瑚々は圓潮の手を振り払い、鋭い瞳で彼を睨みつけた。「私という人間を分かってないようね」

そう言って、胸に手をあてる。「私の力は四国八十八鬼夜行組長、隠神刑部狸玉章だけのもの。あの方だけが私の力を手にいれることができる。彼以外の者にこの力を捧げる気は毛頭ない」

圓潮はすっと目を細めた。
「では言い方を変えようか。もし君が断るならーー」とんとん、と足で地面を鳴らす。「下で眠っている君の夫を殺す、と言うのはどうかな?」

「その瞬間、あなたは終わる。私を怒らせたから」

瑚々は薄ら笑いを浮かべた。「彼には指一本触れさせない」

瑚々が本気で言っているのが分かり、圓潮は暫くの間彼女を見つめていた。

そしてようやく口を開く。

「きみには驚いた」

首を傾げ、彼女の顔を覗きこむ。

「記憶の通り、したたかで、芯があり、予想外で油断ならない。そして記憶の中の君より、今の君のほうが美しい。だが」

驚く暇もなく、手を伸ばして瑚々の顎をつかむ。「妥協というものを知らない」

「ーーー」

瑚々は目を上げて圓潮を見た。闇のような瞳。そこには無表情に彼を見つめる瑚々の姿が映っていた。

「抵抗しないのか?」

彼女の腰にもう片方の手を回し引き寄せながら、圓潮が囁く。


瑚 々は手摺から身を乗り出し、自分の顔を圓潮の顔に近づけた。「抵抗してほしいの?」

その妖艶な微笑に、圓潮は笑みを浮かべた。

その時目にも見えない早さで瑚々は隠し持っていたナイフを取り出し圓潮の喉元にその刃先をつきつけた。

が、ナイフが突き刺さる寸前に圓潮は瑚々の手首を掴んだ。

彼は笑みを浮かべたまま目を見開く彼女に向かって首を振って見せた。

「記憶の通り、やっぱりきみは信用ならない。ずる賢く、頑固で、計算高い」

圓潮が瑚々の手首を手摺に叩きつけると、ナイフが衝撃で地面に落ちていった。

睨みつける瑚々に圓潮はにっこりと笑った。

そして彼女の顎を掴み、その唇に激しく口付けをした。




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「誰」

瑚々は突然現れた男を真っ正面から見据えた。鮮やかな紫色の瞳が暗闇の中で輝く。

「君が、瑚々だね」

男はまじまじと彼女を見た。「なるほど。話は本当だったようだ」

「質問に答えて。あなたは誰」

一気に放たれた妖気に男は驚いたようだったが、すぐに人のよさそうな柔和な笑みを浮かべた。

「失礼。自己紹介がまだだったね。私の名前は圓潮。君の古き友人の一部、と言っておこうーーー''タマラ"」



「「私の名はーーータマラ」」



昔名乗っていた偽名を呼ばれ、瑚々はすっと目を細めた。

「山ン本か」

圓潮、と名乗る男はにっこりと微笑んだ。「ご名答」

「ーーーそのなりそこないが、私に何の用?」

腕を組み、手すりにもたれながら瑚々は顎を上げた。「私に構わないという約束のはずだけど?」

「そのはずだったが、事情が少し・・・変わってね」

「変わった・・・?」

瑚々が眉を上げると圓潮は薄ら笑いを浮かべた。「そう。私は山ン本の一部ではなく、"圓潮"という妖として生きていくことにしたんだよ。そして、安倍晴明殿と手を組むことにした」

瑚々は目を見開いた。「鵺と・・・?」

「予想外だったろう?」

驚く瑚々に顔を近づける。「そして彼とその子孫による清浄の時がーー始まろうとしている。だがそれには」

圓潮は手を伸ばして彼女の頬に触れた。


「きみの力が必要だ」












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暗闇の中で私を見つめるその瞳。

まるで永遠に続くトンネルのように、光のない、その瞳は。

ただ私の力だけを求めていた。




ぬらりょんの孫夢小説

力を求める者たち




瑚々ははっと目を覚ました。

夢だった。奇妙で、不可思議な、ただの夢。

ベット脇の時計に目をやる。まだ朝の3時15分。

朝日が昇るのに、かなり時間があるが、もう一度眠りにつけそうにはない。

瑚々は小さく悪態をつきながら、シーツを巻きつけ、猫のように身体を伸ばした。

ふと隣にいる彼をみて、口元を綻ばせる。

玉章は瑚々の隣で眠っていた。

時折彼の静かな寝息が聞こえてくる。

瑚々は手を伸ばして玉章の髪を優しく撫でた。

こうして玉章と一緒にいるのが夢のようだった。

一度失いかけた、かけがいのない人。

そんな彼が、今ここにいる。

そう思うと、胸が熱くなった。

最初は本当に夢ではないかと不安になり、彼の胸に耳を当てて、その心臓の音を聞いていた。

だが波打つその音を聞いていると、すっかり安心してしまい、そのまま眠ってしまうのがしばしばであった。

今ではもう不安がることはないが、眠れなくなると無意識に彼の胸に耳をあてていた。

今回も例外ではなく、瑚々は体を寄せ、玉章の胸板に頬をのせながら、呼吸をする度に跳ねる心臓の音に耳をすました。

そしていつものように、彼を思い出す。

ーーー奴良組若頭、奴良リクオ。

玉章を倒し、そして救った男。

玉章が率いる四国八十八鬼夜行と奴良リクオ率いる奴良組との対峙から、かなりの時間が流れた。

後に彼が三代目に襲名したと風の噂で聞いた。

あれから玉章と瑚々の周囲もガラリと変わった。

玉章は父親である隠神刑部狸の後を正式に継ぎ、そして同じ四国の妖怪たちを思い遣る気持ちが芽生えてきた。

全盛期とまではいかないが、組も前より拡大した。

あの戦いに負けたのがいいことだったのかは、分からない。だが結果には満足している。

元々、戦いを計画したのは、瑚々本人だった。

瑚々は顔を離し、玉章の首筋にキスした後、薄い黒のローブを羽織りながら屋上に出た。

二人がいるのは、玉章が幻術で作り出した海辺のビル。

夜が明けるまで、瑚々は潮風に当たろうと考えていた。

屋上に出ると、ひんやりとした風が頬を撫でた。

手すりに組んだ腕をのせ、海を見つめる。

地平線にはぼんやりと明るみが差していて、海面には鮮やかな紫色の絨毯が広がっていたーーー。

その時。

「きみの瞳の色に似てるね」

突然聞こえた声。

はっと振り返ると、そこに一人の男がいた。

その目は、夢の中に出てきた、トンネルのように暗い瞳にそっくりだった。





あとがき

やっと始めました!新章です\(^o^)/
久しぶりすぎてスランプ←
セリフなさすぎて瑚々がただの女になり下がっている…(泣)






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