我々は王たちと話してはいけない、もしくは、

我々は何が彼らを喜ばせるかについて

言わなければならない。


by イソップ


第一章:

クソは下流へながれていく、但し永遠ではない


ものすごい流血騒ぎの起業合併の後、

まさに「誇り高き二つの会社が一緒になる」と言い、

かろうじて生き残った、買収された側のCEOは、

非常に多くの事業を手掛けた彼の将来は

サービスが鍵だという一つの分析を行ったが、

今やそれらの事業をを所有している

優秀なヘッジファンドの経営陣によって、

彼の企業規模が問題だと注意される前に、

彼はそれらの事業を手放すこともできたのだ。


単に企業年金、福祉関連と他の従業員関連の経費を

最小にすることを目指す会社のために、

そのようなことをするコスタリカのサービス会社、

あるいは既存の実体組織を借りることによって、

いくつかの内部の機能を

オフショアで管理させることができると、彼は閃いた。


「シティグループの連中がやったように、

私は1トンものお金を節約させることで、

新任のボスにとってのヒーローになれる」と、

彼は考えたのだ。


しかしながら、多くのCEOのように、

この特定の役員は

経費削減の熱心なファンだったときも、

彼自身実際に人々を解雇することを嫌った。


したがって、彼は自分に代わって厄介な仕事を

引き受けてくれる人材として

外部から必殺仕事請負人を雇うと決心した。


そこで、元マッキンゼーの実務経験者(operative)を

雇い入れて、

彼にCheif Operating Officerの役職を与えた。

このCOO自身、非常にコストがかかった

(彼の給与、ボーナス、長期補償、および

全部で数百ものより小さな仕事に匹敵する役得のために)。


彼は終油の秘跡(*)のために

法律、会計、広報、イベント計画、オフィス・サービスと

以前統合したいくつか他の部門を

真っ先にターゲットとした。


しかし、彼は総料理長(訳注:CEOの比喩)をいたわり、

「ここは、ずっと太り過ぎでした(金食い虫だった)」と、

CEOに話した。


そのCEOは、彼がクソで一杯(大ほら吹き)だと

感づいてはいたが、彼の熱意を称賛することで

結局は彼の報酬を正当化してしまった。


「この人は、本当にやり手なんだ」と、

CEOは自分自身に言い聞かせた。


「が、できることならとっとと彼を殺してやりたいよ、

彼の周辺のどんな生態系にとっても

非常に危険だからな」


金曜日の午後(会社が伝統的に「ゴミを出す」とき)遅くに、

CEOと彼の必殺仕事請負人は、

彼らのあらゆる事業を一度に再編する計画を

実行する予定だった。

それは、メディアへの露出をできる限り

最小限に抑えるためでもあった。


リストラが発表がされることになっていた日、

CEOは、

それぞれの地域を担当している幹部社員を

自分のオフィスに一人ずつ呼んで、

彼らが失業手当を得るために必要な手続きを

説明した後に彼らを解雇した。


その結果、多くのすすり泣く声と歯ぎしりが

ビルの中の至る所で聞かれるようになった。


そこは、

かつては数百人もの立派な魂のための建物だったが、

今では、そこに住んで仕事を管理し、

プロバイダーを外注している亡霊が住んでいる

ゴーストタウンよりも小さくなってしまった。


「今は、厳しい時代なんだよ」と、

CEOは呼び付けた彼ら一人一人に言った。
「そして、厳しい時代には、

難しい解決案が求められるんだ。
君の貢献には感謝しているよ。

今すぐ、このまぬけをここから放り出してくれ」


実際には、CEOはこうは言わなかった。

しかし、これは、正直、

彼が言わんとしたことだった。


会社が次期四半期をきちんと管理することに

それほど熱心でなかったとき、

事業背景の長期的傾向を図式化するために

雇用されていた人々として

一度くらいはその役目を果たしていたグループの

唯一のメンバーだった戦略的プランナーも、

こんな風に判断するために呼ばれた中の一人だった。


このプランニング野郎は、抜け目のない男で、

長い間、目立たないようにこっそり働いていた。

彼は、必殺仕事請負人に向かって

己の優れた実績に免じて

自分の命を助けるように本気で嘆願した。


経営陣の真新しい多くの名刺を一緒に

束ねながら、「Dude(なぁ、あんた)」と、

大げさにサーファーなまり丸出しで

彼は切り出した。


「あんたは、この俺を放り出すことはできないよ。

ここはさ、計画実行について

日常的に熱心に取り組み、ちゃんと理解していないと

何もないと同然ってとこでさ。


俺を雇用する権利を行使して、

俺の付加価値を示す機会をくれないかな。


それに、俺は弁護士じゃないし、

財務屋でもない。
でもな、ウォートンを卒業生してから、KPMG(**)で

6年間も頑張ってたんだよ。


この買収劇を演出した交渉の助っ人だったんだぜ。

分かってくれよな。

いくつかの点で、俺たちは単なるコスト・カットよりも

収益を上げる必要があるんだ。

そのためには、俺が必要なんだよね」


ハーヴァード・ビジネス・スクールの卒業生だった

COOは、大声で笑いながら言った。

「確かに、君が言う通りかも知れないな、Fred(フレッド)」


「 しかし、君がそう思っているせめて半分くらい

賢かったなら、君はこんな風に

吸収合併の個人的な意味合いも理解できただろうな。

悪いな、Dude(あんた)。

You're toast (***君はお終いだ)」


6ヵ月後、全てのリストラが実行されたとき、

CEOは一言一句同じ言葉でもって

この同じ仕事請負人を首にした。


「なんというやつだ」と、CEOは次の補佐役を

探し始めながら、自分自身に言った。

その人材探しは、結局のところ、

ヘッジファンドの新たな彼のボスたちが

契約解除で1億4700万ドル費やしてでも

まだ優良な投資だと考えて

彼を放り出すまでに実現する時間はなかった。


「なんとたくさんの敗者だろう」と、

ヘッジファンドの役員たちは言い、

そして、彼らは昼食を取った。



教訓:死に方はそれぞれ違うにせよ、

同じ羽毛の鳥は一緒に死ぬ。


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終油の秘跡

カトリック教会が伝統的に認めてきた

七つの秘跡(神と人間とを仲介し、

神の恵みを人間に与える儀式)の中の一つ。


1.洗礼


2.聖体


3.婚姻の秘跡


4.叙階


5.堅信


6.ゆるしの秘跡、あるいは「告解」


7.病者の塗油(かつて「終油の秘跡」とよばれ、

臨終の人が受けるものというイメージが強かったが、

第2バチカン公会議以降、本来の意味が見直され、

より広い意味で病者に与えられる秘跡となった。)

ここでは、文脈からあえて「終油の秘跡」とした。



**KPMG

KPMGは、オランダを本部とする

世界148ヶ国にわたるグローバルネットワークに、

113,000人のスタッフを擁する

プロフェッショナル・サービスファーム(知的専門家集団)。


プライスウォーターハウスクーパース、

アーンスト・アンド・ヤング、デロイト トウシュ トーマツと並び、

世界4大会計事務所の一角を占める。


2007年のKPMG会員会社の合計収入は

$198億ドル(2006年から17.4%成長)。

KPMGには、監査、税務およびアドバイザリーサービス

(M&Aなど、企業による大型取引の判断や過程をサポートする)

の3つのサービスがある。


日本においては、

国際会計事務所としてはじめて日本進出を果たし、

現在では有限責任あずさ監査法人が

メンバーファーム(加入監査法人)となっている。



***You're toast

直訳すれば、「君はトーストだ」になるが、

口語で、「君はおしまいだ」という意味。

ここでは、「君は首だ」ということだ。

(こんがり焼かれたイメージからだと思うが、

英語の表現の面白さ!)



参考文献:『BINGSOP'S FABLES』

Bingsop’s Fables: Little Morals for Big Business/Stanley Bing
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