オレとヨウコはファミレスを出て隣接している24時間スーパーの駐車場の端に自分達の車を停めた
ヨウコが素早くオレの車の助手席に乗り込んできた
同時にヨウコはオレの左腕を掴み自分の頬をくっつけてきた
ヨウコ
会いたかった…日曜日に会ったばかりだけど…すごく会いたかった…
オレ
…オレもだよ…
オレはヨウコの髪を撫でた…
ブブブブブ ブブブブブ
オレとヨウコが唇を近づけようとした時、オレの携帯電話が振動した
ユミからの着信だった…
オレは携帯電話を持って車の外に出た…
ユミ
そろそろ電話が来る頃かなと思ってたけど、電話来ないから…まだ仕事中だった?
オレ
アッ…ウン…まだ帰れないんだ…
ユミ
なんか車が通る音するけど、外にいるの?
オレ
ウ、ウン…今日は○○市へ納品した物が間違ってて、夕方に先方からクレームが来てね。それから急いでオレが謝罪をかねて交換しに行ったんだよ。帰る途中でどうしてもお腹が空いてね。○○市の○○町のファミレス寄って夕ごはん食べたんだ。今ファミレス出て車に乗ろうとしたとこだったよ。
ユミ
そうなんだ。大変だったね、お疲れ様。誰かと一緒なの?
オレ
ウウン…オレ一人だよ。どうしたの?
ユミ
仕事中に一人でファミレス寄るなんて珍しいなって思って…
オレ
コンビニ寄っておにぎりかサンドイッチにしようかと思ったけど、ちょっと疲れてたし、ゆっくり食事しようと思ってさ。ユミは体調とかどう?
ユミ
変わりないよ。そういえばお腹の子の名前どうなったの?なにか候補とか考えてくれた?
オレ
あっ!この頃忙しくて…ゴメン、ゴメン。
ユミ
そんなことだと思ったよ。でも、仕事忙しいんでしょ。無理しなくていいよ。私は五つ候補ができたから後でメールで送るね。
オレ
ゴメン、ユミ、ありがとう!オレも必ず考えてメールで送るから!子どもの名前って親から子どもへの一番最初のプレゼントだから、オレも真剣にちゃんと考えるよ。
ユミ
ほんと〜?ほんとにちゃんと考えてね。パパ!
オレ
当たり前だろ!ちゃんと考えるよ、ママ!
ユミ
これから会社に帰るんでしょ。気をつけてね。
オレ
ウン、安全運転で帰るよ。
ユミ
じゃあね!れいじ…愛してるよ。
オレ
オレもだよ、ユミ!
ユミ
オレもだよ、じゃダメ!ちゃんと言って!
オレはチラッとオレの車に目を向けた…
すぐに反対を向いて携帯電話を持っていない方の手で携帯電話の通話口を手で覆った…
オレ
ユミ、愛してるよ!じゃあね。
ユミ
うん、ありがとう。じゃあね。
携帯電話を切ったら、首筋に汗がつたっているのがわかった
車に戻って運転席に座ってヨウコを見た
ヨウコは肘を太腿につけて頬杖をついて真っ直ぐ車の外を見ていた
ヨウコの助手席側のドアのガラスが少し空いていた
" アッ…今の会話聞いてたのか⁉︎… "
ヨウコ
…帰る…やっぱり…今夜は帰る…
オレ
…どうして…
ヨウコ
…今夜のレイジは私のレイジじゃない…ユミさんのダンナさんのれいじだから…もうすぐパパになるれいじだから…
オレ
……
ヨウコの声には少しだけ涙が混じっている気がした…
ヨウコはオレの顔を見ることもなくオレの車を降りて自分の車に乗った
ヨウコはすぐに自分の車のエンジンをかけた
ヨウコの車は駐車場を出て幹線道路を走り去っていった
あっという間の出来事だった
"調子に乗りすぎてバチが当たったのかな…"
焦燥感とか罪悪感は湧いてこなかったが…
ただただ心にぽかりと穴が空いた気がしていた…
何も考えられずしばらくぼーっとしていたが…
車のエンジンをかけ車を幹線道路に向け家路に着いた
家に着いて風呂に入って湯船に浸かりながらさっきの車の中でのヨウコとのやり取りを思い出した…
ヨウコがユミの存在に嫉妬しているのは間違いないだろう…
ということはオレにかなり本気になってきたのか…
嬉しいような…
でも…
なぜかヨウコの想いを受け止めきれないような…
風呂から上がって冷蔵庫から缶チューハイを出した
リビングの灯りを点けずにリモコンのボタンを押してテレビを点けた
テレビの青い光がリビングを包んだ
何も考えずに缶チューハイを開けて一口飲んだ
ピコンピコン…
携帯電話のメールの着信音が鳴った…
メールの送り主は予想がついていた…
でも、メールの内容までは予想できなかった…
"さっきはゴメンナサイ。どうにもならないことはわかっています。こういう気持ちになってしまうのもわかっていました。レイジは一人しかいません。それにワタシだけのレイジではありません。さっきはどうしても自分の気持ちの整理がつきませんでした。今は少し落ち着いてこのメールを打つことができました。重いかもしれないけど私には今レイジしかいません。ユミさんとお子さんが帰ってくるまでは、レイジのヨウコでいさせてください。"
ヨウコのメールはなぜか敬語になっていた…
ヨウコに申し訳ないと思った…
ヨウコにこんなメールを打たせるなんて…
なぜかヨウコの哀しみがオレに伝わってきた気がした…
ヨウコ…ヨウコ…
あの日…
新幹線のホームで会ったヨウコ…
居酒屋とスナックで楽しく盛りあがるヨウコ…
ヨウコのアパートで繋がった夜…
土砂降りの中でオレに助けを求めてきたヨウコ…
オレのアパートで繋がった夜…
ウォーターランドではしゃぐヨウコ…
自分の心の内をさらけ出したヨウコ…
自分をオレのセフレでいいと言ったヨウコ…
オレとの別れを切り出したヨウコ…
ホテルのフロントでオレを見たヨウコ…
海沿いのリゾートホテルでの一夜…
街中のラブホテルでの一夜…
オレの心の中はヨウコで一杯になっていた…
オレは手に持った缶チューハイを半分ほど一気に飲んでから、携帯電話を持ちメールを返した…
"ありがとう。ヨウコだけのレイジになれなくてゴメン。先のことはわからないけど、これからはできるだけヨウコのそばにいるつもりだよ。"
少しして携帯電話の着信音が鳴った…
"レイジは謝らないでください。でも、ありがとう。ユミさんのところへ行かない週末は一緒に過ごせたら嬉しいです。"
またヨウコにこんなメールを打たせてしまった…
オレ達は引き返せないところまで来ている…
どうにもならないとわかっているのに…
オレは缶チューハイの残りを一気に喉に流し込んだ