*~夢詩~*Hawaian dream*

*~夢詩~*Hawaian dream*

父についてハワイに渡ったお嬢様、カナコ。お嬢様の気紛れでその下僕となった男、ステファン。二人の間にあるのは主従関係か、それとも…。

父に着いてハワイに渡った自由気ままなお嬢様、カナコ。


何度も来ている場所。


見慣れた景色。


けれどいつもと違うハワイ生活。

そこにはカナコの人生を変える出会いがあった・・・。




四つ葉naughty servantを『1』から読む 四つ葉

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「貴女、本当にカナコ?」


若干驚いたように私を見るマヤコを見て、私はため息をつく。




「なによそれ。私達結構長いつきあいだと思っていたんだけど」



「いや、ちょっと驚いちゃって。まさかカナコがステフと腕を組んで現れるなんて」


確かに私はステフの腕に手を絡ませている。


それがそんなに驚くことだろうか。


「とにかく、いらっしゃい二人とも」




そう言って出迎えてくれたマヤコとハグを交わして、私達は家の中に入った。


「よくきたな」


「ティータイムを一緒にと思って。シフォンケーキよ」


奥から出てきたヴィゴに、ステファンが手にした包みを渡すのを見て言った。


「わかった。用意しよう」


心得たとばかりにヴィゴはキッチンに向かう。


「手伝います」


その後を追ってステファンもキッチンに消えると、マヤコと私はソファーに腰を下ろした。


「で、今日はどうしたの?何か話したいことでもあるんでしょ」


「どうしてわかるの」


「だって出不精なカナコが突然来るなんて、何かあったって言ってるようなものじゃない」


当たり前よ、とマヤコは笑った。


やっぱりマヤコにはなんでもお見通しなのだ。


「決めたのよ」


だから、以前マヤコにけしかけられてからずっと考えていたことを、彼女の前で口にすることに戸惑いはなかった。


「ステフのこと、パパに言うわ」


「へぇ。どういう心境の変化?」


「本気、なんだもの」


するとマヤコは一瞬だけ目を見開いて、それからふわりと笑った。


「安心したわ。頑張ってね」


あのパパが私の告白を素直に受け入れてくれる訳がない。


前途多難だわ、とつぶやいた私とは違って、マヤコは嬉しそうに私の手を取った。


「それにしても、急に決心するなんて、ステフと何かあったのかしら」


「ちょっとね。試してみたのよ」


「試す?」


「ステフの気持ちをね。予想以上に良い答えが返ってきたわ」


「彼は嘘は言わないわよね。真面目な人だもの」


「そうね」


彼の話をしていると、自然と口元がゆるむ。


そんな私を見て、マヤコは嬉しそうに微笑んだ。


そこへ、戻ってきたステファンが私たちの前にカップを置きながら言った。


「楽しそうですね、お嬢様。何のお話ですか?」


「貴方の話よ」


「私の?一体何を…」


少し照れたように笑いながら、ステファンは私の隣に腰掛ける。


「貴方と私がこういう関係だということよ」


そう言って、私はステフにキスをした。


後からやってきたヴィゴが、不思議なものでも見るかのように、目を細めていた。

その日からステファンは毎日私を抱いて眠るようになった。


どんなに遅く帰ってきた日も、どれほど疲れていようと、


まどろみの中の私にキスを落としてから眠りにつく。


時が経つにつれて、毎夜の儀式を私もどこか心待ちにするようになった。





私とステフの変化は周りにも伝わったようだった。



たまにカハラの自宅に帰ると、


世話をしてくれるメイド達のステフに対する態度もずいぶん柔らかくなった。



それはいつか、そう遠くない未来にパパの耳に入るだろう。


私のプライベートに踏み込まないパパだけれど、


今度ばかりはとマヤコも言う。




本気か、と問われたら?




その時ステフはどうするのだろう。




そして私は・・・・・・どうしたらいいのだろう。







***




「・・・さま?お嬢様?」


はっと我に返ると、ステフがじっと私を見つめていた。


「どうかなさいましたか?最近よくぼーっとしていらっしゃいますね」


私はため息をついた。


ステフのことが頭から離れなくて、


なんて本人を目の前にして言えるわけがない。


ステフの気持ちも、


今後のことも、


考えなければいけないことがたくさんある。


「誰のせいだと思っているの」


「どういうことですか」


相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、


ステフは私の前に膝をつく。


「何かお悩みならば、私にお話し下さい。お力になれるかもしれませんよ?」


「貴方のことで悩んでいるのよ」


「・・・私の!?」


よほど驚いたのか、ステフは目を丸くしている。


「ちょっと待って下さい、お嬢様。なぜお嬢様が私のことで悩まれるのです?一体何を悩んでいらっしゃるのですか?」


今までに聞いたことのないような早口でまくしたてるステフを見て、私は思わず笑ってしまった。


「笑わないでください」


ステフは眉間にしわを寄せて、私の顔を覗き込んだ。


「それで。私は何かお嬢様のお心を痛めるようなことをしてしまったのでしょうか」


「いいえ。全く」


「それならばなぜ?」


「・・・これは私の問題なのね、きっと」


「は?」


「なんでもないわ。ほら、貴方も早く紅茶を飲んで。出かけるわよ」


「お出かけですか?どちらへ?」


「マヤコに会いたくなったの」


「それはそれは。すぐに支度を。何かお持ちになりますか?」


「途中でカハラに寄ってちょうだい。カハラの家の近くにおいしいケーキを焼くパティシエがいるのよ。電話をしてすぐに焼くように言って」


「ですが、すぐに、というのは無理なのでは・・・」


「前にお願いした時は30分で用意してくれたわ。大丈夫よ。彼は私の注文に慣れているから」


「いつもそんな無茶な注文を?」


苦笑しながらそう尋ねるステファンに、私は笑って受話器を渡した。




カーテンの隙間から漏れる月明かりが、ベッドの二人をほのかに照らし出す。

先ほどまでとは正反対の静寂に包まれた部屋で、ステファンはカナコを見つめた。



気位が高くて、我が儘で。

オーナーのお嬢様なんて本来なら手の届かない存在であるはずなのに、今カナコはステファンの腕を枕に寝息をたてている。

一糸纏わぬカナコはそれそれでも十分に魅力的で、こうしているとまるで聖母のように見える。

けれどすぐに普段のカナコを思い出して、そんな自分の考えにステファンは苦笑した。


「カナコ…」

普段は呼ばない名を呼んで、その艶やかな髪を梳く。

いつものごとく、カナコは身じろぎひとつしない。

ステファンはその指をゆっくりとカナコの髪に滑らせる。


自分は彼女の恋人ではない。

お嬢様にとっては、たくさんいる男のうちの一人。

たまたま、今のカナコのお気に入りが自分なだけ。

だから、自分は従者としてカナコの期待に答えよう。

そう思っていた。


しかし、本当にそうなのだろうか。

今日のカナコは少し、いや、かなり不自然だった。

マヤコと何を話したのかわからないが、先ほどの暴挙がそれを物語っている。

カナコは、一体どういうつもりでああ言ったのだろう。

そして自分は…。


ステファンは気持ちを落ち着かせようと大きく息をはいた。

けれど、胸の高鳴りは抑えられそうにない。

一度抱いてしまえばもうただの付き人としては振る舞えない。

ただでさえ心の奥底に密かに眠るカナコへの思いをひた隠しにしてきたのだから。

それとわかっていたのに、ああ言われては止められるはずもなかった。

「カナコ…」

ステファンはもう一度彼女の名を呼んだ。

カナコの髪を一房掲げ、そこにキスを落とす。

起きている間は絶対にできない、夜だけの秘密の儀式だった。

「おやすみ、カナコ」

そう囁いて、ステファンは目を閉じた。

腕にかかるカナコの重みが、とても愛しかった。

マヤコの家を出てからマンションに戻るまで、私はステファンと一言も口を利かなかった。


そんな私の態度にも慣れたように話しかけてきていたステファンも、マンションに戻る頃には私がいつもと違うことに気づいたのだろう。


怪訝そうな、どこか不安そうな視線が何度も私に注がれているのがわかったけれど、私はそれを無視してベッドルームに向かった。




「おやすみになりますか?」

それには答えずにベッドに腰をかける。

視線をあげるとわずかに怒ったようなステファンが、相変わらずじっと私を見ていた。

「そろそろ返事をしていただけませんか、お嬢様。」

そう言いながらステファンは私の目の前に膝をついた。

そして困ったように微笑んだ。

「マヤコさんの家で何かあったんですか」

「どうして」

「お嬢様が何か悩んでいらっしゃるようでしたから。マヤコさんと何か真剣なお話をされていたようですし」

私は私に向けられる青い瞳をじっと見つめかえした。

『本気でしょう』

マヤコの言葉が蘇ってくる。

確かにステファンは今までの相手達とは違う。

一目で気に入って、そばにおいて。

マンションも車も与えて、近頃はずっとそばにおいている。

そうまで特別扱いしているのだから、私を知る人からすれば、彼が私にとってどんな存在なのか、一目瞭然ということだ。

でも、ステファンは…一体どう思っているのだろう。

我が儘なお嬢様に、弱みを握られているから仕方なく付き合わされているだけ?

無理矢理言うことを聞かせているようなものだから、ただ私に逆らえないからそばにいるだけ?


…確かめたい。

彼がどう思っているのか。


私に対する、彼の思いを。



「ステフ」

「はい?」

「貴方にとって、私は何?」

「…質問の意味が…分かりかねますが…」

私の問いが唐突過ぎたからか、困惑した瞳がこちらを見つめている。

私は立ち上がると、ドレスの肩紐に手をかけた。

「お嬢様!?」

慌てたようにステファンが立ち上がるけれど、私はそれを鋭い視線で一蹴する。

そして、唖然とするステファンの目の前で、私が着ていたドレスがひらりと床に落ちた。

「……っ!!」

ステファンが息をのむのがわかった。

私は下着姿のまま、彼に視線をやった。

「お…嬢様…」

「抱いて」

ステファンの顔色が変わった。

明らかに狼狽し、それでもその視線はじっと私を捉えている。

「酔って…いらっしゃるのですか?」

「……」

ステファンの問いかけには答えず、私は一歩彼に近づいた。

私を見るステファンの視線に密やかな熱がこもっているのを感じて、私は言った。

「選びなさい。今すぐ私の目の前から消えるか、それとも私を…」

言い終える前に、ステファンが私に手を伸ばした。

しかしその手は私に触れるか触れないかというところでふいに動きを止めた。

その様子にはステファンの葛藤がありありと現れていて、私は確信した。

だから、ステファンから視線を外し、どこか寂しげに、小さく呟いた。

「ステフは、私が…欲しくはないの」

ステファンが小さく喉をならした。

「そ、れは…」

「ステフ」

口元に湧いてくる笑みを抑えながら私が彼の名前を呼んだ時、ステファンが小さく囁くのが聞こえた。

「貴女が…欲しい…」

「ステフ…」

もう一度彼の名を呼んだ私の声はそのまま彼の唇に奪われた。

「私は貴女を……」

消え入りそうな小さな声だったけれど、その返事に満足した私は、覆い被さってくるぬくもりを感じて体の力を抜いた。

窓の外はとうに夕闇に包まれていた。

マヤコの家も昼間よりいくぶんか落ち着いた夜のムードになり、私とマヤコはシャンパンを片手にテラスのカウチに座っている。

マヤコの同居人たちとステファンは、中で何やらもりあがっているようだ。

目の前で海が引いては寄せるざぁっという音に酔いしれながら、私たちはしばらく無言で海を見つめていた。

「ねぇカナコ」

ふとマヤコが言った。私が視線で返事をすると、マヤコは薄く笑みを浮かべた。

「ミスターはステフのことを知っているの?」

パパには彼のことは何一つ言っていない。パパも聞かないし、お互いのプライベートには踏み込まない。それがいつからか私とパパの間では暗黙の了解になっている。

「今度ばかりは言わなきゃダメよ、カナコ」

それを知っているはずなのにマヤコがそんなことを言うので、私は眉を寄せた。

「もちろん、貴女が誰とお付き合いをしようとそれは貴女の自由だし、必ずミスターに言いなさいって言っている訳じゃないのよ。だけど今回は貴女だけの問題じゃないじゃない?」

「どういうことよ」

「貴女、本気でしょう」

「言ってることがよくわからないのだけど」

私はため息をついた。マヤコは一瞬その目を見開いて、それから穏やかに笑った。

「気づいていないの?傍から見てればあんなにわかりやすいのに」

「・・・・・・」

「今までの相手は皆カナコにとってはただの遊び相手でしかなかったものね。でも、彼は違うでしょう?」

「何を言って…」

「いい加減認めなさい。ここに来た時から、貴女たちは思いを交わし合った恋人同士にしか見えないわ」

「・・・・・・っ!!」

心臓が早鐘のように脈打つのを感じた。

「カナコの相手はミスターの後継者でしょう。早いうちにお互い気持ちを伝えておきなさいな」


私のパパは経営者だ。

私はその一人娘だから、私の夫となる人にはパパの後を継いでもらわなければならない。

けれどステファンはあのお店でも将来を期待されたチーフだ。

私のために、そこまでしてくれるのだろうか。

今だって私が無理やり言うことを聞かせているだけなのに、お店をやめてパパの後を継いで会社を育て上げていくなんて。

考えないようにしていた現実を突きつけられたような気がした。


私は言葉を失って、グラスに半分ほど残っていたシャンパンを全て口に含んだ。

程よいアルコールが私の中にしみこんでいき、私を心地よい酔いへと誘う。

それとともに私が心の奥底に仕舞い込んだ思いがいとも簡単に湧き上がってきた。

初めてステフを見たときにピンときた感情。

傍に置こうと決めたときの気持ち。

そして、今の私の彼への思い。

くらりと眩暈がして、私は手を頭にやった。


そんな私をしばらく眺めた後、マヤコは立ち上がった。

「さて、今夜もいい時間だし、もうそろそろお開きにしましょうか」

思考を遮られた私が恨めしそうにマヤコを見上げると、彼女は苦笑した。

「またいらっしゃい、ステフと一緒にね」

「・・・マヤコ・・・」

「そんな深刻そうな顔しないで。カナコらしくないわ」

「貴女のせいじゃない」

「・・・ごめんなさい。でも貴女には幸せになってもらいたいのよ。姉としてね」

”姉”とウインクを交えて言うマヤコに私も思わず笑みをこぼした。

「良い報告を期待してるわ」

「・・・期待に添えるように頑張るわ」

私が言うとマヤコは満足そうにうなずいた。

部屋の中に視線をやると、笑顔のステファンがこちらを見つめていた。

差し出された手に促されるまま、私は彼の傍へと歩いて行った。