「あんなにたくさん金魚をすくって・・」
口をあんぐりあけて、見つめていた私にもらった金魚を
「やるよ」といってくれたのが嶋田さんだった。
前歯が2本ぴょこっと輝いて、リスみたいだと思った。

その翌年もまた夏祭りのときに会えないかな、と
思って出かけたが
ドラマのようにはいかなかった。
だが、その男の子が私がいずれ通うことになる
篠山中学のサッカー部であることと
嶋田さんという名前だということがわかり、
私はこっそりグラウンドまで見に行ったりしたのだった。
何回か通っているうち、
嶋田さんも私に気がつき、
そのたび「ヨッ!」と軽く手をあげてくれるようになった。
今日もその時と同じ角度で手をあげてくれた。
「ヨッ!小学生どこ行くの」
「もう小学生じゃないもん。中学に入りました」
嶋田さんはもう高校1年だ。
「へーそうか・・中1か。それ・・えんどう?俺んちのは?」
俺んちという言葉になぜかドキドキした。
嶋田さんはあの時と同じリスの笑顔で
話しかけてくれた。
「何か部活やってんの?」
「あ・・あの・・バスケ・・」おどおどしながら答えると
「えーっ?バスケ?ちびっこなのに?」
「ちびっこっていわないでよ、ミニマムっていって」
「便利だよな~イマドキ。
そんな言葉があって」
本当は嶋田さんんと同じサッカーがしたかった。
イマドキという言葉がはやっているならば、
どうしてイマドキ
女子サッカー部がないのだろう。
「俺、東高だから。がんばってミニマムも東校入れよ」
東高なんて、無理。
それに、私が高1になったら、嶋田さん、もう卒業してる。
またすれ違い。
そんな思いを置き去りに「じゃあな、ミニマム!」
嶋田さんはスポーツバッグを自転車の前かごに入れ直した。
その瞬間、バッグの横にぶら下がっていたマスコットが
ふわりと揺れた。
フェルトでできた手作りのサッカー少年だった。

悦子はその瞬間、
スナップえんどうの袋を左手に持ち替えた。

嶋田さんの背中を見送った。
またヨシオ君の家を目指してズンズン歩いた。
パンパンにふくらんだスーパーの袋から
可愛い実がついたばかりのスナップえんどうがポロリと落ちた。
それにも気づかず、悦子はひたすら歩き続けた。