八味地黄丸エキスは優秀な方剤だ。これまで腰痛、浮腫、頻尿などに処方してきた。私個人でも愛飲?している。何よりその配薬は繰り返し私の生薬の配薬に使用してきた。
さてもう何年も前のこと。当時週に一度内科外来をしていた。漢方処方し始めたばかりでまだ、手探り状態であった。
そんな中、お年を召された女性、恐らく腰痛に対してだったかなと、その部分の記憶があやふやだ。今回はその方に八味地黄丸エキス剤を処方したときのエピソードである。
翌週、副作用で尿閉が来たと、やってきた。尿閉とは尿が出ないとのこと。話を伺うとぷくっと下腹部が膨らみ、時間がたつと出るのだという。まさかと思い、減量してもらった。しかし同様に尿閉が来る。全く内服しないでいると尿閉はないという。
尿道は交感神経優位ならば収縮、つまり尿が出にくくなる。一方膀胱は弛緩し尿が溜まりやすくなるのだ。ちなみに交感神経が優位ということは、運動したり、闘ったりするときに高まる。その時は尿を出している場合ではないシチュエーションだ。ヒトの生理とはかくも良くできている。
過活動膀胱という疾患概念がある。尿意切迫感(頻尿や夜間尿)症状がある。治療は尿がいっぱい出るのを抑える、すなわち交感神経優位へ導く薬を選ぶ。今日抗コリン剤やα3刺激薬が治療の中心となっている。副作用を見ながら取捨選択する。
話を八味地黄丸エキスに戻す。このエキス剤には先述の通り頻尿や夜間尿に適応がある。つまり八味地黄丸エキスは膀胱、尿道括約筋に対しては交感神経優位に少なくとも働いた。但し本人は頻尿が愁訴でなかった。故に尿閉は副作用として扱われた。いや頻尿が主訴であってもこれは効き過ぎだ。ただあえて薬理学的に公平に考えると、良くも悪くも交感神経優位になるように働いたのだ。強いていうならばここでαblockerをかませてみたら良いかもしれない。尿道が弛緩するからだ。しかし当時そんな発想はできなかった。そういえば薬としては保険適応外の可能性が高いので実際は処方しないだろうな。今なら生薬量を調節して対応できるのにな、と在りし日々を懐かしく浮かべた。
(この記事はZettelkastenで作りました。)