「つ、疲れた~~」


俺はばふっとベットに倒れ込んだ。


バスケの練習の後はモデルの仕事・・・かなりのハードスケジュールだ。


シャワーする気も起きず、そのままうとうとと眠ろうとしていると。



ガシャン!!



何かが割れるような音が聞こえてきた。それに続いてどなり声。



「な、なに?」


体を起して、恐る恐るカーテンをめくる。


すると、向かいの建物の一室で、男女が口論しているのが見えた。


窓を開いているためか、声がただ漏れだ。


男が女の腕を掴んだ。「リサ、もう一度冷静に話し合おう」


「もう、あなたと話すことなんてないわ」と女は冷たく言い放ち、男の手を振り払う。


俺は女の顔に釘つけになっていた。


茶色い髪は胸まで波打ち、小麦色の健康的な肌に緑色の目がよく映えいた。


今まで見てきたモデルの中でもすこぶる美人だ。


名前はリサ、というらしい。


男は頭を抱え込んだ。「勘弁してくれ、ちゃんと謝ったじゃないか」


「あなたって、いつもそう。謝ればいいと思ってる」


「いい加減にしろ!子供みたいにゴネるな!」


「怒鳴らないで!」


ふむふむ、なるほど。どうやら男が違う女に手を出したようだ。


俺も経験したことがあるから、分かる。


多分だけど。


すると驚きながらも興味津津に見ている俺に男が気付いた。


やっべ・・・。


「なに見てやがる!」


拳を振り上げ、窓から身を乗り出す男。


慌てて身を引こうとしたが、男の「なにするつもりだ、リサ!」という恐怖に満ちた声に、思わずもう一度向かいを見て、ぎょっとした。


なんとリサが身を乗り出し、軽やかに窓から軒下に出てきて、狭い縁にバランスよく立っていたのだ。


向かいの建物との隙間は50センチ足らず。


な、なにをするつもりなんだ、この女!


「危ないッス!」思わず叫ぶ。


「馬鹿な真似はよせ、リサ!」


部屋の中からは男が叫んだ。


リサは肩越しに中の男を見る。「あなたとはおしまい。さっさと部屋から出てって」


「気をつけて」


と声をかけると、リサが振り返った。意外にも余裕の表情で微笑む。


「戻れ、R!落ちたら死ぬぞ!」


リサは男の言葉を無視し、高さと俺の部屋の窓までの距離を測るように、何度も視線を動かす。


「危ないからやめた方がいいッスよ!」


俺は口に手を当てた。


「早く戻れ」


「あなたがいるから戻らない」リサは壁を背にし、渡りやすい場所に移動した。


「リサ、ちゃんと話しあわずに逃げ出すのか!子供じゃないんだぞ!!なんで人の話を聞こうとしない!」


「勝手なことを言わないで。もうたくさん。さあ、出てって。二度と電話もかけてこないで!」


リサは深呼吸をして体制を整えると一跳びする。俺は瞬間的に両手で目を覆ったが、すぐに開けると、窓に手をかけてリサが笑っていた。


屈託のない美しい笑顔が目の前にせまり、思わず息を呑む。


「入っていいかな?」


「も、もちろんッス」誰が天使の申し込みを拒否できる?


「ありがとう」


彼女はすらりとした長い足で軽々と窓枠を跨いで入ってきた。「お騒がせして、ごめんなさいね」


思ったより、彼女は小柄だった。バンビのような長い足のせいか、身長が高く見えたが、せいぜい165程度。

「全然いいッスよ」とはにかんだ笑みを見せる。「それより落ちたらどうしようかと」


「実を言えば、私もびくびくしてたの」


「冗談っしょ」俺は目を丸くした。「すっげえ涼しげな顔していたっすよ?」


彼女は笑った。「ポーカーフェイスには自信があるの」とウインクする。


「リサ!」


「お別れよ!」


向かいの窓から叫ぶ男にリサは中指を突き立てた。ファック・ユー。くたばれ。


男が憮然とした顔で出ていくと、彼女は振り向き、唖然としている俺を見て肩をすくめた。


「彼、ボーイフレンド。あら、もう別れたから元カレね。影で別の女と会ってた」


俺は思わず顔をしかめた。「酷いッスね」


「もういいの」その顔はすっきりしている。「でもよかった」


「なにが?」


「あなたとは前から話したかったから」



その言葉に俺は顔を赤くした。






監視目






(え、い、いつから?)


(そーね、あなたが女の子を連れ込んだ時からかな?)


(なんで知ってんすか////)