北方謙三「遠い港」(1991年)という文庫本を読み終えた。
北方謙三といえば、長編の歴史小説というイメージが私には非常に強くあるが、若い頃には、この「遠い港」のようないわば「普通の」青春小説をよく書いていたようである。毎日が甘酸っぱく、元気いっぱいの青春時代の出来事が、淡々と描かれる。
北方謙三の文章は非常によく分かる。
逆に、分からない箇所がない、と言ってもいい気がしている。例えば哲学書なんかの分からない箇所だらけの文章とは、訳が違うものだ。或いは権力者に手厚く保護されている、昔の文豪によるこむつかしい文章とも全然違う。
北方謙三のような良い意味での「普通の」作家が、現代にも居るということは素晴らしい。
権力者にとってはだいぶ不都合かもしれないが、本当のことを語る人というのは、民衆にとって、或いは広く人類にとって貴重な存在だ。
これからは時代が大きく変わったことにより、北方謙三みたいな作家が次々と出現してくる気がしているし、また、是非ともそうならなければならない。
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