この頃のルラの機嫌はすこぶる良かった。

しかし、反対に今度はスティングの機嫌が悪くなっていく一方で…。


順調に依頼も進め、今回の大武闘大会前には約束した件数を終われそうだ。



「ルラさん、随分と機嫌が良さそうですね、ハイ」

「ああ、レクターちゃん」

「ちゃん付けは止めてください、ルラさん」

「ふふ、ごめんごめん。あ、私依頼に…」

「!、ルラさん!お腹がすきました!」

「?、そうなの…?」

「ハイ、凄くすきました!」

「…うーん、じゃあ、何か食べに行こうか。スティングとローグとフロッシュも誘って。昔のように私が奢ってあげる。…私的には少し前のことなんだけどね」



彼らと過ごしたのは2、3日ぐらいだったが…ルラは鮮明に覚えていた。



「二人とも、あんなに小さかったのに…ああ、君たちも小さかったよね。七年もたってるなんて…今でも信じられないのよね。それに聞いた話じゃフェアリーテイルの皆は七年前のままだなんて。私は3年の月日がたってるのに…ふふ、こんなことを言ってたらみんなに早く会いたくなってきた」

「ルラさん」

「ん?…!ぎゃ!」



レクターがスッと指を指してきたと思えば、急にルラはお腹に圧迫感を感じた。



「なななな…」

「…ルラさん、」



何事かと、ルラは後ろを振り向けば、自分を思いっきり抱きしめるスティングの姿があり、ルラは一段と目を見開き、何とか離れようとする。

しかし、腕の力は一段と強まる。



「す、スティング!?え、なに抱き着いて…やめっ」

「なあ、賭けしねえ?」

「は…?、スティング…なにを急に…」

「今年も俺たちが大魔闘演武で優勝する」

「え…あ、はぁ。そんなのあるんだってね、頑張って」

「で、俺たちが優勝したら、ルラが剣咬の虎に加入すんの」

「はぁ……はぁ!?」



何言ってんの、とルラは目をパチパチと瞬かせる。

しかし、腕の力はまた強くなる一方で、流石にルラもただごとじゃないと思ったのか、後ろにいるスティングに手を伸ばし、ゆっくりと頭を撫でた。



「スティング」

「……」

「…ね、私はフェアリーテイルの一員だから。それは約束できないよ。わかってるでしょ?」

「…それでも、手放したくなんてねえ」

「う、うーん。ね、一度聞きたかったの、どうして…そこまで私に拘るの…?」

「……アンタが俺を救ってくれた。俺のことを初めて信じてくれた人だから」



切実そうにそんなことを言われてしまってはルラは動けるものも、動けなくなってしまった。

いつの間にか、レクターはいなくなっていて…恐らく気をつかったのだろう、レクターは頭がいい。

その為にこの場にいるのはルラとスティングだけになっていた。


ふと、ルラは三年ほど前のことを思い出した。



―――――



次々と目の前から料理が消えていく。

ルラは少しだけ顔を引きつらせ、しかし微笑んだ。



『食べるねー』



目の前にいた二人と二匹はピタッと動きを止めた。

そして申し訳なさそうにルラを見つめてくる。



『あ、違う違う!そういう意味じゃ…えっと、ほら!たくさん食べるから、驚いただけ!まだまだ、食べなさい!ほら、えっと…?』

『スティングだ!』

『ローグ』

『レクターです!』

『フロッシュ!』

『…そう、お腹がすいてるならいっぱい食べておきなさい。ここは私がきっちり奢るから。』



そうルラが言うと、嬉しそうにまた食べるのを再開する二人と二匹。

依頼をこなしていたルラが彼らと出会ったのは森で、道に迷っていた所をルラが道案内し、お腹を空かしていた彼らにご飯を食べさせていたのだ。

森で狩りをしていたようだが、やはり栄養が偏っていたようで今にも倒れそうだった。



『子供はたくさん食べなさいね』

『子供じゃねえし!』

『ふふ、私から見たら子供だよ。スティングくん』

『うっせえ!』

『ははは、元気だねー』



ポンポンと頭を撫でてあげれば、さらに嫌そうな顔をされた。

何となく、ナツ達の昔をルラは思い出した。



『さて…お腹いっぱいになったところで。今日は君たち、ホテルに泊まる?』

『『『『!』』』』

『ふふ、たまには身体を休ませないとね』







『なあ、俺が竜を倒したって言ったら、アンタ信じる?』

『アンタじゃなくて、ルラね。へー、倒したの?…ふーん、へぇ』

『なんだよ!ニヤニヤして!』

『ふふ、もちろん信じるよ。私は竜がいるって信じてるから。見たことないから強く言えないけど、君の目は嘘をついてない』

『っ!……ろ、ローグも、だ』

『へー、へー。ちなみに君たちの竜の名前は?』



あの時、ルラはナツのことで竜がいることを知っていた。

だからこそ、ルラは二人の少年の言葉を信じたのだ。



『…あんがと』

『?、ん…どういたしまして』






―――――――




思い出して、ルラは口元を上げた。



「…スティング!ご飯、食べに行こうか!」

「…は?」

「たくさん食べよ!私たちとローグたちとで!」

「る、ルラ?」

「約束ね…わかった、いいよ!けどね、今年はフェアリーテイルも参加するから優勝は諦めてね」



先ほどまで腕から抜けなかったのがウソのように、するりとルラはスティングの腕から抜ける。



「!、いや、俺たちが今年も勝つぜ!そしてルラさんは俺たちのもんだ!」

「はいはい。頑張ってー、さ、ご飯食べたら私も任務いこっ!」



彼の思いに目を背けてはいけない、今度こそ…自分の気持ちに嘘をつきたくないから。







ね、ミストガン。





end