(出演:黒木先生、高瀬さん)





時々思う。
こいつは俺と居て、うざったく思ったり、窮屈に感じたりはしないのだろうか、と。

何を今更と言われてしまえばそれまでだが、
俺と高瀬との間にはまだ遠い距離があり、それ程深くは知れて居なかった。

別に興味がない訳じゃない。


ただ知れば知る程に高瀬に固執する気持ちが強くなり、また再び裏切られた時の反動が
更に大きくなるような気がして自分で勝手に敷居を作って近付かせないようにしていたのだ。


裏切られる事を前提に距離を置く自分も何とも情けないが、
こんな俺にもあれ程良くしてくれる高瀬をまだ信じられない自分はもっと愚かで情けなく思う。


怖い位に優しく、温かな存在に怯えていた。


カンファレンス室の隅で真っ赤に焼け付く夕日を眺めていると、高瀬と過ごす時の中で日に日に薄れていった感情がまた零れ落ちる。


あふれたそれを止める役割のうずまきキャンディはデスクの引き出しにも、白衣のポケットにもなく
柱に添って静かに腰を落とす事しか出来なかった。


俺はなんて、
脆く、弱いのか──。



高瀬:おう、悪い悪い。遅くなったな。あれ、黒木──?



もう流すまいと誓ったそれを止める術などやはり身に付いているはずもなく、
ただあふれるまま流れるままに任せっきりだ。
窓の外を彩る朱色があまりに眩しくて、尚更止まらない。


俺の居場所が高瀬に知れるのも時間の問題だった。


高瀬:黒木ぃ?おーい、黒木っ。
……ったくもう、どこ行ったんだあいつは


呼び掛けるその声が本当に俺を心配しての事なのか、解らないじゃないか。なんて、いつも自分で壁を作ってしまう。

閉鎖した心の中枢を叩くそれをいつもことごとく振り払っていた。



高瀬:おーい黒木ぃ。やっぱり帰ったのかなあいつ……。


ようやく諦めが付いたのか、呼び掛けるのを止め、踵を返し去ろうとする高瀬。

それを横目に見届け、
ふう、とひと息吐いたその時だった。



高瀬:やーい!
泣き虫あめっこやーい。
さあさあ、いじけ虫ちゃん出ておいでー


と、バカデカい声で騒ぎ始めたのだ。こういう事に関してはどうも高瀬のほうが何倍も上手のようで今回もまんまと引っ掛かってしまう。

思わず喧嘩腰になり、立ち上がると同時にこう吐き捨てる。



黒木:うるせぇ。誰が泣き虫のいじけ虫だバカ。


高瀬:何だ、やっぱりそこに居たのか。帰っちまったのかと思ったじゃねぇか。


黒木:フン、ならそのまま帰りゃ良かったのに。


高瀬:まあそう言うなよ。ほら、今日はストックなかったろ。買ってきてやったぞ、ぐるぐるキャンディ。


黒木:フン、余計な真似を……。



オフィスバックから取り出されたオレンジ色のそれは
今この部屋を照らしている夕日のように温かな色だった。
思わずあふれた笑みに驚きながらも受け取れば、ガキみたいに嬉しそうに顔を綻ばせる。

こいつが、少しずつ俺にとっての安らぎに変わっていくのが解って



黒木:か、帰るぞバカお節介野郎


高瀬:おお??何だ何だ、あめっこ照れ隠しか?何だよ可愛いとこあるじゃねぇか


黒木:うるせぇ。
着いてくんなバーカッ。


高瀬:はいはい。解った解った。帰ろうぜ、な?


黒木:……フン。



もう少しこいつとちゃんと向き合ってみようか。
夜の闇に侵食されていく夕日に固く誓った。





【⑭へつづく】