「おいおい、あの剣咬の虎の双竜の隣にいるのって」
「噂の…。男か女かもわかんないんだろ?」
コソコソと話し声が聞こえる中、噂の的になっている三人は町を歩いていた。
一人は上機嫌に歩く『白竜のスティング』、もう一人は興味が無さそうに歩く『影竜のローグ』だ。
その間にいるのが…マントで全体を隠し、顔さえも見えないがそのマントには大きな剣咬の虎の紋章が刻まれていた。
「…随分、機嫌がいいね。スティング」
「ああ、嬉しくてしょうがないね。アンタが噂になってる」
「?……ローグ、説明頼んでもいい?」
「おそらく、ルラさんが”剣咬の虎”の一員として噂になっていることが嬉しいだと」
「……スティング、私は仮で…」
「関係ねえよ、今のアンタは剣咬の虎だ」
ニカッと笑ったスティングにルラはどうしたものか、と悩んでいた。
あの日、剣咬の虎のマスターに今まで世話になったお礼を込めて、どんな依頼もこなすことを約束し、時が来たら立ち去ることを約束した。
それまではルラは顔を出すこともフェアリーテイルの一員であることをやめ、ただ剣咬の虎の名声の為に働くことにしたのだが…
「なあ!ルラさん!ご飯、奢ってやるよ!今度は俺たちが、だ」
「……いや、私、お金あるよ?」
「なーにいってんだよ。あってもなくても、奢りなんだ、貰っとけって!」
「……………いや、あの、ローグゥウウ!!!!」
ずいずいとスティングが近づいてくるものだから、流石のルラも身に危険を感じたのか。
ローグの後ろに隠れる。
「…スティング、ルラさんを困らせるな」
「……ルラさん、なんで隠れんの?」
「み、身の危険を感じる」
「…ローグ」
「俺が隠している訳じゃない、スティング。落ち着け、お前はルラさんのことになると血が上りすぎる」
傍から見ればこの光景は異様なものだと、思うがルラにとってはかなりヤバい状態だ。
スティングは必死にルラを看病した一人でルラ自身、本当に感謝している。
しかし、だ。
目を覚ましたルラに発した第一声が悪かった。
『好きだ!愛してる!ルラさん!!』
ルラ自身、こうも直球に愛の告白をされたことはなく。
いや、確かにミストガンといい雰囲気になっていたことはあるが、お互いの為にこうやって愛を言ったことはなく、実を言うと…ルラはこういうことに慣れていない。
それにその時に動けなかったために、モロに抱き着かれてしまい、今では少し苦手意識がある。
最初なんて過去に助けた男の子だと思わなくて…酷く焦ったものだ。
「…ルラさんは俺のこと嫌いか?」
「え…いや、そんなこと。(いや、というか、記憶にある男の子と今でも思えないのが本音で、好きでも嫌いでも…)」
「そ、そっか!じゃあ、。ルラ…好きだ!!」
「ひっ、呼び捨てやめて!!!好きとか言わないで!!ごめんなさい!私、依頼に行ってくる!」
ダッシュでその場を後にするルラ。
スティングは追いかけようとするが、ローグに止められる。
「ローグ。邪魔すんなよ」
「それはこちらのセリフだ。ルラさんの邪魔をするな」
「…なぁ、ローグ。知ってるか?ルラさ、どんな依頼でもすぐに終わらせて。もう…半分はマスターと約束した依頼数を済ましてる」
「……」
「ルラ、嬉しそうに話すんだよ。……フェアリーテイルの皆に会える気がするって」
「フェアリーテイルは7年前から行方不明だ、そんなはずは…」
「ルラが戻ってきてんだろ、ありえなくはないぞ」
「…そうだな、しかし心配はない。今、ルラさんはここにいる」
「ああ…渡せねえよ、誰にも」
何処か、イラついているスティングを見ながら、ローグは少し息を吐いた。
二人がこうしている間にも…フェアリーテイルが帰ってきていることを二人は知らない。
end