- 北朝鮮 飢餓の政治経済学/中央公論新社
- ¥3,570 Amazon.co.jp
なんか、疲れて更新意欲が消える時期にはいったので、しばらく書評で。
『北朝鮮飢餓の政治経済学』を読む。テーマ、政治経済学、アプローチなど前文を読んで、食いついた。食いついたのだがそこから先がなんとも微妙。注・補論を抜かして359ページと言う厚さ、全部は+100。厚くても内容があるならむしろ願ったりなのだが、うーんロジックがどうもしっくりこない…。
アマルティア・センの序文で既に全体のロジックは殆どカバーされているんだよなぁ…。長い割にはその文量でロジックを提唱しない。ABCDEという途中駅を作って、それを踏まえて最終的にこれまで常識と言えたFという定説から、実は実際の行動はGという論理で動くといったストーリーになってない。
序文、アイルランドの飢饉と同レベルの被害。理由は多層的、政治・経済・倫理・社会組織からなる。政治の統制は英は弱く、北は強かったという相違点。世界に誇った大英帝国と世界でも稀な共産国家という違いも面白い。アイル同様、英にも北にも意図的に殺してやろうなどという意図はなかった。
北には国民全員を食わせられる量はあった。が、実際飢饉は起こった。これをentitlment(確保の権利)という観念で説明する。食料があっても、それを受け取る権利をその民が持っていなければ当然、食料を得られず飢え死ぬことになる。社会福祉・制度の不備が餓死という結果になったという訳だ。
アイルランドから食料を意図的に奪って餓死に追い込んだのではなく、市場機能によって、必然的により高価値で買い取るイングランドに食料が流通した。危機において政治力の欠如が食料を確保・配分という貧民救済機能を麻痺させた結果がアイルランド飢饉の本質。―もうこの序文でオチてるんだよなぁ…。
なんかアマルティア・センの前論文のメインロジックを応用しとるだけなんかな?それを参照にしてるって書いてあるし。古典の発見の応用かな?うーん、こうストンと落ちるストーリーでなく、出落ち。あとは思いつき、目についたことでも書いていきます。
p13飢饉は災害というより、人災の性質が強い。
p15土地・気候が農業に適していない。工業主体であること。
p16露中の特権貿易関係の終了以前に既に生産低下の兆候は出ていた。にも関わらずそれに対処するために外貨を確保しておくなどの対策を取らなかった。
p18工業化、都市化が進んでいるために60~70%が配給に頼る故都市でも飢餓が起こる。北朝鮮というのは貧しいのに工業主体の国という特徴がある。そういった事情を考えると一国だけでやっていくのは難しい。本来南部の農業地帯と一体となって成立する構造だったのではなかろうか?そういう理由が朝鮮戦争の動機ではないか?韓国の一方的独立やイデオロギー要素もあれど。
p46韓国・台湾また中国のように加工輸出区を儲けて輸出を増やしたり、同じくソ連崩壊の影響を受けて機敏に対応したベトナムは改革で輸出を三倍にした。きただけが90~95年対応できずに50~60%に落ち込んだ。要するに体外情勢変化への適応能力・長期的プランがないわけだ。改革・変化に対して鈍い。おそらく変化は政治・体制に必然的に影響するからだろう。例のごとく経済連関も理解せずに、高級な機械買って動かずとか、課題な肥料投下で土砂崩れとか。イデオロギーなき、魂無き専門人など李登輝のような農業・工業のプロを抜擢して使い尽くせばいいのにそれがない。
p61北の強硬派は米日韓との友好などありえない。あるとすればそれは体制変換を目的としたものという有様。金正日の演説で米がないと敵が知れば敵が攻めてくるという脅威認識など、核武装もそれを裏付けるが、いつでも敵が攻めてくるという価値観に基づいている。故に支援を輸出して武器を買う事にもなる。
おそらくソ連崩壊後、真っ先に敵に攻められる!と反応した。先軍政治で国内を固めて不動にするのもそうだけど、そういった緊張にあって、95年の飢饉でまず連想したのはこれに応じてとうとう攻めてこられる!といったものではなかろうか?まあ94に核含めた米朝合意があるんだけど。
p88飢饉で400万のエリートも飢えを経験した。工業優先国なので農民は不利・貧しかったが、飢饉によって豊かになる農民も出てきた。おそらくソ連から友好価格で買えなかった損失しかみてなかったのではないか?それが全体的なシュリンクをもたらすと見ていなかった結果の飢饉では?ソ連崩壊のインパクトで経済改革じゃなく、軍事・軍拡って時点でもうアレだけど。世襲を許した時点でこうなることは見えていたわな。
p127援助するサイドとされるサイドの思惑の違い。与える方は人権・民主化要求。当然受ける側はじゃあいらん!になる。
p168栄養不良の兵士が地方で食料を奪ってる。秩序があり安定していれば、十分な富が得られて不正のリスクが相対的に大きければ、人は不正をしない。しなくても十分満たされるから当然不正の少ない社会になる。秩序や安定から経済の基礎が築かれ、それが崩壊すると必然的に人は上記の逆の傾向になる。不正しないと苦しい、生活できないのだから当然不正が増える。
混乱・不安定から汚職の力学が働く。それを防止するメカニズムが規範だ。高潔な人間は汚職をしない―という設定をして内面に規制をかける。社会上層、地位・身分に誇りを持てば当然ブレーキが掛かる。上が腐敗しなければ危機でも社会は崩れにくい社会になる。だからこそ国家は倫理・イデオロギーをことさら唱える。本来社会情勢、経済状況こそが社会不安となって倫理の崩壊をもたらすというステップのはずだが、それを少しでも防ごうと論理を転倒させる。倫理・人格にそれを求めて集団の空気を引き締めて社会不安を何とかしようという逆転の発想が前近代にある。よってそこでは倫理・信仰が殊更喧伝されるのだろう。前近代宗教・思想の統治階級の倫理の強調を見よ。※儒教の清廉潔白の思想など。
p174国内で市場が完全に統合されていないから、食料が市場のメカニズムにそって配分されて行かない。地域間に偏った状況になっている。
p190特権的な地位にある人間が横流しをすることが皮肉にも市場の機能を強化する結果になっている。
p306市場は出てきたが都市労働者階級の大部分が貧困層となり、セーフティーネット未整備で取り残された結果であり、食料へのアクセスも出来ないという状況になった。
p314中国のように農民が多く、軽工業へシフトして解決するという経済構造ではない。既に労働者が多い=抜本的海外経済適応が必須か?
p322中国の軍隊の軍産複合体が改革を担ったようになるか?
p337金正日は軍隊主導で軍産複合体を中心とした経済発展で経済も軍事も成長させたいと考えているがそれがうまくいくか疑問。ベトナムや中国のように下に権限を移譲する事ができるか?う~んできないっぽいなぁ。結局分権化、権力の放棄・委譲を決断できずに終わる気がする。まあこんなとこかな