Alberto Angela(アルベルト・アンジェラ)が

2010年に発表した"IMPERO(イタリア語で「帝国」)"

の日本語訳が、ようやく出版された。


日本語版の題名は、

『古代ローマ帝国 1万5000キロの旅』だ。


古代ローマ1万5000キロの旅/アルベルト・アンジェラ
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ウルペンのドリームピラミッド-Alberto Angela

<著者のAlberto Angela>(イケメンです!)


この「帝国」は、「古代ローマ帝国」のことだ。


著者のアルベルト・アンジェラ氏は、

2007年にイタリアで出版された

前作の『古代ローマ人の24時間』で

文字通り、トラヤヌス帝が統治していた

紀元115年の古代ローマ帝国での

人々のある火曜日の一日の生活を

克明に描いて見せたのだが、

今回は前作の翌日の水曜日から始まり、

ローマ帝国全土を旅するという設定だ。


トラヤヌス帝の時代、古代ローマ帝国は

最も栄えた時代であり、歴史上最大の領地を

誇っていた。

北はイングランドから南はエジプトまで、

東はポルトガルから西はアルメニアまで。


この広大な帝国を読者は、ある物と一緒に

旅することになる。

そのある物とは、青銅製のコイン、

「セステルティウス貨」で、現在の貨幣価値だと

約250円相当の少額コインとなる。


金貨でもなく銀貨でもないということは、

このコインが様々な人から人へと渡っていくことになる。

奴隷や娼婦、商人、軍人、泥棒、貴族、船長などなど。


お金が人から人へと渡る(お金が支払われる)

ということに注目したこの著者は、

歴史的事実と歴史学的推察をベースに

前作同様、その時代をきめ細かく描写していく。


出だしのエピソードは、

ある身分の高い人物の奥方が

下町の雑踏を駆け抜けながら

ある魔女の元へやってくるところから始まる。


彼女は、政略結婚させられた夫が嫌いで

既にある男性と不倫の仲だという。

彼女は、この魔女に夫の髪の毛と爪を渡し、

夫を呪い殺して欲しいと頼むのだ。


話は、そこからいきなり「セステルティウス貨」の

製造現場へと飛ぶ。過酷な労働環境で

奴隷たちが「セステルティウス貨」を汗水たらして

鋳造している場面だ。

その中に、1枚だけ少し切り欠けが生じたものを

監督官は見つけたが、「まっ、いいか」と

そのまま完成品の袋の中に入れてしまう。


オープニングの女性はどうなったのか?

その夫は死んだのか?


これらの疑問は、最後の最後に

めぐりめぐって解かれることになる。


場面は、続いてロディニウム(現在のロンドン)へと

飛ぶ。鋳造されたコインを現地の司令官へと

持参する場面だ。


現地の司令官は、コインの袋が届くや否や

中身を空けてチェックしていたのだが、

その中にあの不良品のコインがあった。


司令官は、運んできた騎兵小隊の

第一小隊長を呼び、

それを見せながらも労をねぎらい

ワインで歓待する。


帰りがけに、そのコインを第一小隊長の

手の中に押し込んで、

「これは私からのお礼だ」と言う。


第一小隊長が部屋から出て、手のひらを広げてみると

例のコインと重なるように銀貨がそこにあった。

司令官の心憎い気配りだ。


第一小隊長は、翌日、領地の最北端、

ウィンドランダ(現在のチェスターホーム)へと赴く。

そこで、現地の女性と恋に落ちて深い関係となる。


第一小隊長は、そのウィンドランドの

公共浴場に行く。

そこで、あのコインが・・・。


とまぁこんな具合に、コインと共に

読者も当時のローマ帝国のアチコチを

旅することになるのだ。


登場人物の名前や役職は

歴史的に忠実に記述してあり、

パン屋さんや洗濯屋、娼館、大浴場など

様々な場面での描写にリアリティがある。


ほんの一例だが、

商店などの扉は、全て内側に引いて開ける

ようになっていたという事実もある。

扉の外は「公道」であり、そこへ出入り口の

扉といえどもはみ出してはならぬという

法律があったからだ。


というわけで、

久しぶりに面白い歴史本と出会った次第だ。