宋秉畯入閣の話も今日でお終い。
それでは、前回日韓親善の方針を述べた場面から、引き続き『1.政況/6 韓国新内閣大臣ニ對スル伊藤統監ノ演説(レファレンスコード:B03041513400)』を見ていこう。

【13画像目】

伊藤統監
可なり。
自分は何処迄も人を欺かざる以上は、人の自分を欺くを甘受することを得ず。
其の辺は諸君に於ても充分考へ置かれたし。


各大臣
了承。



内閣は欺かなくても、皇帝が欺き続けてるわけで。(笑)

【13画像目】 【14画像目】

伊藤統監
直言すれば、韓国の進歩を図るは時機既に後れたり。
然れども、目下の形勢に於て御互に全力を尽して、富源の開発を図らざるべからず。
富源の開発を図るは、固より政治政略に依らざるべからずと雖、其の実を挙ぐるに至ては単に政略をして成功するものにあらず。
農業・貿易・運輸・交通の発達には総て、相当の資力を要す。
諸君は先づ其の決心を固ふし、恐怖心を去りて借款を起すの勇気なかるべからず。
縦令借款を起すも、其の利息を満足に支払へば則ち可なり。
日本の国債を見られよ。
その額実に巨大なりと雖、我等は決して之を恐怖せず、又之が為に屈伏もせざるなり。
故に諸君は、予め韓国の安全と富源開発の為には借款を起すの覚悟を要す。
次に人を用ふるに方りては、徒に親戚故旧に私するの弊を去り、公平なる態度を以て政府の主義方針を充分に了解し、私心を去りて公事に尽すの心掛けある士を選ばざるべからず。
学識経験等総ての点より観察して、適当なる多数の韓人を得ることは固より困難なるべきも、可成公正の心事を有する人物を採用せざるべからず。
要するに、各大臣互に候補者の交換的推薦を為して、縁故あるものを能否を問はず任官するが如き弊は、飽迄之を断絶せざるべからず。



清の洋務運動、日本の明治維新等の時機までは行かなくとも、甲申改革・甲午改革・光武改革など、改革のタイミング自体はあったのに総て自らの手で潰したからなぁ・・・。

それは兎も角として、今後富源の開発と農業・貿易・運輸・交通の発達には金が要るので、借款する事を恐れてはいけない、と。
韓国内閣更迭始末の冒頭にもあるとおり、この時点で国債報償運動が既に始まっており、それに萎縮するなという話だろうと考えられる。

次に、官吏の縁故採用を止めて、成るべく公正な人事を行え、と。
これは単純に李氏朝鮮・大韓帝国の旧弊に根ざすものであって、当然の話ではある。

【14画像目】 【15画像目】

各大臣、互に論議したる後


李参政
韓国は由来農商工の実業を賎み、人皆競ふて官吏たらんことを望むの弊あり。
故に、一人其の選に当れば他人はその適否を批評して止まず。
要するに韓国には人物少し。
若し人物あれば今日の如き情態には立至らざりしならん。
然れども、今更此の如きことを言ふも其の詮なし。
可成公心を持し、私心を擲つものを選むことに力むべし。



実業を軽視し、皆競って官吏になろうとする弊害。
官吏に就いていない両班は、単なる就職浪人である。

「俺は音楽で飯を喰っていくぜ!」と売れないバンドを続け、且つ労働どころかアルバイトもしない状態に近い。(笑)
それでいて、売れてるバンドに対して「あんなの音楽じゃねーよ!」等と批評すると。
一方で、実際下手でも時代に合わなくてもコネさえあればデビューできる、と。
状況を例えるとこんな感じ?(笑)

それは兎も角、韓国には人物が少なく、もし居れば今のような状態にはなっていない。
今更愚痴を言っても仕方ないので、なるべく公共心を持った者を選ぶように努力すると答えた訳である。

【15画像目】 【16画像目】

伊藤統監
然り。
出来得る限を尽して可成有為の人物を採用し、悪事を為さしめざる様注意せざる可らず。
悪事を為すものは単に韓人のみならず、日本人中にも決して少なからず。
此等は退韓を命ずるも可なり。
又、日本人中或は韓人と共謀して、悪事を為すものなきに非ず。
各地方には既に警察官、財務官、理事官、副理事官、法務補佐官等あれば、韓国官吏と協力して悪人を処罰し、他人をして此に懲り、其の罪悪を再びするが如きことなき様注意せしむべし。
若日本人の悪事を為すことあれば、諸君は遠慮なく之を自分に告げられたし。
自分は断然たる処置を施すに躊躇せざるべし。



官吏が悪事を行えば、政権批判に繋がる。
日本人が悪事を行えば、排日運動は拡大する。
当たり前の話である。
特に、日本人で悪事を為す者は退韓命令を出しても良い、と。
日本人官吏と韓国人官吏の協力によって一罰百戒を目指し、日本人が犯罪を犯せば遠慮なく伊藤自身に言えと。

まぁ、こういう経緯を経て、伊藤は韓国寄り過ぎると批判されていくのですな。

【16画像目】

李参政
罰は、懲戒して他を警戒するの道なり。
公正は、人民を帰服せしむるの道なり。
閣僚、孰れも此の意を体して、邦家の為充分尽力することと自分は信じて疑はず。


伊藤統監
縦令緊急問題の有無に拘らず、今後は1ヶ月に2、3回相互の意見を交換する為に、此処に集会することと致すべし。
緊要問題は政治上の公務なるが故に、何時なりとも差支なし。


李参政
(各大臣と協議したる上)了承。
定日を設け、1ヶ月に少なくとも3回会合し、その他は臨時事件の生じたるときに会合致すこととすべし。



この会合の議事録、残ってないかなぁ・・・。
かなり面白いと思うんだが。

【16画像目】 【17画像目】

伊藤統監
自分の方は、各大臣個々別々に来訪せらるるも更に妨げなしと雖、皇帝陛下の御性質は自分に於ても熟知し居る所なるが、諸君も充分注意せられ、閣僚に秘して単独に種々なる進言上奏を為し、互に君主の聡明を掩ふが如きことなき様、諸君の間に堅く約束せられたし。


李参政
其の事に関しては、昨日自分より陛下に奏上せり。
即ち、内閣より一部の事に就て上奏せんとするときは、参政、当局大臣を同伴謁見して進言し、陛下より一部の事務に関し当局大臣を召見せらるる節も亦、参政同伴することと定めたり。


伊藤統監
頗る可なり。
併ながら、斯かる約束のあるに拘らず当局大臣一人を召されたる節は、其の都度御約束に背けることを直言し、陛下をして之を悛めしむる様努めざる可らず。


李参政
左様致すべし。



高宗の性格。
一部を持ち上げたり、互いを疑心暗鬼に陥らせたりという陰謀防止かな?
ということで、高宗には一人で謁見せず必ず李完用同伴で行い、且つ一人だけ呼ばれた時には、約束違反を直言して戒める、と。
高宗を知らなければ、「お前等、皇帝に対してちょっと酷くないですか?」と思う所ですが。(笑)

【17画像目】 【18画像目】

各大臣互に論議す。


李参政
昨日より既に其の事を実行せり。
昨日、御前会議の後、陛下より法部大臣のみを召されたるが故に、法部大臣は直に其の約束に違いたるを言上し、自分と共に特別拝謁を為せり。


伊藤統監
然るが此の事は、自分より諸君に対して斯く明言せる旨を参政大臣より陛下に上奏せられたし。


李参政
了承。



つーか、伊藤から言われる前に既にやってました。(゚∀゚)

おまけで、「俺も明言してたって言っとけや」と。(笑)

【18画像目】 【19画像目】

是より伊藤統監は、謁見始末及大臣会議記録を各大臣に示して、自分の陛下及各大臣に対する言論は一々之を筆記せしめて、斯く大部なる記録となし、我が皇帝陛下に奏上すると共に其の写を内閣総理大臣に送付して、日本の陛下と内閣の間に誤解なからん様、力めつつあり。
此の記録は、諸君に対して秘密に付すべきものに非ざるが故に、何時にても高覧に供すべしと述べたる後、本日の談話は此れにて止むる旨を告げ、更に閣僚一同疑心を去り、誠実に国事に盡力すべき旨を勧告す。

李学相
全国に亘りては、或は日本に対し疑心なきを保せず、併しながら自分等に於ては決して疑念なし。
御安心を請ふ。


任内相及高度相
啻に疑心なきのみならず、我等は一に閣下に信頼し居れり。



先に紹介済みの『韓国内閣更迭始末』は、この時韓国新内閣に公開された。
大臣会議記録については、現在紹介しているものなのか、他に史料があるのかは不明である。

【19画像目】 【20画像目】

伊藤統監
農商工大臣に向ては、特に一言致度事あり。
大臣中、政党に関係を有するものは単に貴君1人なり。
既に閣班に列したる以上は、一進会の勢力を利用して内閣を脅迫するが如きは、自分に於て決して之を許容することを得ず。
自分は固より一進会を退けよと云ふに非ず。
今日より其の責任の異りたるを自覚せざるべからず。


李参政
其の事に関して、自分は予め農商工部大臣と熟議せり。
一進会の勢力を籍りて内閣を拘束せざることに関しては、既にその証言を取り、互に意見の一致を見たる上にて推薦したることなれば、今後若斯の如きことあらば、自分は同大臣を責め得るの位地に在り。


伊藤統監
人は、其の意見を異にせるが故に妙なりと雖も、一致すべき所は固より一致せざるべからず。
若諸君中、互に面あたり言明し難きことあれば、遠慮なく自分に告げられたし。
自分は、其の衝に当て解決の労を執るべし。


李参政
(微笑しつつ)左様なることは此の政府には、なき積りなり。


伊藤統監
(同く微笑しつつ)若あれば、相済まぬ事なり。


是より一同食堂に入る時に午後一時。


(以下略之)



ここで伊藤から宋秉畯に一言。
入閣した以上、一進会の勢力を利用して内閣を脅迫するような真似したら、許さないからな、と。
ついこの間まで、政府批判を繰り広げていたわけで、当然と言えば当然の忠告である。

つうか、宋秉畯が伊藤の後押しで入閣したというのは、表現としては確かに間違えていないのだろうが、ニュアンスとしてはかなり違う気がするわけですが・・・。


この後宋秉畯は、内部大臣職を経て宋秉畯・魚潭争闘事件を引き起こす事になるのである。


(完)


宋秉畯入閣(一)
宋秉畯入閣(二)
宋秉畯入閣(三)
宋秉畯入閣(四)
宋秉畯入閣(五)
宋秉畯入閣(六)
宋秉畯入閣(七)