「あっ・・・しまった!!今日は一時から生徒会選挙演説の応援があったんだった!!」
そう言って慌てて弁当を片づけはじめる奴良リクオ。その様子を見て笑っている瞳に目を向ける。
「瞳ちゃんも行く?」
そう言うと、彼女はにっこり微笑んだ。「ええ、もちろん。楽しみね」
その瞳がギラリと紫色に輝いたが、リクオは気付かなかった。
体育館に入ると、瑚々は人ごみにまぎれて、すっとリクオから離れた。
あたりを見渡せば、一人の少年が壁にもたれながら瑚々を見つめていた。
「犬神」
にこにこしながら駆け寄ると、彼は眉を寄せた。「―――ここで話しかけるなって言ったんはお前じゃねーかよ」
不機嫌そうに言う犬神に、瑚々は「仕方ないでしょ」と笑って、その横に並んだ。
「・・・で、若頭の首を取る覚悟は?」
遠く離れたところにいる奴良リクオに視線を据えたまま、瑚々が尋ねた。
「ハッ。あるに決まってるぜよ」
犬神はにやりと笑って、瑚々の耳元に唇を寄せた。「お前を手にいれるためにな」
その言葉に、瑚々は眉をひそめたが、犬神は気付かなかった。
その時、壇上にぞろぞろと立候補者があがりはじめた。
生徒会総選挙の始まりだ。
「犬神」彼が列に紛れ込む前に、瑚々が呼びとめた。「どうして私だったの?」
好奇心から出た質問だった。
あんなに玉章に忠誠を誓っていた犬神。
その彼が、玉章への信頼を踏みにじってまでも瑚々を求めるようになった理由が知りたかった。
しかも玉章とは違い、犬神は―――「彼女自身」を求めている。
力の器としてではなく、一人の女として。
力だけを必要とされてきた瑚々にとって、それはとても理解できないものだった。
犬神は瑚々を振りかえり、真っ直ぐにその瞳をみつめた。
「――――お前が、いつも哀しそうな顔してたから」
その言葉に、瑚々は目を見開いた。「・・・・え?」
一瞬、周りの音が消える。
「私が・・・哀しい?」
口元を引きつらせながら、瑚々は聞き返した。「この私が?」思ったより大きな声が出たので、周りにいた何人かの生徒が振り返った。
犬神は頷いた。「俺とお前は似てるんだよ、瑚々。お互いに忌み嫌われ、疎外されてきた」
段々とその目が見開かれていくのを見て、犬神はまくしたてるように続けた。「そんな俺たちの苦しみを、玉章が本当に理解してると思うんかよ?」
妖怪の中でも、人間の中でも、ずばぬけたカリスマ性を発揮していた玉章。
全てにおいて完璧――――そんな彼に、身も心も傷だらけで決して癒えようとしない傷から血を流し続ける自分たちの気持ちが分かるのだろうか?
瑚々は何も言えなかった。
犬神は躊躇いがちに手を伸ばして、そっと瑚々の頬に触れた。
「俺ならお前を分かってやれる」
そう言い残して、犬神は彼女に背を向けた。
人ごみの中に消えていくその後ろ姿を、瑚々はじっと見つめていた。
ぎゅっと拳を握りしめる。
あまりの怒りに、この場にいる全員を殺してしまいそうだ。
「ちくしょう」
髪をかきあげながら、犬神は深い溜息をついた。
あんな顔をさせるつもりではなかった。
ただ自分の気持ちを伝えたかっただけなのに、彼女を傷つけた。
それでも、彼女に分かってほしかった。
俺は全てにおいて玉章には適わない。だけど、俺はあいつの気持ちを理解してやれる。
俺なら、あいつにあんな顔をさせない。
犬神は初めて瑚々と会ったあの日を思い出した。
全ての始まりは、
あとがき:ようやく過去編スタート:D
最後あたり雑だけど、気にせずに。


