。
「黒部さん、あの車は!」
「エレカーだ。中国はこの大舞台で世界に向けてアメリカの旗を
聖火の行列は音もなくトラックを進んでいく。
「黒部さん、あの車は!」
「エレカーだ。中国はこの大舞台で世界に向けてアメリカの旗を
掲げたんだ、あの貴賓席の連中はどんなツラをしてこの行進を
見てるんだろうな」
中国の首脳部が立ち上がり、聖火の行列に向って拍手を始めた。
釣られるように会場全体にその波が広がっていく。
中国首脳部と握手を交わした日本国の政治家達は、何事も
中国首脳部と握手を交わした日本国の政治家達は、何事も
なかったように拍手を続けながら自分達の前を通り過ぎていく
聖なる火の行列を見送っていた。
つづく