アレックス・カー著「犬と鬼」より

1694年、芭蕉は生涯最後の旅に出発した。
これは彼にとって最も大がかりな旅になるはずだった。
伊賀上野から大阪に向かい、門弟たちに会ってその争いを収め、
俳句の世界を正道に戻すつもりだったのである。
しかし、ことはそう運ばなかった。
旅の途次に病を得て、なにもできないまま息を引き取ったのである。
弟子たちが枕元に集まると、芭蕉はこんな辞世の句を詠んだ。

旅に病んで
夢は枯野を
かけ廻る

60年代以降、史上まれにみる経済成長に力を得て、
日本は栄光ある未来を目指して旅に出た。
続く数十年間に古いものが一掃され、それに代わって
輝かしい新世界があらわれると信じて疑わなかった。

ところが、どこでどう間違ったのか、旅の途中で病に倒れた。
輝かしい新世界など、いつまで経っても現れはしない。
香港のような華やかな未来都市にも、
シンガポールのような庭園都市にもなれず、
クアラルンプールやジャカルタにさえなれなかった。
あるのは枯野だ。
アルミ、「日立」の広告、屋上のボックス、看板、電線、自動販売機、
無機質広場、キラキラ照明、プラスチック、パチンコ屋、
水平線の彼方まで、夢は枯野をかけめぐる。

「犬と鬼」(p.220~p.221)


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福島第一原発、東京電力、JR北海道、みずほ銀行、東京都大島町の役人、
みのもんた、おバカな番組ばかりの地上波TV、朝日新聞、民主党、
ビールもどき炭酸飲料、産地偽造食品、ブラック企業、はだしのゲン、
後手後手のストーカー取り締まり、いじめ、後を絶たない役人の公費横領、
・・・・・、枯野ばっかりである。


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