\\  総領の甚六の胸算用事始  \\ | ~ 或る阿呆の話 ~ turbo Ver1.03

\\  総領の甚六の胸算用事始  \\

画餅に涎を垂らすような、大分とぼけた暮らしを長年してきたから、
利益勘定の感覚がすこぶる鈍いのだと思う。
腰弁当の勤め人になった今、それで人一倍苦労している。


如何に組織全体に利益をもたらすのかを考えるのは、けれど面白い。
足りない脳味噌を机上でウンウンこねくり廻して、毎日あっという間に日が暮れる。
実際、自分には効率的な利益獲得の方法論が欠如しているのだけれども、
ビジネス書を読むだけの根気もまた持ち合わせていない。
十八番の薄ら笑いでもって、明日もまた上司の叱責をゆるりとかわそうと思う。


始終珈琲ばかり飲んでいるから、さっぱり痩せないのだけれども、
気休めのプールにだけは欠かさず通っている。
こういう根気だけはなぜか持っている。
というか、やることが他に何も無いからなのだが。


どしゃぶりの雨の中、帰宅時でひどく混雑した道をノロノロ走り、
今日も今日とてプールに行って、緊張感のまるでない肉体を惜しみなく晒していたら、
会社の若い経理の女子社員と出し抜けに出くわした。
自分は普段眼鏡をかけていて、おそらく視力が悪いと思われているだろうけど、
僕の眼には”遠視”というトリックが密かに仕掛けられているので、
大体のものは裸眼でも実は見えている。
週に多くて二言三言しか交わさない、全く親しくない間柄であるのに加え、
お互いに決して自慢の出来るような姿ではなかったので、
結局、素知らぬふりをして、言葉を交わすことはなかったが、
何となく明日会社で顔を合わせるのが気まずい。


そして、つくづく世間は狭い。


「井の中の蛙大海を知らず、されど井戸の深さを知る」

とは言うけれど、
こんな井戸(世間)の深さを知ったところで何になるのか、甚だ疑問だ。


こんな締め方をする僕の感性のほうがもっと疑問ではあるけれど。