恋人が「あたしがいないときはこのぬいぐるみを私だと思うのよ。」
って、まるでなんかの安っぽいお話だ。
でも、僕は最初そのモグモグちゃんを、顔が無いなあとか思っていたけど、
この頃は悪くないと思っている。
おいで。って言って、一緒に音楽を聞くし、足のぽよぷよしている所を、つねったりする。
遅くなったけど寝ようね。って言って一緒に布団に入ったりする。
そうすると、少し一人の時間がそうじゃなくなる。
でもモグモグちゃんは何も言わない。
ぬいぐるみだから当たり前なんだけど、
その内に、まるで全て許してくれるグリードのような気までするから、とても不思議だ。
モグモグちゃんは良く見ると少し太っている。
何も食べないのに。
モグモグちゃんにはファスナーがあって、
僕の恋人はゆたぽんを入れたら温かくなるねって、言ったけど
そんなことはやっちゃいけない気がする。
モグモグちゃんのファスナーをあけて、中の綿一杯の綿を少しでも取り出すと、もうモグモグちゃんじゃないって思う。
あらゆる扉についていえることは、それを開けたら、それだけ希望とかが少なくなり、絶望が近づく、ということだけれど、
扉は閉じられているから、扉にならしめる。
もう食いつぶした、というのは嘘かもしれない。
絶望が近づいたというのは、さらに扉を見つけることかもしれない。
扉は呱々と未来を分断し今を成立させる。
扉を開けても次の扉が見つからず、どれだけがんばっても扉が見つからず、本当に無いなら、
もうあなたには何も無い。
顔も無いのに死んだ子がいた。
男の子はその子の扉を奪ってやろうとして、その子の耳の穴をのぞく。
七色爛漫の空へ。