「また戻ってくるから」

私の頬を両手で挟みながら、彼は言った。

「どんなことが起こっても、どんなに離れていても、お前のために戻ってくるから」

そう言い残して、彼は姿を消した。

もう12年も前のことである。

そして私は今日結婚する。






「ふーっ。緊張してきた」

「アメリなら大丈夫だよ!」

手で顔を仰ぐ私をさつきは明るく励ました。「式なんてあっという間だし!」

「それまでこのウェディングドレスに耐えられるかな…」

私は息が詰まりそうなほどきつく締められたドレスをぐっと上げた。「凄く息しにくいんだけど」

「でもさー。ほんとビックリしたよ、まさかアメリが大ちゃんじゃなくてかがみんと結婚するなんて!」

「はは…本当にね」

自分でもびっくりした。まさか大我と結婚するとは。しかも19で。

「でも絶対かがみんならアメリを大切にしてくれるよ」私にヴェールを着け終えると、さつきは満足そうに頷いた。「よし、完成!」

私は鏡を振り返った。憧れの純白のドレスを着た自分が、こちらを見つめていた。

「なんていうか…」

「綺麗?」

「…うん」

自分の姿にここまで圧倒されるとは。

「はは、アメリったら素直すぎだよ!」

笑いながらさつきが後ろに後ずさると
ガタンと音がして、机の上にあった宝石箱が床に落ちた。

「きゃー!ごめん、アメリ!」

「いや、いいって」

あわあわと慌てふためくさつきに苦笑しながら、膝をつけて宝石を拾い始めた。

と、とあるものを見つけ、私はぴたりと動きを止めた。

小さなそれを指で摘み、まじまじと見つめる。

「それって…あの例の男のコの?」

気がつけばさつきも隣で膝をついて、じっと私が持っているものを見つめていた。

それは青い指輪だった。小さくて、屋台で売っているような感じの。

でも私にとっては…。

ふと横をみるとさつきが私を見つめていた。

私は眉を上げた。「なに?」

「まだ好きなの?その子のこと。」

「それ結婚直前の花嫁に聞く?」

「どうなの?」

おどけて見せたけど、さつきは真剣な表情。本気で答えないと怒るだろうな。

私はゆっくりため息をついた。「好きという前にムカついてる」

会いにくるって言ったくせに。

ずっと待っていたのに。

今は憎しみさえ感じている。

でも、もう今は過去の人。

私はもう結婚するんだ。

「ほら行くよ」

何か考えているさつきに向かって手を差し出す。「もうすぐ式が始まっちゃう」