前回の記事ではピコレーザー導入のお知らせをしましたが、ピコレーザーとはどんなレーザーなのか簡単に紹介していきたいと思います。

ピコレーザーはしみ、あざ、タトゥー除去などに使用するレーザーです。
ピコレーザーが開発される前のレーザーについて触れると、ロングパルスレーザーとQスイッチレーザーの2種類がありました。

ロングパルスレーザーはミリ秒(ms)単位で光を出すレーザー機器です。Qスイッチレーザーはナノ秒(ns)単位で光を出すレーザー機器です。ミリ秒と言うと1秒の1/1,000秒ですから生活の中では使うことも無いくらい短い時間ですが、レーザーの世界ではミリ秒がロングパルスと言う分類になっています。

さらに、ミリ秒の1/1,000,000秒の世界がナノ秒になるので、想像も出来ないくらい短い時間で光を出すレーザーだとわかりますよね。

時間の長さを文章で表現することはとても難しいですが、ロングパルスレーザーがピーッ、と光を出すレーザーだとするとQスイッチレーザーはピッ、って感じでしょうか。

ピコ秒と言うとナノ秒のさらに1/1,000秒の世界ですからもうとてつもない時間の短さになりますよね。
ただ、現在市場に出回っているピコレーザーは350-750ピコ秒ほどなので、言い換えると0.35-0.75ナノ秒になります。
当院で使用しているロングパルスレーザーとQスイッチレーザーの長さの差は1,000,000倍ですが、Qスイッチレーザーとピコレーザーの差は10倍くらいなのでインパクトが薄いですね。

時間の長さを無理やり物理的な距離に置き換えてみましょう。
ロングパルスレーザーを北海道(稚内)‐沖縄(那覇)間だとすると、Qスイッチレーザーが軽自動車の全長、ピコレーザーは500mlのペットボトルほどの長さになります。
技術の進歩とともに、かなり短い光が出せるようになってきたのがわかりますよね。

では、短い光ほど良いレーザーなんでしょうか?
そんなことはありません。

Qスイッチレーザーが一般化してきた1990年代には、既に現在市販されているピコレーザーの1/10ほどの短い光を出すレーザーの実験結果が出ています。その際、タトゥー除去においてさほど良い結果ではありませんでした。
光が短か過ぎるとしみやタトゥーの色素の1粒1粒が充分に破壊されない現象が出てしまうようです。
今から30年ほど前に、既に短い光の開発競争に終わりが来ることの予兆があったんですね。

今回当院で導入したエンライトンでも、キュテラ社の社内実験で500ピコ秒より短くすると熱の伝わりが悪くなると言うデータが出たそうで750ピコ秒で製品化されました。
サイノシュア社のピコシュア、キャンデラ社のピコウェイ、クワンタ社のディスカバリーピコなどもとても優秀なピコレーザーだと思いますので、他社のレーザーを否定する気はありません。個人的には3桁のピコ秒レーザー同士で比較しても大差は無いんじゃないかなと思っています。

ただ光を短くするだけであれば、現在のピコレーザーの1/1,000以下の短い光のレーザーが工業用として存在していますから、技術の発展とともに医療用レーザーでも開発することは将来可能でしょう。しかし、治療として有用性が示されなければ、短い光の開発競争は一端終わりかなと思っています。

さて、治療においてのピコレーザーの有用性と言うと、一番はあざ治療やタトゥー除去などの真皮の色素治療でしょう。2013年に世界初のピコレーザーであるピコシュアが発売されてから大分データが出ていますので、国内外のレーザー学会、形成外科学会などでもう一般化した事実でしょう。Qスイッチレーザーと比べても少ない回数で治療効果を発揮します。
しみ治療に関しては、Qスイッチレーザーと大きな差はおそらくありません。
ただ、治療後の色素沈着のリスクが低くなっているため、薄いしみに対して治療の選択が広がったことは確かでしょう。

新しい治療器が何にでも効果的な良い治療器と言うわけではないです。Qスイッチレーザーが出てもピコレーザーが出てもロングパルスレーザーの価値は今でも不変で良い治療器です。
症状に合った治療器や治療法の選択が広がったと言う意味でピコレーザーの導入の意義は大きいと思っていますので、今後も質の高い治療を提供していきたいと思います。