今日は、アジ歴の史料から始めます。
収受が1910年(明治43年)1月7日なのでここで紹介しますが、付日は1909年(明治42年)12月27日。
大垣丈夫の動向について、大阪府知事から内務大臣平田東助宛ての『第137号』より。 【画像】


韓国大韓協会員の来阪

韓国大韓協会顧問大垣丈夫は、東上の途次、昨26日午后11時27分梅田駅着の汽車にて広島より来阪し、当市北区曽根崎中二丁目旅人宿楠本周平方に投宿せしが、今回帰朝の目的は、本期議会に於て対韓問題の提議せらるることあるを予想し、議会開会前一応政友会并に進歩党の幹部員に面会して韓国の現状を縷述し、又政府当局者に対して対韓政策に関する同協会の希望を訴へ、議会開会中は東京に滞在し、諸般の視察を為すに在りと云ふ。
本人は、本日午後7時23分梅田駅発の汽車にて出発し、着京の上は芝区愛宕町二丁目14番地月見館に投宿すべき筈なり。
右及報告候也。



やはり大垣丈夫って何者なのか、よく分からない。(笑)
で、もう一丁これの続報があるので、そっちも紹介しておこう。
1909年(明治42年)12月28日付『第138号』。 【画像】


韓国大韓協会員の出発

既報韓国大韓協会顧問大垣丈夫は、昨日午後7時23分発の汽車にて東上せり。(京都府へ電話通報す)
同人の妾、鹿山ミツなる者、目下当市北区牛丸町に居住せるを以て、来阪後同所に出入りせし外、別に異状の行動を認めず。
右及報告候也。



大垣丈夫も、いつ妾なんて作ってんだよ。(笑)
で、京都府へ電話通報って、行く先々でマークですな。

続いては1月8日付けの史料。
1910年(明治43年)1月8日付『高秘収第6号の1』より。


本月1日高秘発号外、合邦問題に関する各道各警察署別報告、全羅北道各警察署に属するもの別紙の如し。
右及通報候也。

○ 別紙
[全羅北道地方の動静]

全州警察署管内
一.12月3日全州新報の号外により、一進会が日韓合邦の請願書を提出したりとの事を知得したる民衆は、曾て伊藤公の遭難以来、之が反動は必ずや統監政策の上に現出するに至るならんと杞憂の念を懐き居りたる折柄なれば、一層の感動を受けたるものの如く、殊に一進会に対しては深く憎悪の念を惹起したるの観あり。
要するに本問題に対しては不快の念を抱き、合邦の不成功を希望し居るの状況なり。

一.全州一進会支部長は、12月8日各支会長及侍天教長を召集したるも、会する者4名にして、之に対し一進会が合邦に宣言したる趣旨を概述し、猶ほ一般民心の動搖に注意することを以てせり。
以上の外、特記すべき事項なく、不穏の言動を為すものなし。



伊藤博文を韓国人が暗殺した時点で、悪影響が出るかもしれないと考えるのは、まぁ当たり前。
しかしながら、2ヶ月余りが過ぎたこの時点では、全く日本からのアクションは無い。
そんな中で、一進会が合邦声明を出したという事で、一進会を深く憎悪。
当然と言えば当然ですな。

で、一進会の支部長が招集かけたけど、集まったのは4名・・・。
駄目じゃん。。。


古阜警察署管内
一.両班儒生等の間に於ては頗る杞憂を抱き、一進会の此挙に対し絶対に反対の意を漏し居るも、其内稍々事理を解する者にありては、該声明書の記事一々適切の文言にして、過去に於ける日本の誠意を自覚せざるの致す所なり。
日本政府として、若し合邦の意ありとせば止むなきものとし、只歎息を為すに過ぎざるものあり。

一.大韓協会員中合邦反対説を唱ふるもの多きも、同会本部は対合邦問題を決定して更に通知する迄は、此際軽挙に出でざるべきことを以て各支会を戒めたるにより、同会員は目下極めて沈黙を守り居れり。
以上の外、何等異状を認めず。



杞憂を抱く者は当然居るとして、合邦声明の言ってるのはその通りで、日本の誠意を自覚しないわけにはいかず、日本が合邦する意思があるのならばやむを得ないとする者も居る、と。

で、この管内の大韓協会員は合邦反対説が多いが、本部の意向により沈黙。
一進会は君主独裁で、大韓協会は共和主義とか言ってた人がいたけど、支部で招集して4人しか集まらない一進会より、大韓協会の方が本部の言うこと聞いてるじゃない。(笑)


錦山警察署管内
一.今日迄何等注目に価すべき行動なし。

南原警察署管内
一.合邦問題に関しては、新聞購讀者并に2、3有力者の知れる外、一般人民に於ては未だ周知せず、其知得せる者と雖ども、一進会が如何に活動するとも日本は之を歓迎せざるべく、目的を貫徹するは不可能の事なりと冷評し、一般民心冷静なり。



一般人はやはり知らない、と。
で、知ってる者も日本は一進会の活動を歓迎しないだろうとして冷静、と。
何で歓迎しないと思えるのだろう?


群山警察署管内
一.一般に周知せられず、郡守以下の官吏其他新聞購読者等偶々之を知るも、深き注意を払はず、一種の好奇心を以て其成行を観望し居るものの如し。

一.大韓協会支部其他多少の政治思想を有する両班儒生は、兎角の評論を為すもの多く、上流社会中現内閣に親戚其他職務上の夤縁を有する2、3者を除きたる外は、何れも本問題を以て国家存亡に関する重大問題となし杞憂し居るも、時局を云為するに於ては災厄の身に及ばんことを憂慮し、口を噤ずるものの如し。
但し、一進会の挙措を無謀なりとして罵倒し、売国奴なりと激語するものあり。
然れども、未だ輿論を動かすの勢力なし。

一. 群山にて最も勢力ある前参判趙秉承、権鐘振、儒生金光済等は曰く、合邦は国家の大問題なるを以て、一進会独力にて成功すべきにあらず。
然るに、国民中十中の九は不同意なるを以て、到底成立せざるべし云々。

一.中流者の感想は一定せずと雖ども、国家の存亡に就ては関知する所にあらずとするものの如く、衣食住を得るの途を与ふれば足れり。
然るに、合邦の結果我瞹昧なる同邦国民は、到底鋭敏なる日本人と競争場裡に立つ能はずして、百般の利益は日本人の為めに壟断せらるるに至らん。
現に既往の経験を以てするも、之を証するを得べし。
吾人は、生活上不良なる影響を受けざるに於ては、其合邦と属国たるとは問ふ所にあらざるなりと。

一.暴徒の未だ全滅せざるに際し、日韓合邦は反て暴徒を増加するの動機たるを免がれずと杞憂するものあり。
以上の状況にして、住民中10分の9は未だ本問題を詳知せず、両班儒生中には、一進会の宣言に憤慨せるものありと雖ども、多くは何等の影響なきものの如く、頗る平穏の状態なり。



郡守以下の官吏其他新聞購読者は知ってても深く注意を払わず、好奇心で成り行きを見守っている、と。
これは、先ほどから見られるように、成立しない前提に立って、この騒ぎを楽しんでるって事かな?

両班、儒生なんかは論評するものが多く、合邦問題を国家存亡に係る重大問題として杞憂はしているが、自分の身に厄災が及ぶ事を憂慮して黙っている、と。
ただ、一進会は無謀な売国奴だと豪語する者は居るが、世論を動かす力はない、と。

趙秉承、権鐘振、儒生金光済は一進会独力で成功するはずが無く、一方で国民の9/10は同意しないから成立しないだろう、と。
つうか、いつから大韓帝国が民主国家になったんだよ!(笑)
大韓国国制第二条の「万世不変の専制政治」は何処へ行ったのやら。

中流階級は生活上良くない影響が出なければどっちでも良い、と。
ただ、蒙昧な韓国人は鋭敏な日本人と同じ競争場に立つ事すら出来ず、利益は日本人に持っていかれるだろう事を心配している。

後は、暴徒がまだ全滅されてないのに、日韓合邦は暴徒増加に繋がるのではないかと杞憂する者が居る、と。
ふーん。
「義兵」じゃないんだ。
しかも、増えると困るんだ。(笑)


○ 別紙 高秘発第7号
合邦問題に関する地方状況

京畿道
一進会の提唱に係る合邦問題に関し、同会の顧問役とも見るべき菊池忠三郎が、仁川居住の親友に語りたる一節に、

本問題は、遠く新協約成立の当時に在りて内田良平が宋秉畯に諮りたるに、同人の炯眼早くも合併の已むべからざるを看破し居りしものの如く、而て之を李容九に伝へ、同会をして提議せむべく勧誘ありたしとの事にて、内田は李に対し、合邦の早晩実現せらるべき機あるを諄々として説く所ありしに、李は事重大にして十分熟慮の上確答すべきことを以てし、爾来本問題を攻究し、為めに煩悶憂愁病をなしたること一再ならざりし。
其後、韓国の時事日に非にして合併の機近邇し来れるを看取したる李は、若し日本政府より合併せらるるときは、建国の歴史を尊崇せる数十万の反対者は立ち所に蜂起し、如何なる暴挙を企つるや保し難く、寧ろ身を鋒鏑に殞すべきを予期し、且合併せらるるときは皇室の存在に関し痛心し、自ら進んで合邦を提唱し、皇室の安全を謀り、民心の攪乱を未発に防遏するの手段として今回の挙に出たるものと云ふ。
而して李は、本問題提出に付ては既に死を決し、若し問題の不結果に終らんが、毒を仰いで死する牢乎たる決心ありと伝へらる云々。



んー、菊池忠三郎、面白い事言ってますねぇ。
内田良平と宋秉畯は意気投合。
これを李容九に謀った処、「李は事重大にして十分熟慮の上確答すべきことを以てし、爾来本問題を攻究し、為めに煩悶憂愁病をなしたること一再ならざりし。」だそうで。
良く、葛生能久の『日韓合邦秘史』を元に、李容九が樽井藤吉の『大東合邦論』の影響を受けていたとされるけど、どこまで本当なんでしょうねぇ・・・。(笑)


平安南道
12月25日、耶蘇誕生日に於て鎮南浦耶蘇三崇学校附属教会堂に於て、職員生徒及一般の信徒集合し、祝賀式に挙げたる後、校長及学監の演説あり。
学監裴亨湜演説の要旨は、韓国は瀕死の病人の如し。
漸々死に向ひつつあり。
名義は日本の保護の下にありと云ふも、実質は属国の待遇なり。
韓人たるの精神も亦、時勢と共に忘却しつつあるの感あり。
一進会は合邦を提唱し、有力なる両班等も之に賛同し来れるの風あり。
我々は、国勢の如何に成り行くも之を評論する能はずと雖ども、韓国たることは決して忘るべからず。
我々耶蘇教徒は、宜しく団結の精神を保ち、神に信頼して祈りを怠らず、我国将来の光明を得、国の独立を期せざるべからず云々。



現代韓国人は、民族と国籍を分けるという思考が出来ないんですが、こういう処にその根源があるのかも知れませんなぁ。
でも、「韓人たるの精神も亦、時勢と共に忘却しつつあるの感あり。」って、皇民化政策とかってまだ行われて無いんですけどねぇ。(笑)
改めて演説しなければ、韓国人としてのアイデンティティーすら保てないのかも知れませんね。


平安北道
寧辺公私立学校に於て、合邦反対一進会排斥演説をなしたるより、同地方に於て一進会を嫌ふの情益々其熱度を嵩め、多少不穏の模様ありしにより警戒中の処、12月28日、地方国民会と号し、儒生崔夢華外150名発起者となり、1月4日、寧辺各里の代表者を寧辺邑内に集め協議する為め、「一進会長李容九が日韓合邦を声明したるは、君主を凌辱し、国権を無視したる極悪たるものとす。大韓民族は他の奴隷たるを甘受するものにあらず。由て明年1月4日、各宗の代表者は寧辺邑内に合同し、一進会の罪悪を討じ、韓国良民たるを明にせんことを議すべきに付来会せよ云々」との招集状を発したり。
依て、発起人を所轄警察署に召喚し取調たるに、発起者崔夢華は(附近に名望ある儒生なり)、憤慨の言辞を以て国家を滅亡すべき行動ある一進会を排斥すべく、多衆の賛同を得ば代表者を上京せしめ、逆賊一進会に極刑を加へらるる様、当局大臣に訴願するの決心なりと陳弁せり。
因て、其不穏当なる言動を戒め、多衆合同をなさざる様反覆訓諭するも、彼は只管悲憤の体度を以て、是非とも其罪を問はざるべからずと主張し、頑として応ぜず、遂に午後4時より翌午前2時に至る10時間に亘り、或は諭し、或は叱し、訓諭したる結果、漸く穏和の体度に復し大会をなすことを中止すべく確答したるも、民意のある所は其筋に訴願すべく主張したりと。

右及通報候也。



寧辺あたりは、12月22日のエントリー12月25日のエントリー12月26日のエントリー等、色々と騒ぎが多いのだが、それに追加。
1月4日に地方国民会を開こうとしたため、発起者崔夢華が所轄警察署に召喚され、10時間にも亘る説得の末ようやく中止を確約したが、民意のある所は其筋に訴願すべく主張、と。
で、この一件、中止を確約したにも係わらず、後日新しい紛擾を産んだりするのである。


長くなったけど、今日はこれまで。


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