「ラルは変わらないと思ったけど、やっぱり幼い感じがするわ」
「…違う軸の私の話だよね?。確かに今の私は…未熟だから、」
「もう!そうじゃないわ!それと、今のラルはマイナス思考ね」
ボッーとしていたラルの肩や傍には動物達が寄り添っている。
アリスはそれを遠めに見ながら、声を掛ける。
「マイナス思考…ね。ん」
ピィピィと肩に乗った小鳥がラルの頬に頬ずりする。
それにラルも応えるように頭を微かに撫でた。
「す、少しだからね、ラル?」
「…うん。…!、アリス、伏せて!!」
ボッーとしていたのが嘘のように勢いよく立ち上がったラルは、瞬時にアリスの傍に近づき、トンと軽くアリスの頭を押さえた。
軽くだったはずにも関わらず、アリスは地面にべったりと伏せてしまう。
驚いている内に、すぐ近くで銃声が鳴った。
「ちっ!役なしって、複数でしか来れないの!?」
応戦するように銃撃戦をするラルを何処か、アリスは他人事のように見つめていた。
ハートやクローバーの国でのラルは銃やナイフを、滅多に取り出さなかったが、今のラルは躊躇なく取り出し、役なしを殺していく、やはり変わってないと思っても変わっているのだ。
「このままじゃ…アリス!帽子屋領に飛ばすから!」
「え…って、きゃあああ!」
ラルが横に手を振りかざすと同時にアリスの真下に穴が現れ、アリスは暗い穴の中に落ちていく。
懐かしいと思うのは何故だろうとアリスは何となく、落ちていく中でそう思った。
今までのラルだったら、必ず一緒に落ちてくれた。
けど一度だけ、今のラルじゃないラルが一人でアリスを落としたとき、次にあったラルは身体中、ボロボロだった。
本人の望んでいない先を勝手に選ぶのはペナルティだと軽く笑ったラルがアリスの脳裏にチラついた。
「っ!駄目!」
アリスの声が真っ暗な穴の中に響いた。
「え?」
次の瞬間、気がつけばラルの頭上にアリスの姿があった。
下を見つめ時、引きつったラルの顔と目が合ったのはすぐのことだった。
―――――
「っ、いたっ」
慣れた手つきで包帯を巻くラルの口から、苦痛の声が漏れ、アリスは申し訳無さそうに頭を下げた。
「ごめんなさい!…結局、あなたの邪魔をしてしまったわ」
「いいの、アリスは私のことを思って行動してくれたのだから。むしろ、悪いのは私。アリスが他の時間軸の私と会ってることを知ってるのに、行き先を勝手に決めて、貴方を飛ばそうとした。ペナルティのことを知っていたんでしょう?」
「え、ええ…酷く、傷ついたラルを、知ってるわ」
「やっぱり…。けど、アリスが傷つかなくて良かった」
「…そこは変わらないわ」
「?」
首を傾げるラルにアリスは心が痛くなった。
望んだ先、アリスのラルの傍に戻りたいという望みは叶ったが、戻っても結局ラルは大怪我をしてしまった、それでもアリスを守りきったのだ。アリスには傷一つ、無かった。
いつかラルが言った言葉をアリスは思い出していた。
…―――
『アリスはユリウス様と同じくらい大切な存在だから。絶対に傷つけない、たとえ、どんな時でも必ず守るから』
…―――
何処か、寂しそうに笑ったラルを今でも思い出してしまう。
「ねぇ、ラル。どうして、私を守るの?」
「どうして?」
「ええ、だって今のラルと私はあまり面識が無いでしょう?守る意味はないわ」
「……私にもわからない。ただ…」
「ただ…?」
「守れ、守って見せろ。…恐らく、違う時間軸の私の感覚」
その言葉の真実が知りたくて、口を開いたアリスだったが、ふとラルの視線が外れたことでアリスは口を閉じた。
その視線の先を見れば、ユリウスがいた。
「…あーあ、怒られる」
「そうね、きっと…怒るわ」
「そうだね。じゃあ、また。アリス」
口ではそう言っているものの、ラルの目は酷く穏やかそうにゆっくりと歩いてくるユリウスを見つめている。
そして、傷だらけの姿で走り出した。
「ユリウス様!」
「ラル!!一人で行動す…なんだ、その怪我は!?」
「あ、えっと…」
「お前は、どうしてそう怪我ばかりするんだ!目を離せば、エース同様ふらふらと、傍にいればこんなことには…」
「え?」
「!、なんでもない!…まったく、いつも手当てする私の身にもなれ。帰るぞ」
「…はい!!」
嬉しそうに笑うラルの手を文句を言いながらも、引いていくユリウスにアリスはここも変わらなかったと何処か嬉しそうに微笑んだ。
end