前回若干触れた大韓商務組合所。
今日は、それに関する警察の報告から見ていこう。
1909(明治42年)12月14日付『警秘第366号』より。


中部壽洞普信社は、曩に社員2,000余名の決議なりと称し、一進会の合邦声明書に賛成の意を表し其旨同会に申込み、今又大韓商務組合長李學宰は、2、3日前役員を本部に会し討議の末、一進会の声明書に賛成することに決し、別紙の如き公函を送りたるに、同会は之を受領し其厚意を謝したりと云ふ。
以上の如く、商業団体にして濫りに政治に干与妄動するは穏かならざるを以て、所轄警察署に於て将来の心得方を戒告せり。
尚ほ、之と同時に学会其他社交団体に対しても、時局問題に干与する行動は一切不相成旨警告し、厳重取締るべく旨各警察署に示達したり。
右及報告候也。

○ 別紙

警啓者弊部は専ら商務発展を以て目的と為す団体にして、政治上に関渉無し。
而かも皇室の尊崇と民族保護の若きに至っては、政党たると他の団体たると少しも間あるなし向きに、貴会の声明書一たび出でて国民の声討四方に起れり。
弊部も此に対して疑無きを得ざりしが、内外諸新聞に喧伝せらるる所謂5條件なるものを見れば、実に千万古嘗て無きの大変なり。
貴会の声明書は、猶ほ晩しと為すと謂ふべきなり。
一般国民は、5條件を聞知せざりしが故に愛国の熱誠を以て貴声明書を声討したらんも、若し所謂5條件を聞知するの日は、必ずや齊しく貴会の為国事業を賀せんなり。
豈今日、国民の誤解を以て念と為さんや。
皇室の万歳尊崇の基礎を鞏固にし人民の一等待遇の福利を亨有すべき思想は、二千万同胞として孰れが日々に攢祝せざるものあらんや。
弊部も京郷の商務組合人員、殆んど300万に近し。
貴声明書中皇室の尊崇に対し并力賛成し、共に国民の福利を亨けんとす。
今日国民声討の橫議を排却し異日国民の活躍を期待せん為め、茲に仰ぎ怖し貴会と協力して文明に共進せんことを祝す。
照亮せられんことを要す。

隆熙三年十二月
大韓商務組合部長 李學宰
金世済
趙悳夏等三十三人
一進会長 李容九 閣下



前回の大韓商務組合所だけではなく、中部壽洞普信社も社員2,000人の決議であるとして一進会支持に回ったと。

大韓商務組合部長李学宰は、11月5日のエントリーで取り上げた1909年(明治42年・隆熙3年)12月4日付『警秘第4107号の1』でも報告された通り、臨時国民演説会で「一進会を問責す」という演説をした人物。
その時に、「この後、李学宰は一進会支持に回り組合員と一悶着あるのだが、これは後に取り上げる事となるだろう。」と書いたわけだが、その発端がこの公函ということになる。
自分で伏線張っておきながら、ググらないと忘れてしまう所だったのは内緒。(笑)

で、警察は、国民大演説会に代表されるような合邦反対派だけではなく、一進会支持者も取り締まる方針であったようである。
商業団体が政治に関与するのは不穏当であると。
学会については、三派合同で西北学会が表に出てこなかったように、学会令第五條の「学会は、営利事業を為し又は政治に関渉することを得ず」という縛りが元々存在している。
商業団体やその他の社交団体に対する規制があったかは不明だが、考え方としてはそれに準じるのだろう。

そして、公函の中で盛んに述べられている「5條件」。
これは、10月28日のエントリーで紹介した曾禰荒助の統監就任5条件の事だろう。
まぁ怪しい話ではあるのだが、その5条件よりは一進会の合邦声明の話の方がマシだという理由で賛成しているわけである。
5条件の記事も合邦声明も、内田良平が裏にいる噂は出ているわけですがね。(笑)

それにしても、唐突に合邦賛成に転じた感も無くは無く・・・。

さて、次で14日付けの史料は終了。
前回、「話の流れ上少し後に出てきます。」としておいた『憲機第2438号』も載っている集報、1909(明治42年)12月14日付『機密統発第2061号』より。


憲機第2341号、同第2432号、同第2435号、同第2438号、同第2444号、同第2447号、同第2448号并に警秘第4315号の1、別紙為御参考供閲覧候也。

○ 別紙一 憲機第2341号

国民大演説会々計課長芮宗錫・庶務課長鄭應卨(咼の上にト)・交渉課長文鐸以下十数名の役員、11日午後1時頃より其事務所に集合し、会務其他の事項に就き協議する処ありし由なるが、其重なるは去る10日提出せし上書に対し一進会に何たる処分の為さざるに於ては、公然裁判所に訴出して、以て一進会の罪責を明かにせんことを議し、先ツづ韓人弁護士李免宇・張燾・洪在祺・丁明燮・太明軾の5名を同会に聘し、今回一進会が声明書を発表して政体を変更せんとせしこと、并に民心を動搖せしめたること等研究せしむるに決せりと云ふ。
以上。
明治42年12月13日

○ 別紙二 憲機第2432号

国民大演説会発起者の一員たる国是遊説団幹事高羲駿は、10日午後9時頃同団員姜燁・張基濂・厳柱憲等重なる役員7、8名を自宅に招き、大要左の談話をなし、結局国民大演説会より大会し、遊説団の拡張に専心せむことを協議せし由なるが、1、2異論を唱ふる者もありしも、大体に於て高の意見に賛成せりとのことなれば、近日中に国是遊説団員等は国民大演説会会より脱会するに至る可しと。

今回一進会声誅の目的にて国民大演説会に賛同し著々其歩を進めつつありしも、突然官憲より言論集会を差止められ活動し能はざる而已ならず、一進会に反対するものは官憲に於ても所謂排日派の如く注目するを以て、唯一の目的たる我国是遊説団の将来に及ぼし影響少からざるべし。
且つ曾禰統監が、曩に我団の拡張費として与ふべしと予定せられたる一万円の金も或は取止め、我団の解散するやの意向なりとの説専らなれば、李首相等より幾百円の運動費を貰ふよりは、却て統監府側に接近し団の維持のみに心を傾け、統監より一万円の金を貰ひ分配する方得策なれば、此際李首相等の依頼を拒絶し、国民大演説会を脱せん云々。
以上。
明治42年12月13日



国民大演説会は、裁判所への提訴を考えて研究を始めた、と。

一方、発起者の一人だった高羲駿等国是遊説団の主なる者は、官憲に言論集会を禁止された事及び排日派と目せられる事から、国民大演説会から脱会する事になるだろうと。

統監からの拡張費として交付される予定の一万円については、詳細不明である。
取りあえず、曾禰統監から貰う予定の拡張費が取り止めになるかも知れないから、李完用の工作費を貰うよりは統監府側に接近して一万円を貰った方が良いと。
どうやら、李完用が11月21日のエントリー等で見られた、国是遊説団への買収の噂は、額は兎も角として事実のようである。

まぁ、10日の時点で曾禰は、11月18日のエントリーの『往電第39号』に見られるように一進会の合邦宣言に対しては否定的なんだけどなぁ。(笑)


○ 別紙三 憲機第2435号

京城新報社長 峯岸 繁太郎
大韓日報社長 戸叶 薰雄
朝鮮日日新聞社長 今井 忠雄
外2、3新聞記者

右之者等、2、3日前より大垣丈夫の非行に関し寄々密議を凝らしつつありし由なるが、近日中大垣を退韓せしむる様、其筋に申請する筈なりと。
以上。
明治42年12月13日



うーん。
「大垣丈夫の非行」とあるからには、恐らくは李完用による買収工作の話絡みなのだろうと思われるが、詳細不明。
11月18日のエントリーで見られたように、自分等抜きが気にくわなかったりして。(笑)
ま、ここでは素直に、そういう話があるよという事で。


○ 別紙四 憲機第2438号

大韓商務組合部長 李學宰
前参領 趙悳夏
前郡守 呉承根
前主事 李台夏
前主事 楊禎
前参奉 金世済

右之輩等、一進会の合邦声明書に対しては公然反対運動を敢てせざるも、陰然其反対派に同情を寄せ居りしが、今回突然警視庁より不穏の言論集会等、治安に妨害ありとて差止められたるを見、官憲は陰に一進会を擁護し居るが如く臆測し、同会に反対するは不利なるものと思料し、一昨日来一進会合邦声明書賛成同志会なるものを組織し、同会に声援せんとの趣旨にて秘密に其会員募集中なるが、入会者は名簿並に署名捺印せしめ、趣旨書及会則等は李學宰其起草の任に当り居れりと。
明治42年12月13日



これが、前回出てきた『憲機第2438号』ですな。
一進会の賛成に回ったのは、言論集会が差し止めになった事に対して官憲が一進会擁護だと思ったから、と。
勝手な憶測で判断するのは、賛成派も反対派も現代韓国人も変わりませんなぁ。
つうか、官憲が一進会擁護だとしても、わざわざ賛成同志会とか作っちゃう辺りがアレなわけですが。(笑)


長くなったので、『機密統発第2061号』の途中ながら今日はこれまで。


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