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1992

1992

6月15日火曜日。
今日は昔飼ってた犬について書く。たまにここにも出てくるけど、なんか書きたくなった。

昔は今みたいにケータイのカメラが優れてなかったから、みんなデジカメや写ルンですを持っていた気がする。うちもそうだった。母さんが少しいいデジカメを持っていて、しょっちゅう写真を撮っていた。だからうちには昔の写真がたくさんある。PCやiPhoneのデータじゃない、やっぱり紙の写真はなんかいい。
源太郎は4年前ぐらいに亡くなったんだけど、おれが3歳ぐらいの頃から16年ぐらい、ずっと一緒に暮らしていたから写真がたくさんある。あのときは何も思っていなかったけど、今思えば、毛並みはこげ茶色、体は柴犬より大きいぐらい、ザ、雑種、って感じの犬だった。雑種というか、野犬。もともと野犬で、ゲン(源太郎のあだ名)がまだ産まれたばかりの頃、たまたま公園で出会って、家までついてきたから父さんが母さんに頼んで、飼うことになった。普通に怖いって人もいるだろうなと思う見た目。でもゲンが世界で一番可愛い。絶対にそう。今でもそう。みんなきっと自分の家の犬が一番可愛い。今の彼女は犬が大好きで、ゲンの写真もほぼ全部見せた。可愛いと言ってくれる。本当に会わせたかったといつも思う。

4年前のある日、おれは居酒屋のバイト終わりで家に着いたのは24時過ぎだった。その日は台風が近づいていて、雨も風も強かった。ゲンはいつも夜中は外の庭で寝るんだけど、年老いてからは、雨や風が強い日は母さんがゲンを玄関にいれて、そこで寝ていた。その日もやっぱりゲンは玄関にいた。うちの玄関はけっこう広い。まだ寝てなかったのかおれが帰った音で起きたのかはわからないけど、ゲンは顔を床に伏せたまま上目遣いでこっちを見ていた。頭を撫でて、おれは風呂に入ってすぐに寝る準備をした。次の日は朝から大学の授業があった。風呂を上がってドライヤーをしているぐらいの頃から、ゲンがずっとクゥーンクゥーンと寂しそうな声で鳴いていた。夜中にそんな風に鳴くのは珍しかった。どうしたんだと思って横にいって頭を撫でると鳴きやんだ。鳴きやんだから、二階の自分の部屋で寝ようと思い立ち上がって階段を上ろうとすると、またこっちを見ながらクゥーンクゥーンと寂しそうに鳴いた。そのとき嫌な予感がした。19年生きてきて、初めて、漫画やドラマで見るような、謎の第六感、"嫌な予感"がした。おれは階段を下りてゲンの横に座り、頭を撫でた。しばらく撫でているとゲンは安心したのか、いびきをかいて寝だした。今日はこのままゲンの横で寝ようかなと思ったが、そのときゲンは弱っていたのもあって、体にダニがたくさんついていた。血を吸って豆みたいに大きく膨らむやつ。おれはゲンの横で寝ているうちに、その大きなダニが自分のところへ来て血を吸われたら嫌だし、何か感染したらもっと嫌だし、やっぱり玄関じゃなくてベッドで寝たいというなんとも自分本位な考えが強く出て、大丈夫だろうと思いそっと立ち上がって二階に上がった。ゲンは安心しきったような顔をしてぐっすり寝ていた。
その次の日の朝、ゲンは亡くなった。
触れると体はすでに固まっていて、冷たかった。
父さんと母さんは仕事を休んだ。おれとあかりも学校を休んだ。知り合いに紹介してもらってペットを埋葬できる施設に行き、そこで焼いてもらい、骨だけ持って帰った。
なんで昨日、ゲンの横で一緒に寝なかったんだろうとしばらく後悔した。

生まれて初めて"嫌な予感"が当たった日だった。

写真があると、記憶から消えることはない。写真の良いところでもあり悪いところでもある。
家族みんな、ゲンが大好きだった。
もし夢に出てきたらどんな遊びをしようとか、妄想を膨らます。