朝。
俺は教室の扉の前で立ち尽くしていた。
昨日――何年もたったような気がするが―――、他人の性行動を見てしまった挙句、それを当の本人に見られてしまった。
どんな顔をして霜月と会えばいいのか、全然分からない。
まだ早い時刻なので鉢合わせということはないだろうが、その行為が行われたのは自分のクラスということもあり、気まずさがある。
何をやっているんだ。
俺は溜息をついた。気にするな、と自分に言い聞かせる。
そして勢いよく教室の扉を開けた。
だが開けた瞬間、すぐに後悔した。
「はぁーい」
陽気な声が聞こえたかと思えば、彼女があの机の上に座り、俺に向かって手を振っていた。
俺がぎょっとしているのにも関わらず、霜月はへらへらと笑っている。
教室は俺達二人だけで、今の状況はまさに―――最悪だった。
こんなことは初めてだし、ましてや霜月は学校にほとんど首を出していない。
やはり、昨日のことが関係しているのだろうか。
じゃなきゃ、彼女がわざわざ朝早くこの教室に現れるはずがない。
霜月とはあまり話したことはないが、完璧な美人という認識はあった。
緩く巻かれた見事な金髪、陶器のように白く滑らかな肌、甘くセクシーなハスキー・ヴォイス。
プロポーションも完璧だ。
後戻りをしてそのまま朝練に行こうかと考えていると、突然彼女の口元が、完璧なUの形を描いた。
「何もなかったようにするつもり?」
一瞬、なにを言っているか分からなかったがあの事についてなのは明らかだ。
「・・・・安心しろ。誰にも他言はしない」
ぽつりと呟く。
いうものでもないし、はっきりいって彼女の性生活に興味なんてない。
彼女は机から降りて、俺を見上げた。
身長は約174センチ、といったところか。
女子にしてはかなり高い。
「分かってないのね。私が言いたいのはあなたは私のセックスを見た。まぁ、それはいいのよ」
はっきりという女だ。
女なら恥じらいとかあってもいいだろうに。
最後の言葉が気になったが、先を続けさせた。
「で、私と寝る気になった?」
俺はビシッと顔がこわばるのを感じた。なんだと?
彼女は妖艶に微笑んだ。
「猶予をあげたのよ、あなたに。あのシーンを見て、私に欲情したのは・・・間違いないでしょ?」
そう言って彼女は細く、長い指を伸ばして、俺のシャツのボタンをさぐった。
本能が疼いて、俺は自分を抑えるため、彼女の細い手首を掴んだ。
「やめろ」
だが彼女は悪戯っぽく笑った。普段は一段と大人っぽい女が、少女にへと変化する。
「でも本当のあなたは、私を欲しがってるようだけど?」
息がかかるほど、顔を近づけられる。
俺は顔をそむけた。他の男たちが彼女に夢中になるのが分かるような気がする。
大胆で、それでいて―――魅力がある。
彼女は片方の眉を上げた。理解できない、って表情。
「どうして?どうして本能に逆らおうとするの?赴くまま生きればいいじゃない」
私みたいに、と囁く。
その声にぞくっと体中が震えた。
自分でも分かる―――――本能が、彼女を欲しがってることを。
でも・・・。
「俺は動物みたいになりたくないのだよ」
凄みをきかした声で言い放つ。「俺は君とは違う」
霜月はまじまじと俺を見つめていたが納得したらしく、頷いた。
「なるほどね」
しばらくして俺は口を開いた。「どうして男に自分を売る?」
「愛に飢えてるから」
さらりとした口調。
「私は、きみとは違うの」
‘違う’をどこか強調させるようにゆっくりと発音する。
「理性や、常識なんか鼻から持ち合わせていないのよ」
そう言って苦笑してみせる。
――――どこかその笑みが悲しそうなのは、気のせいか。
少し、胸が痛む。
もしかしたら、聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。
顔に出ていたのか、彼女はゆるりと笑った。
「なに?私を更生させたいわけ?」
その豊かな表情が急に消える。「無理よ。あんたに私は変えられない」
「賭けるか?」
俺の言葉に彼女はふん、と鼻を鳴らし、ポケットから煙草を取り出して火をつけ真っ直ぐに煙を吐き出した。
法律なんて、彼女には関係ないのだ。
「いいわよ」
そしてもう一つ、と言って彼女は俺に向かって煙を吐きかけた。
「あんたは本能に負ける。それも賭けてみる?」
俺は頷いた。「いいだろう」
あとがき
私も結構めっちゃ禁句用語言えるけど・・・かくのには抵抗があったり
自由人なんですよ~、まったく。
ってか普通救いたいのか?
